光明星3号2号機 打ち上げ

光明星3号2号機

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/06 00:07 UTC 版)

打ち上げ

世界時2012年12月12日0時49分46秒(日本時間および平壌時間同日9時49分46秒)、北朝鮮の東倉里にある西海衛星発射場から、銀河3号によって打ち上げられ、9分27秒後の0時59分13秒に軌道に投入された。なお、打ち上げは北朝鮮の最高指導者金正恩第一書記衛星管制総合指揮所を訪れ、直接指揮したとされている[12]

銀河3号から分離した3つの飛翔体は、それぞれロケット第1段、ペイロードフェアリング、ロケット第2段と考えられており、黄海東シナ海フィリピン東方沖の事前に予告された海域に落下したと見られている。

光明星3号2号機打ち上げの時系列(2012年12月12日)[13][14][15][16]
時刻 (JST) 出来事
09時49分 46秒、銀河3号が西海衛星発射場から発射。
09時51分 アメリカ軍早期警戒衛星が発射を感知。SEWが日本政府に届く。
韓国軍イージス艦が発射を探知。
09時52分 ロケット第1段エンジン燃焼終了。燃焼時間2分40秒。
09時53分 白翎島上空を通過。
09時54分 自衛隊が航跡を確認。
エムネットで日本全国の自治体に発射の第1報を配信。
09時55分 Jアラート沖縄県の41市町村に速報を配信。
09時58分 ロケット第1段が辺山半島の西138kmの黄海に落下。
09時59分 13秒、光明星3号2号機が軌道投入。
ペイロードフェアリングが朝鮮半島の南西約300kmの東シナ海に落下。
10時01分 先島諸島上空を通過。
10時05分 ロケット第2段がフィリピンの東約300kmの太平洋に落下。
11時20分 北朝鮮の朝鮮中央通信が衛星の打ち上げと軌道投入の成功の第1報を放送。
光明星3号2号機
種類 人工衛星(諸外国からの認識は弾道ミサイル)
原開発国 北朝鮮
テンプレートを表示

打ち上げまでの経緯

朝鮮宇宙空間技術委員会は、12月1日12月10日から12月22日の間に、銀河3号を用いて光明星3号を東倉里にある西海衛星発射場から打ち上げると予告した[17]。なお、このロケットと人工衛星の名称は、前回の2012年4月に行われた発射実験の時に使われたロケットと人工衛星の名称と同じである。また、12月1日にIMO(国際海事機関)12月3日にはICAO(国際民間航空機関)に、銀河3号の部品の落下予測海域を事前通告し、前回の発射とほぼ同じ飛行経路をたどることが判明した。

これに対して日本政府は、発射された飛翔体が万が一日本領土に落下する場合に備えるために、森本敏防衛大臣同1日夜に破壊措置準備命令を発令し、12月7日破壊措置命令を発令した。これを受けて海上自衛隊は、東シナ海日本海イージス艦3隻(こんごう型護衛艦こんごうみょうこうちょうかい)を展開させ[18]航空自衛隊首都圏沖縄県の合わせて7箇所にパトリオットミサイルを展開させた[19]

また、韓国海軍も保有するイージス艦の全数となる世宗大王級駆逐艦の3隻を出動させて警戒と情報収集にあたり、アメリカ海軍も、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦3隻(ベンフォードフィッツジェラルドジョン・S・マケイン)とタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦1隻(シャイロー)の合計4隻のイージス艦と、ミサイル追跡艦オブザヴェーション・アイランドを黄海等に展開させた。アメリカ空軍弾道ミサイル監視機コブラボールを飛行させて、警戒と情報収集にあたった[20]

しかし12月8日に朝鮮宇宙空間技術委員会は「発射時期を調節する問題を慎重に検討している」として発射の延期を示唆し[21]12月10日になって朝鮮中央通信は、朝鮮宇宙空間技術委員会報道官の談話を引用する形で、1段目の操縦発動機(エンジン系統)に欠陥が発見されたと発表し、打ち上げ予告期間を12月29日まで延期したと伝えていた[22]

また、12月11日には韓国政府関係者が、北朝鮮はミサイルを解体している模様と発表し(発射後に大韓民国国防部報道官が発表の存在自体を否定)、日韓のメディアは発射が延期されたと見ていた[23]。銀河3号の修理が完了して発射されるまでに時間がかかる可能性についても報道されていた。このため、その翌日の打ち上げは意表を突かれた形となった[24]

