クモ 概説

クモ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/29 04:03 UTC 版)

概説

クモはを出し、鋏角毒腺を持ち、それを用いて小型動物を捕食する、肉食性の陸上節足動物の1群である。糸を使ってを張ることでよく知られるが、実際にはほぼ半数の種が網を張らずに獲物を捕まえる。人間に害をなすほどの毒を持つものはごく少数に限られる。

昆虫多足類などの陸生節足動物と同様に「虫」と扱う動物群の一つであるが、六脚亜門に属する昆虫とは全く別のグループ(鋏角亜門クモガタ綱)に属する。昆虫との主な区別点は、の数が8本であること、体は前体と後体の2部のみによって構成されること、触角を欠くことなどがある。

語源

クモの語源は「蜘蛛の巣を“組む”虫」または、“黒い”、“隠(ごもり)”から由来する。クモは中国語で足長蜘蛛を表す“喜母”から由来するという説もあったが、今は否定されている。クモは上代日本語の記録が存在しており、“喜母”は上古中国語ではなく、中古中国語から記録が見られる[1]

外部形態

クモ類の外部形態:1:脚、2:頭胸部(前体)、3:腹部(後体)

体は頭胸部(前体)と袋状の腹部(後体)からなり、両者は細い腹柄によってつながる[2]

頭胸部(前体)

前体(prosoma)は先節と6つの体節から癒合し[3]、一般に「頭胸部」(cephalothorax)と呼ばれる。他のクモガタ類と同様、ここには鋏角1対・触肢1対・歩脚4対という計6対の付属肢関節肢)がある[3]。口の前には鎌状になった鋏角があり、クモ類ではこれを「上顎」とも呼ぶ。その後ろからは1対の触肢と4対の歩脚が並んでいる。

頭胸部背面の外骨格は完全に一体化した背甲carapace)であるが、第1歩脚の基部のあたりから前後には高さや形に差があることがある。特にその間に溝がある場合、頸溝という。前部にはがあり、基本的には8つの目が2列に並んでいるが、その配列や位置は科によって異なり、分類上重要な特徴になっている。網を張らずに生活するクモでは、そのうちのいくつかが大きくなっているものがある。一部の群では紫外線を見ることができる。

歩脚をもつ部位は多くの場合に目と鋏角をもつ前部より幅広く、背面の中央には小さなくぼみがあることが多く、これを中窪という。また歩脚の隙間に向かって溝が走ることも多く、これを放射溝という。

附属肢

鋏角chelicerae、上顎)は鎌状(ナイフ状、亜鋏状)で、先端が鋭く、獲物にこれを突き刺して、を注入する。触肢の基節は鋏角の下面で下顎を形成する。触肢pedipalps)は歩脚状で、普通のクモでは歩脚よりずっと小さく、鋏角の補助のように見えるが、原始的なクモでは見掛けでは歩脚に似通う。

歩脚の先端にはがある。造網性のクモでは大きい爪2本と小さい爪1本があるが、徘徊性のクモでは、小さい爪のかわりに吸盤状の毛束がある。歩脚は第一脚が長いものが多いが、それぞれの長さの特徴はそれぞれの群である程度決まっている。

なお、脚の向きにも特徴がある。よく見かけられるコガネグモ科などでは前二対が前に向き、後ろ二対が後ろ向きになっている。この型を「前行性」という。それに対してカニグモ科やアシダカグモなどでは前三対が前を向くか、四対とも先端が前向きになっているかのいずれかで、横向きに動くわけではないがこの型を「横行性」という。

腹部(後体)

後体(opisthosoma)は腹部(abdomen)ともいい、12節を含む[3]が、普通は外見上から体節が見られない。外骨格は柔らかく、全体に袋状になっている。そのうち第1節は頭胸部につなぐ幅狭い腹柄となる[3]。腹部の裏面前方には、通常1対の書肺という呼吸器官があり、その間に生殖腺が開いている。腹部後端には数対の出糸突起(糸疣)がある。その後ろに肛門がある。

ただし上述の特徴は普通のクモ、いわゆるクモ下目の特徴である。キムラグモなど原始的なハラフシグモ亜目では、腹部に体節が見られ、糸疣は腹部下面中央に位置し、書肺は2対で4つある[3]。触肢は歩脚とほぼ同じで、全体では脚が5対あるように見える。トタテグモ類とオオツチグモ類が属するトタテグモ下目は、腹部に節がなく、糸疣は腹端にあるが、他はハラフシグモ類と同じである。

出糸突起

出糸突起は、腹部の第4-5節に由来の付属肢である[3]糸疣」(spinnerets)という。普通のクモ類では腹部後端にあるが、ハラフシグモ類では腹部の中央にある。

キムラグモなどハラフシグモ類では出糸突起は腹部の腹面中央にあり、それぞれの節に2対ずつ、外側に大きい外出糸突起、内側に小さい内出糸突起がある。それ以外のクモ類ではこれらが腹部後端に移動し、その一部が退化したものと考えられる。出糸突起の数や形は群によってやや異なる。

出糸突起の先端近くには、多数の小さな突起があり、それぞれの先端から糸が出る。この突起を「出糸管」という。これにはクモによって色々な種類があり、それぞれからでる糸にも差があり、クモは用途に応じて使い分けている。

