光明星3号2号機 光明星3号2号機

光明星3号2号機

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/06 00:07 UTC 版)

光明星3号2号機

北朝鮮初の人工衛星

光明星3号2号機は、北朝鮮が軌道投入に成功した初の人工衛星と考えられている。北朝鮮はこれまでに、光明星3号1号機を除く全ての光明星シリーズを衛星軌道に乗せたと発表しているが、NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)などは、いずれの打ち上げにおいても該当する軌道上には衛星が確認できず、軌道投入は失敗したとみられるとしていた。

しかし、今回の打ち上げでは、NORADは光明星3号2号機と、それに付随するスペースデブリの計4物体が衛星軌道に到達し、人工衛星となったことを確認したと発表した[36][37][38][39]。さらに、NORADは物体にKMS3-2という固有の名称をつけた。これにより、正式に北朝鮮の打ち上げた物体が人工衛星であることを認めた形となった[6]

また、韓国国防部も、人工衛星が軌道を正常に周回していると述べた[40]

これにより、北朝鮮は人工衛星自力打ち上げ能力を有する10番目の国、人工衛星を保有する75番目の国・組織になった[38]

性能

光明星3号2号機は、以下の5つを目的とする地上観測用のカメラやセンサーを搭載した地球観測衛星であると発表されている[2]

  • 森林資源の分布状況調査
  • 自然災害の程度調査
  • 穀物予定収量の判定
  • 気象予報
  • 資源探査

光明星3号2号機は大きさは約1.4×0.6×0.7mの直方体で、重量は100.0kgである[8]。もし外国報道陣に公開された事のある1号機と同型である場合、衛星のサイズは約1×0.5×0.5mの直方体である[2]。設計寿命は2年[8]。名称は、北朝鮮の元指導者金日成が作詩したとされる漢詩の一節に由来している。

地上観測カメラの解像度は100mクラス(直径100m程度の物体を発見可能)と考えられている。これは他国の運用する地球観測衛星と比較すると1~3桁低い精度で、韓国科学技術院の方孝忠は「(宇宙先進国の)大学生が作ったものよりややましな程度」であると表現している。

前述の通り、打上げ直後の楕円軌道から目標とする高度500kmの円軌道への軌道調整は行われておらず、また衛星からの通信電波の発信も確認されていないなど[3][41]、軌道到達後の運用には問題が生じているとみられる[4][6]。仮に画像を撮影することができたとしても、このような悪条件下で撮影されたデータから、高解像度化技術の蓄積を持たない北朝鮮が軍事的に有用な解像度の画像を取得することは困難であると考えられる[6]ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのジョナサン・マクドウェルは、光明星3号2号機からの信号が12月17日現在でいまだ確認されておらず、また人工衛星の姿勢が安定せず不規則な回転をしていることを示す、太陽光の反射による不規則な点滅をすることから、光明星3号2号機は稼働していない可能性が高いとしている。ただし、この高度から衛星が落下するには数年かかるとみられている[7]

軌道要素

光明星3号2号機の2012年12月14日の地上に対する軌跡。

光明星3号2号機は、軌道傾斜角97.4度、近地点494km、遠地点588kmの太陽同期軌道を7.66km/sの速度で95分27秒で一周していると見られる[40][6]。近地点499.7km、遠地点584.18km[1]、近地点505km、遠地点588kmの説もある[5]。いずれの説を取るにせよ、上層大気の抵抗を軽減して軌道を安定化させるのに十分な近地点高度を達成しており、比較的長期間(少なくとも数年)軌道に留まると考えられている。

光明星3号2号機の国際衛星識別符号は2012-072A、衛星カタログ番号は39026である。また、NORADは国際衛星識別符号のほか、KMS3-2という固有名詞を用いている[6]

ほぼ同じ軌道を付随するデブリ3つが周回しており、これらはロケット第3段や、ロケットと衛星を接続していた分離機構であると考えられている[36]

KAIST(韓国科学技術院)は14日、光明星3号2号機は軌道を正常に周回しているが、今の技術ではこれ以上追跡できないとして、追跡を諦めた。韓国国防部は追跡をあきらめないとのことだが、後述のように光明星3号2号機は通信用電波を発信できていないと考えられるため、追跡は容易ではない[42]

2023年、アメリカ宇宙司令部と北アメリカ航空宇宙防衛司令部の国際衛星情報を提供するウェブサイトは、2023年現在もなお光明星3号2号機の軌道を確認していることを明らかにしている。ただし、衛星の機能は既に「死んでいる」ものとして扱われている[43]


