ギリシア語 文法概要

ギリシア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/09 18:41 UTC 版)

文法概要

文字と発音

大文字、小文字、現代の音価、慣用(古典期)の呼び名、現代の呼び名(慣用と同じ場合省略)、現代の綴りの順で記載。

  • Α α[a](アルファ)άλφα
  • Β β[v](ベータ;ヴィタ)βήτα
    紀元後数百年に [b] から変異。
  • Γ γ[ɣ](ガンマ;ガマ)γάμμα, γάμα
    [x] の有声音。ただし前舌母音の直前では [ʝ] と発音される。
  • Δ δ[ð](デルタ;ゼルタかデルテ)δέλτα
    [θ] の有声音。閉鎖音から摩擦音に紀元後数百年に変異。
  • Ε ε[e](エプシロン)έψιλον
    「単純なε」の意。
  • Ζ ζ[z](ゼータ;ズィタ)ζήτα
  • Η η[i](イータ;イタ)ήτα
    後1世紀より [ɛː] から変異。
  • Θ θ[θ](シータ;シタかティタ)θήτα
    英語の無声 th に同じ。
  • Ι ι[i](イオタ;ヨタ)ιώτα, γιώτα
    母音の直前では硬口蓋化し [j] と発音される。
  • Κ κ[k](カッパ;カパ)κάππα
    [i], [e] の直前では [c] と発音される。
  • Λ λ[l](ラムダ;ラムザ)λάμδα, λάμβδα
  • Μ μ[m](ミュー;ミ)μυ
  • Ν ν[n](ニュー;ニ)νυ
  • Ξ ξ[ks](クシー;クシ)ξι
  • Ο ο[o](オミクロン)όμικρον
    「小さなο」の意。
  • Π π[p](ヒー;ピ)πι
    [m] の直後では [b] と発音される。
  • Ρ ρ[r](ロー;ロ)ρω, ρο
  • Σ σ, ς[s](シグマ)σίγμα
    有声子音の前で [z] と発音される。ς は語末のみ。
  • Τ τ[t](タウ;タフ)ταυ
    [n] の直後では [d] と発音される。
  • Υ υ[i](ユプシロン;ウプシロン;イプシロン)ύψιλον
    「単純なυ」の意。後5世紀〜10世紀に [y] から変異。
  • Φ φ[f](ファイ;フィ)φι
    紀元後数百年に [pʰ] から変異。
  • Χ χ[x](カイ;キー;ヒ)χι
    前舌母音の直前では [ç] と発音される。紀元後数百年に [kʰ] から変異。
  • Ψ ψ[ps](プサイ;プスィ)ψι, ψί
  • Ω ω[o](オメガ)ωμέγα
    「大きなο」の意。

カナ転写と発音の問題

  • カタカナに現代ギリシア語を転写するとき、θ は主にサ行で表記・発音(θα を「サ」、θι を「シ」など)されている。
  • 同様に、δ は主にザ行で表記されている。
  • 現代ギリシア語では、同じ子音字が2度重ねて綴られても1文字のように発音される(長子音とならない、ただしキプロスとポントスの方言では長子音は残存している)ので、そこに日本語の「」や「」を使う必要はない。たとえば、τέσσερα は「テセラ」であり、「テッセラ」とは読まれない。κόμμαは「コマ」であり、「コンマ」とは読まれない[5]
  • 多くの場合、現代ギリシア語のアクセントは長音記号「ー」で表されているが、ギリシア語のアクセントは強勢を示すものであり、長母音を示さない。たとえば、Μαρία は「マリーア」のように伸ばすより「マア」のように強く読むほうがいい。「マリーア」では、 Μαρίια に近くなってしまう。

ただし、テッサロニキのような古来の地名などは古代ギリシア語の発音に則って転写する。

記号

デモティキ(民衆口語)では、いわゆる「トノス(τόνος)」の記号類は ΄ のみにモノトニコス(単強勢)化されている。気息記号(音韻上で無標である有気音 [h] を表す)や ᾿ などは廃され、` などは、΄ に統合され、有強勢(文法的に有標)の際にのみ記される。またこの強勢記号は語末から3番目の音節のうちに置かれる。カサレヴサでは古典語のテキスト表記に倣った古典式の記号・符号を維持している。