一部のクモ類には、通常の糸疣の前に「篩板(しばん)」(cribellum)という糸を出す板状の構造を持つ。これを持つクモは、第4脚の末端近くに、毛櫛(もうしつ)という、きっちりと櫛状に並んだ毛を持つ。糸を出す時はこの脚を細かく前後に動かし、篩板から顕微鏡でも見えないほどの細かい糸を引き出し、これがもやもやした綿状に太い糸に絡んだものを作る。

雌雄

性的二形がはっきりしているものが多く、雌雄の区別は比較的たやすい。模様にはっきりとした差のあるものが多い。雄が雌より小型である種が広く知られており、中でも雌雄による大きさの違いが著しいコガネグモ科のクモが有名であるが、徘徊性のクモ(コモリグモハエトリグモ)などには雄が雌よりやや華奢な程度で差が小さい種もよく見られる。

確実な区別は外性器でおこなう。雌では、腹部の腹面前方、書肺の間の中央に生殖孔があり、開口部はキチン化して、複雑な構造を持つ。雄では、生殖孔は特に目立たないが、触肢の先端に「移精器官」(触肢器官Palpal organ)というふくらみがあり、複雑な構造になっている。精液をここに蓄え、触肢から雌の生殖孔へ精子を送り込むという、特殊な交接を行うためである。この雌の生殖孔と雄の触肢の構造は、種の区別の際にも重視される。


注釈

  1. ^ ただし、このアカシアはアリ植物であり、芽というのもアリの餌として供給する特殊なものである。

出典

  1. ^ クモ (しゃしん絵本 小さな生きものの春夏秋冬 6) [ 藤丸 篤夫 ]
  2. ^ 小野展嗣 著「2.鋏角亜門」、石川良輔 編『節足動物の多様性と系統』岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、2008年、122-167頁。ISBN 9784785358297 
  3. ^ a b c d e f A., Dunlop, Jason; C., Lamsdell, James. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3). ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  4. ^ a b 小さなクモに大きすぎる脳”. ナショナルジオグラフィック日本版サイト. 2019年6月6日閲覧。
  5. ^ “クモが鳥を食った 糸満”. 沖縄タイムス. (2011年8月30日). オリジナルの2012年5月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120508063857/http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-08-30_22749/ 
  6. ^ 草食のクモを初めて確認ナショナルジオグラフィック協会、2009年10月13日。2021年1月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年11月29日閲覧
  7. ^ 石原重厚 (1975). “カナヘビにおける食物窒素の総同化量”. 爬虫両棲類学雑誌 6: 5. 
  8. ^ クモの糸の驚異と、100万匹が作った「黄金の織物」 « WIRED.jp Archives”. WIRED.jp. 2011年10月29日閲覧。
  9. ^ 人工「クモの糸」繊維、大量生産 山形ベンチャーが世界初”. 産経Biz (2013年5月25日). 2013年6月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月6日閲覧。
  10. ^ “鉄のように硬い「人工クモ糸」、理研が合成 石油製品を代替へ”. ITmedia NEWS. (2017年1月23日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1701/23/news075.html 
  11. ^ 虫を食べる話・第19回”. 公益社団法人 農林水産・食品産業技術振興協会. 2018年3月31日閲覧。
  12. ^ “ポル・ポト時代の食糧難の名残、田舎で珍重される食用クモ - カンボジア”. AFPBB News. (2006年8月23日). オリジナルの2013年5月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130514000235/http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2102038/819209 
  13. ^ 虫を食べるはなし 第19回 (クモを食べる習俗)”. 公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会. 2019年6月6日閲覧。
  14. ^ 昆虫食が人類を救うのか?”. 酪農学園大学 動物薬教育研究センター. 2021年6月20日閲覧。
  15. ^ “Cretaceous arachnid Chimerarachne yingi gen. et sp. nov. illuminates spider origins”. Nature Ecology & Evolution 2: 614-622. (2018). https://www.nature.com/articles/s41559-017-0449-3?WT.mc_id=COM_NEcoEvo_1802_Wang. 
  16. ^ 「クモに尾見つけた 1億年前の琥珀」『読売新聞』朝刊2018年2月19日(社会面)
  17. ^ Coddingston 2005, p. 21.
  18. ^ 八木沼健夫「日本産真正くも類分類表」『原色日本蜘蛛類大図鑑』保育社、1960年、11頁。
  19. ^ 八木沼健夫「日本産真正蜘蛛類目録」『Acta Arachnologica』第27巻八木沼健夫先生還暦記念号、東亜蜘蛛学会、1977年、367-406頁。
  20. ^ a b 八木沼健夫「クモの分類学上の位置」「クモ目分類体系」『原色日本クモ類図鑑』保育社、1986年、v-vii,xviii-xix頁。
  21. ^ Norman I. Platnick and Willis John Gertsch, “The Suborders of Spiders: A Cladistic Analysis (Arachnida, Araneae)”. American Museum Novitates, No. 2607, American Museum of Natural History, 1976, Pages 1-15.
  22. ^ a b 鶴崎展巨「第1章 系統と分類」宮下直編『クモの生物学』東京大学出版会、2000年、3-27頁。





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