  1. ^ a b c d e f g h 人工衛星『光明星―3』号第2号機の打ち上げに成功 Naenara
  2. ^ a b c 北の衛星「はりぼて」か、箱形機械に不自然さ、YOMIURI ONLINE 2012年4月9日
  3. ^ a b 北の「人工衛星」は制御不能?…信号の形跡なし、YOMIURI ONLINE 2012年12月13日
  4. ^ a b 北の投入物体、地球を楕円形に旋回…韓国国防省、YOMIURI ONLINE 2012年12月14日
  5. ^ a b 北朝鮮ミサイル:「衛星」の電波信号確認されず、毎日jp 2012年12月13日
  6. ^ a b c d e f ミサイル:人工衛星「光明星3号」は成功したのか、Chosun Online 2012年12月15日
  7. ^ a b 北朝鮮「衛星」機能せず=落下まで数年-米専門家、時事ドットコム 2012年12月18日
  8. ^ a b c KMS 3-2 NASA NSSDC Master Catalog Search
  9. ^ a b 조선우주공간기술위원회 대변인 대답 Naenara
  10. ^ Successful Launch of Satellite Kwangmyongsong 3-2 Narnara
  11. ^ 北朝鮮:ミサイル発射成功を発表、毎日jp 2012年12月12日]
  12. ^ 正恩氏がミサイル発射命令=「今後も続ける」、聯合ニュース 2012年12月14日
  13. ^ 北発射…探知は5分後・住民伝達は通過6分前、YOMIURI ONLINE 2012年12月13日
  14. ^ 北朝鮮ミサイル発射:フィリピン沖に落下 沖縄上空を通過、毎日jp 2012年12月12日
  15. ^ 北朝鮮ミサイル発射 韓米当局の情報判断に問題点、聯合ニュース 2012年12月12日
  16. ^ ミサイル:北朝鮮、米本土到達の射程距離確保、Chosun Online 2012年12月13日
  17. ^ 北朝鮮がミサイル発射を予告 10~22日の間産経新聞 2012年12月1日
  18. ^ イージス艦3隻、佐世保出港…北ミサイルへ警戒、読売新聞 2012年12月6日
  19. ^ a b 破壊措置命令を解除=展開部隊撤収へ-防衛省、時事ドットコム 2012年12月12日
  20. ^ 10日から北ミサイル発射の予告期間 米イージス艦が黄海へ 日米韓で10隻態勢[リンク切れ]、gooニュース 2012年12月9日
  21. ^ 北ミサイル、「技術的問題」で発射延期示唆か、読売新聞 2012年12月9日
  22. ^ ミサイル発射予告29日まで延長…1段目に欠陥、読売新聞 2012年12月10日
  23. ^ 北朝鮮、ミサイル解体・修理作業入り 韓国政府筋明かす、朝日新聞デジタル 2012年12月11日
  24. ^ a b c 国連安保理、北朝鮮のミサイル発射を非難、THE WALL STREET JOURNAL 2012年12月13日
  25. ^ 北朝鮮の「人工衛星」の飛翔経路予測、lizard-tail studio 2012年12月10日
  26. ^ 北朝鮮、予想より高度だった打ち上げ能力:第3段が精密な軌道制御を実施、日経ビジネスONLINE 宇宙開発の新潮流 2012年12月13日
  27. ^ ミサイル:銀河3号の3段目に誘導操縦技術、Chosun Online 2012年12月14日
  28. ^ 北ミサイルの射程 1万3千キロ以上に拡大=韓国当局、聯合ニュース 2012年12月12日]
  29. ^ 金正恩氏、権威確立へ賭け…ミサイル強行の狙い、YOMIURI ONLINE 2012年12月12日
  30. ^ 韓国大統領選に「北風」 ミサイル発射で安保が争点に、聯合ニュース 2012年12月12日
  31. ^ 北ミサイルで韓国は10番目ロケット開発国の夢破れる?、聯合ニュース 2012年12月12日
  32. ^ a b 北朝鮮が「羅老」より先に成功? 屈辱の韓国政府、中央日報日本語版 2012年12月12日
  33. ^ ミサイルの残骸発見=1段目の燃料タンクか-韓国軍、時事通信 2012年12月13日
  34. ^ 韓国海軍 北朝鮮ミサイルの残骸を黄海上で発見、聯合ニュース 2012年12月13日
  35. ^ 北ロケットの残骸の分析作業に着手。アメリカのロケット専門家の参加、聨合ニュース 2012年12月14日
  36. ^ a b 北朝鮮の衛星、制御できず? 米報道、信号確認できず、朝日新聞デジタル 2012年12月14日
  37. ^ NORAD acknowledges missile launch North American Aerospace Defense Command Archived 2012年12月14日, at the Wayback Machine.
  38. ^ a b SATCAT Boxscore CelesTrak
  39. ^ a b 北朝鮮ミサイル発射 米NORAD、衛星の軌道進入確認、朝日新聞 2012年12月12日