ロケットの飛行経路

銀河3号は発射場から真南に、すなわち初期飛行方位角90度で打ち上げられた。

初期飛行方位角を軌道傾斜角と同じ97.4度(真南から西に7.4度)とすると、人口密集地である中国沿岸部上空を通過することになり、正常飛行した場合でもフェアリングが、トラブルが起きた場合にはそれに加えてロケット本体が、地上に落下して被害を出すおそれがある。これを避けるため、先島諸島など比較的人口の少ない地域の上空を通過して真南へ飛行したのち、第3段で西へ向かって斜めに加速することにより軌道傾斜角を7.4度変更したと考えられている[25][26]。ロケット3段目から搭載物(衛星)の切り離しが、通常の衛星の切り離しより早かったとする報道もある[27]

このようにロケット上昇中の飛行経路を曲げることはドッグレッグ・ターンと呼ばれている。日本などの成熟した技術を持つ国の打ち上げでは飛行経路上の人口密集地域や重要施設を避けるために一般的に行われている操作だが、実施には高度な誘導技術が必要不可欠である。

打ち上げ日時について

打ち上げ日時は、後述する通り北朝鮮が事前に通告した範囲の日付である。2012年は、北朝鮮を建国した金日成の生誕100周年であり[1]、また12月は、前年に金正日の死亡した月であり、後継者の金正恩朝鮮人民軍最高司令官に就任した月である。また、北朝鮮外務省報道官は、衛星の打ち上げを「金正日総書記の遺訓であり[1]、経済建設と人民生活の向上のために行った」と説明した[28]。このため、12月中の打ち上げは、4月の1号機の失敗を踏まえ、国内外に北朝鮮のスローガンである強盛大国を、現政権において示す狙いがあったと考えられている[29]

また、12月19日には韓国大統領選挙が控えているが、大統領選挙の直前には北朝鮮が通称「北風」と呼ばれる軍事的行動を起こす場合があり、今回もそれを狙った可能性がある[30]

さらに、韓国は羅老ロケットによる人工衛星自力打ち上げを2度失敗したのち、3号機(技術援助しているロシアとの契約により、成否にかかわらず最終機となる)の打ち上げを10月26日・11月29日の2度に渡って技術的問題で延期しており、これに先んじて人工衛星自力打ち上げを達成することにより、ロケット・ミサイル技術における優位を誇示する狙いもあったと考えられている[31][32]

ロケットの残骸の回収

発射翌日の2012年12月13日に、韓国軍が黄海上で、落下予測地点に落下した銀河3号の1段目の燃料タンクと見られる、「河(ハ・하)」とハングルで書かれた直径約1.6メートルの円筒形の残骸を発見した[33][34]。一旦は水深80mの海底に水没したが、14日午前に韓国海軍の潜水艦救難艦「ASR-21 清海鎮」と海難救助隊(SSU)所属の潜水士により回収に成功した。その後アメリカの専門家と共に残骸の分析に当った[35]。(分析結果については銀河3号を参照)