疑問符にはいわゆるセミコロン ; を用いる。Unicode ではこの記号に、U+003B の SEMICOLON とは別に U+037E に GREEK QUESTION MARK が割り当てられてはいるがU+003Bの方が好ましいとされる[6]。Windows のギリシア語 IME でもU+003B が出てくる。

現代ギリシア語の発音

母音 Φωνήεντα

単母音
便宜上、音価別に並べる。
  • [a] - α
  • [e] ([e], [ɛ]) - ε, αι
  • [i] - η, ι, υ, ει, οι, υι
  • [u] - ου 日本語のウより口をとがらして発音
  • [o] - ο, ω
現代ギリシア語では母音の長短の区別がない。
母音+子音
以下の3つは υ の発音が無声子音の前で無声音 [f] に、有声子音・母音の前で有声音 [v] になる。
  • αυ - [af], [av]
  • ευ - [ef], [ev]
  • ηυ, ιυ - [if], [iv] (現代語ではほとんど使われていない)

子音 Σύμφωνα

二重子音字
  • γγ - [ŋ], [i], [e], [ɛ] の前なら口蓋化する(ンギ、ンギェとなる)。
  • γκ - 語頭で [g]、それ以外で [ŋg][i], [e], [ɛ] の前なら口蓋化する(ンギ、ンギェとなる)。また、外来語では [g], [ŋk] の音も表される。
  • μπ - 語頭で [b]、それ以外で [mb](外来語では [b], [mp] の音も表される)。たとえば Ολυμπία の場合、国際的には「オリンピア」の発音で知られているが、外来語ではなくギリシアの固有語であるため、「オリンビア」と発音される。
  • ντ - 語頭で [d]、それ以外で [nd](外来語では [d], [nt] の音も表される)。
比較的古い外来語では b は β、d は δ、g は γ と転写された。外国の地名のギリシア語表記も原音の [b], [d], [g] をそれぞれ β, δ, γ と表記する例がかなり多い。

古典式発音との違い

同じ単語でも、古代ギリシア語と現代ギリシア語の発音は異なる。以下にその例を挙げる。なお、ここでいう「古典式発音」とは古代ギリシア語の諸方言中の古典期アッティカ方言(再建音)を指す。ギリシア語綴りに用いる記号は現代語のものである。ただし、カタカナ表記は当然、日本語に存在する音のみを示すから、目安にすぎない。

ギリシア語綴り 古典式発音 現代式発音
βάρβαροι バルバロイ ヴァルヴァリ
Βάκχος バッコス ヴァクホス
βασιλεία バシレイアー ヴァシリア
Δήλος デーロス ズィロス
Ευρώπη エウローペー エヴロピ
Ηρακλής ヘーラクレース イラクリス
Θεσσαλονίκη テッサロニーケー セサロニキ
Κρήτη クレーテー クリティ
Μουσική ムーシケー ムシキ
Οδύσσεια オデュッセイア オディシア
πολλοί ポッロイ ポリ
φιλοσοφία ピロソピアー フィロソフィア
φύσις ピュシス フィシス

注釈

  1. ^ なお、ヘブライ語(希伯来語)も希語と省略しうるが、現状、希語は、もっぱらギリシア語の意味で使われる。
  2. ^ 民衆の口語がギリシアの言葉と考え、主としてイオニア諸島の方言から収集し口語民衆語を提唱した。『開放された自由人』を参照。
  3. ^ 西海沖の地域を除く東域の諸島・北ギリシア本土・小アジアの当時の人々には、現地語とカサレヴサしか解する言語はなく、アテネ方言はまったく通じなかった。

出典

  1. ^ a b Modern Greek, UCLA Language Materials Project: Language Profiles, 2009年1月30日閲覧。
  2. ^ a b c d Greek language, Columbia Encyclopedia(オンライン版)”. 2008年4月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年1月30日閲覧。
  3. ^ "Greek language", Encyclopædia Britannica (オンライン版)、2009年1月30日閲覧。
  4. ^ Robert Browning, Medieval and Modern Greek, Cambridge University Press, 2nd edition, 1983.
  5. ^ Arvaniti 1999, p. 2.
  6. ^ http://unicode.org/charts/PDF/U0370.pdf






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