  40. ^ a b 「衛星、正常に軌道周回」=韓国国防省、時事ドットコム 2012年12月13日
  41. ^ 北朝鮮「衛星」機能せず、故障か 天文学者が観測 米紙報道、産経ニュース 2012年12月18日
  42. ^ 韓国科学技術院、北朝鮮の衛星追跡諦める 「今の技術では不可能」、新華社日本語経済ニュース 2012年12月16日
  43. ^ 北朝鮮の人工衛星2基、軌道を運行中だが…「機能しない死んだ衛星」”. 中央日報 (2023年5月18日). 2023年5月19日閲覧。
  44. ^ a b 北朝鮮ミサイル 技術は高レベルに到達か、聯合ニュース 2012年12月12日
  45. ^ a b ICBM化、なお技術不足 弾頭小型化や再突入、産経ニュース 2012年12月14日
  46. ^ 北朝鮮、予想より高度だった打ち上げ能力「核保有国か経済破綻か」が今後の焦点に、NIKKEIビジネス 2012年12月12日
  47. ^ 北朝鮮:発射失敗のミサイル、外国技術導入で解決、毎日新聞 2012年12月3日
  48. ^ a b c d e 北朝鮮ミサイル発射 韓国、国連決議に対する明白な違反と非難、FNNニュース 2012年12月13日
  49. ^ a b c d 国連安保理、北朝鮮ミサイル発射を非難=「明白な違反」-中国は新決議に慎重姿勢、時事ドットコム 2012年12月13日
  50. ^ a b 制裁拡大の対北朝鮮決議を採択 国連安保理 、産経ニュース 2013年1月23日
  51. ^ a b 北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射に関する国連安保理決議の採択について、外務省 2013年1月23日
  52. ^ 北, 핵탄두 소형화·대기권 재진입 기술 남아、朝鮮日報 2012年12月13日
  53. ^ 北朝鮮のロケット発射、国連決議違反で「挑発的行為」=NATO、REUTERS 2012年12月12日
  54. ^ a b c 北朝鮮ミサイル:中国は制裁強化決議に反対 露は明示せず、毎日jp 2012年12月13日
  55. ^ a b c 北朝鮮のミサイル発射能力に強まる懸念、安保理が非難の談話、CNN.c.jp 2012年12月13日
  56. ^ 北朝鮮のロケット発射 各国から非難の中、イランから祝電―中国報道、新華社日本語経済ニュース 2012年12月13日
  57. ^ イラン外務省局長:北朝鮮「いかなる軍事関係もない」、毎日jp 2012年12月12日
  58. ^ India joins in condemning North Korea's rocket launch、Latest India News 2012年12月12日
  59. ^ 北朝鮮を強く非難 カナダ、産経ニュース 2012年12月12日
  60. ^ ミサイル:北朝鮮に後れ取る韓国、Chosun Online 2012年12月12日
  61. ^ 韓国のロケット技術 北朝鮮より5~7年遅れ?、Chosun Online 2012年12月12日
  62. ^ 韓国国産宇宙ロケット「ヌリ号」、打ち上げに成功
  63. ^ 北朝鮮、人工衛星打ち上げに成功したと報道、YOMIURI ONLINE 2012年12月12日
  64. ^ 北朝鮮、特別放送で衛星成功を発表 「人工衛星」映像はなし、産経ニュース 2012年12月12日
  65. ^ 北朝鮮:ミサイル発射成功を発表、毎日jp 2012年12月12日
  66. ^ ミサイル、正恩氏が発射命令…北朝鮮報道、読売新聞 2012年12月14日
  67. ^ “北朝鮮・金正恩第1書記が「新年の辞」 ミサイル発射の意義強調”. FNN. (2013年1月1日). http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00237974.html 
  68. ^ 北韓發射火箭 馬英九總統:不智!、NOWnews今日新聞網 2012年12月12日
  69. ^ a b ミサイル:関係国の反応は?、Chosun Online 2012年12月13日
  70. ^ 習政権、北擁護の政策修正との観測もあったが…、YOMIURI ONLINE 2012年12月13日
  71. ^ Jアラート住民に速報、北ミサイル沖縄通過6分前、YOMIURI ONLINE 2012年12月13日
  72. ^ 北朝鮮ミサイル発射 藤村官房長官「極めて遺憾で容認できない」、FNNニュース 2012年12月12日
  73. ^ Concerning launched today long-range missile from DPRK, Foreign ministry Spokesperson said: Ministry of Foreign Affairs
  74. ^ 北朝鮮ミサイル:ロシア「深い遺憾」…批判声明出す、毎日jp 2012年12月12日





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