  1. ^ a b c d e f g h 人工衛星『光明星―3』号第2号機の打ち上げに成功 Naenara
  2. ^ a b c 北の衛星「はりぼて」か、箱形機械に不自然さ、YOMIURI ONLINE 2012年4月9日
  3. ^ a b 北の「人工衛星」は制御不能?…信号の形跡なし、YOMIURI ONLINE 2012年12月13日
  4. ^ a b 北の投入物体、地球を楕円形に旋回…韓国国防省、YOMIURI ONLINE 2012年12月14日
  5. ^ a b 北朝鮮ミサイル:「衛星」の電波信号確認されず、毎日jp 2012年12月13日
  6. ^ a b c d e f ミサイル:人工衛星「光明星3号」は成功したのか、Chosun Online 2012年12月15日
  7. ^ a b 北朝鮮「衛星」機能せず=落下まで数年-米専門家、時事ドットコム 2012年12月18日
  8. ^ a b c KMS 3-2 NASA NSSDC Master Catalog Search
  9. ^ a b 조선우주공간기술위원회 대변인 대답 Naenara
  10. ^ Successful Launch of Satellite Kwangmyongsong 3-2 Narnara
  11. ^ 北朝鮮:ミサイル発射成功を発表、毎日jp 2012年12月12日]
  12. ^ 正恩氏がミサイル発射命令=「今後も続ける」、聯合ニュース 2012年12月14日
  13. ^ 北発射…探知は5分後・住民伝達は通過6分前、YOMIURI ONLINE 2012年12月13日
  14. ^ 北朝鮮ミサイル発射:フィリピン沖に落下 沖縄上空を通過、毎日jp 2012年12月12日
  15. ^ 北朝鮮ミサイル発射 韓米当局の情報判断に問題点、聯合ニュース 2012年12月12日
  16. ^ ミサイル:北朝鮮、米本土到達の射程距離確保、Chosun Online 2012年12月13日
  17. ^ 北朝鮮がミサイル発射を予告 10~22日の間産経新聞 2012年12月1日
  18. ^ イージス艦3隻、佐世保出港…北ミサイルへ警戒、読売新聞 2012年12月6日
  19. ^ a b 破壊措置命令を解除=展開部隊撤収へ-防衛省、時事ドットコム 2012年12月12日
  20. ^ 10日から北ミサイル発射の予告期間 米イージス艦が黄海へ 日米韓で10隻態勢[リンク切れ]、gooニュース 2012年12月9日
  21. ^ 北ミサイル、「技術的問題」で発射延期示唆か、読売新聞 2012年12月9日
  22. ^ ミサイル発射予告29日まで延長…1段目に欠陥、読売新聞 2012年12月10日
  23. ^ 北朝鮮、ミサイル解体・修理作業入り 韓国政府筋明かす、朝日新聞デジタル 2012年12月11日
  24. ^ a b c 国連安保理、北朝鮮のミサイル発射を非難、THE WALL STREET JOURNAL 2012年12月13日
  25. ^ 北朝鮮の「人工衛星」の飛翔経路予測、lizard-tail studio 2012年12月10日
  26. ^ 北朝鮮、予想より高度だった打ち上げ能力:第3段が精密な軌道制御を実施、日経ビジネスONLINE 宇宙開発の新潮流 2012年12月13日
  27. ^ ミサイル:銀河3号の3段目に誘導操縦技術、Chosun Online 2012年12月14日
  28. ^ 北ミサイルの射程 1万3千キロ以上に拡大=韓国当局、聯合ニュース 2012年12月12日]
  29. ^ 金正恩氏、権威確立へ賭け…ミサイル強行の狙い、YOMIURI ONLINE 2012年12月12日
  30. ^ 韓国大統領選に「北風」 ミサイル発射で安保が争点に、聯合ニュース 2012年12月12日
  31. ^ 北ミサイルで韓国は10番目ロケット開発国の夢破れる?、聯合ニュース 2012年12月12日
  32. ^ a b 北朝鮮が「羅老」より先に成功? 屈辱の韓国政府、中央日報日本語版 2012年12月12日
  33. ^ ミサイルの残骸発見=1段目の燃料タンクか-韓国軍、時事通信 2012年12月13日
  34. ^ 韓国海軍 北朝鮮ミサイルの残骸を黄海上で発見、聯合ニュース 2012年12月13日
  35. ^ 北ロケットの残骸の分析作業に着手。アメリカのロケット専門家の参加、聨合ニュース 2012年12月14日
  36. ^ a b 北朝鮮の衛星、制御できず? 米報道、信号確認できず、朝日新聞デジタル 2012年12月14日
  37. ^ NORAD acknowledges missile launch North American Aerospace Defense Command Archived 2012年12月14日, at the Wayback Machine.
  38. ^ a b SATCAT Boxscore CelesTrak
  39. ^ a b 北朝鮮ミサイル発射 米NORAD、衛星の軌道進入確認、朝日新聞 2012年12月12日
  40. ^ a b 「衛星、正常に軌道周回」=韓国国防省、時事ドットコム 2012年12月13日
  41. ^ 北朝鮮「衛星」機能せず、故障か 天文学者が観測 米紙報道、産経ニュース 2012年12月18日
  42. ^ 韓国科学技術院、北朝鮮の衛星追跡諦める 「今の技術では不可能」、新華社日本語経済ニュース 2012年12月16日
  43. ^ 北朝鮮の人工衛星2基、軌道を運行中だが…「機能しない死んだ衛星」”. 中央日報 (2023年5月18日). 2023年5月19日閲覧。
  44. ^ a b 北朝鮮ミサイル 技術は高レベルに到達か、聯合ニュース 2012年12月12日
  45. ^ a b ICBM化、なお技術不足 弾頭小型化や再突入、産経ニュース 2012年12月14日
  46. ^ 北朝鮮、予想より高度だった打ち上げ能力「核保有国か経済破綻か」が今後の焦点に、NIKKEIビジネス 2012年12月12日
  47. ^ 北朝鮮:発射失敗のミサイル、外国技術導入で解決、毎日新聞 2012年12月3日
  48. ^ a b c d e 北朝鮮ミサイル発射 韓国、国連決議に対する明白な違反と非難、FNNニュース 2012年12月13日
  49. ^ a b c d 国連安保理、北朝鮮ミサイル発射を非難=「明白な違反」-中国は新決議に慎重姿勢、時事ドットコム 2012年12月13日
  50. ^ a b 制裁拡大の対北朝鮮決議を採択 国連安保理 、産経ニュース 2013年1月23日
  51. ^ a b 北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射に関する国連安保理決議の採択について、外務省 2013年1月23日
  52. ^ 北, 핵탄두 소형화·대기권 재진입 기술 남아、朝鮮日報 2012年12月13日
  53. ^ 北朝鮮のロケット発射、国連決議違反で「挑発的行為」=NATO、REUTERS 2012年12月12日
  54. ^ a b c 北朝鮮ミサイル:中国は制裁強化決議に反対 露は明示せず、毎日jp 2012年12月13日
  55. ^ a b c 北朝鮮のミサイル発射能力に強まる懸念、安保理が非難の談話、CNN.c.jp 2012年12月13日
  56. ^ 北朝鮮のロケット発射 各国から非難の中、イランから祝電―中国報道、新華社日本語経済ニュース 2012年12月13日
  57. ^ イラン外務省局長:北朝鮮「いかなる軍事関係もない」、毎日jp 2012年12月12日
  58. ^ India joins in condemning North Korea's rocket launch、Latest India News 2012年12月12日
  59. ^ 北朝鮮を強く非難 カナダ、産経ニュース 2012年12月12日
  60. ^ ミサイル:北朝鮮に後れ取る韓国、Chosun Online 2012年12月12日
  61. ^ 韓国のロケット技術 北朝鮮より5~7年遅れ?、Chosun Online 2012年12月12日
  62. ^ 韓国国産宇宙ロケット「ヌリ号」、打ち上げに成功
  63. ^ 北朝鮮、人工衛星打ち上げに成功したと報道、YOMIURI ONLINE 2012年12月12日
  64. ^ 北朝鮮、特別放送で衛星成功を発表 「人工衛星」映像はなし、産経ニュース 2012年12月12日
  65. ^ 北朝鮮:ミサイル発射成功を発表、毎日jp 2012年12月12日
  66. ^ ミサイル、正恩氏が発射命令…北朝鮮報道、読売新聞 2012年12月14日
  67. ^ “北朝鮮・金正恩第1書記が「新年の辞」 ミサイル発射の意義強調”. FNN. (2013年1月1日). http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00237974.html 
  68. ^ 北韓發射火箭 馬英九總統:不智!、NOWnews今日新聞網 2012年12月12日
  69. ^ a b ミサイル:関係国の反応は?、Chosun Online 2012年12月13日
  70. ^ 習政権、北擁護の政策修正との観測もあったが…、YOMIURI ONLINE 2012年12月13日
  71. ^ Jアラート住民に速報、北ミサイル沖縄通過6分前、YOMIURI ONLINE 2012年12月13日
  72. ^ 北朝鮮ミサイル発射 藤村官房長官「極めて遺憾で容認できない」、FNNニュース 2012年12月12日
  73. ^ Concerning launched today long-range missile from DPRK, Foreign ministry Spokesperson said: Ministry of Foreign Affairs
  74. ^ 北朝鮮ミサイル:ロシア「深い遺憾」…批判声明出す、毎日jp 2012年12月12日





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「光明星3号2号機」の関連用語

光明星3号2号機のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



光明星3号2号機のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの光明星3号2号機 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS