エディプスコンプレックス エディプスコンプレックスの概要

エディプスコンプレックス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/11 04:11 UTC 版)

概要

ギュスターヴ・モローによるスフィンクスとオイディプス

エディプスコンプレックスとは、母親を手に入れようと思い、また父親に対して強い対抗心を抱くという、幼児期においておこる現実の状況に対するアンビバレントな心理の抑圧のことをいう。

フロイトは、この心理状況の中にみられる母親に対する近親相姦的欲望をギリシア悲劇の一つ『オイディプース』(エディプス王)になぞらえ、エディプスコンプレックスと呼んだ(『オイディプス』は知らなかったとはいえ、父王を殺し自分の母親と結婚親子婚)したという物語である)。

男児のエディプスコンプレックス

まず子供は母親を手に入れ、父親のような位置に付こうとする。男児においては母親が異性であり、ゆえに愛情対象である。子供は父親のような男性になろうとして(同一化)強くなろうとする。子供はじきに父親を排除したいと思う。しかし父親は子供にとって絶対的な存在であるので、そのうち父親の怖さに気付く。最初は漠然とした不安や憎しみしか抱いてないが、子供が実際に母親ばかりにくっついていると、父親は「お前のペニスを切り取るぞ」と脅すのだという。

ただしこの言葉は実際に言われるとは限らず、大抵の子供はこの脅しを無意識的な去勢不安として感じるようになる。こうして子供はジレンマに陥る。母親を求めれば「去勢される」し、父親の元に跪いて父親に愛される母親の立場に収まるのならば、子供は「去勢されている」と感じるのであり、どちらにしろペニスを保持するための葛藤にさいなまれるのである。

この際に子供は自分のペニスを保持するために、近親相姦をする欲求を諦め、また父親と対立することも諦めて、両親とは別の方向へ歩き出す。こうしてエディプスコンプレックスは克服されて、子供はペニスを保持しながらも社会に飛び立つ。その後の時期は潜伏期と呼ばれ、幼児的な欲求(性的な欲求)を無意識化に抑圧して、ほとんど表出しなくなるのである。

心的構造の形成

エディプスコンプレックスでは二つの側面が生じる。子供は最終的にこの葛藤から逃れるために両親を捨てるのであるが、子供は父親と対立するために「同一化」していた強い男性的側面と、父親から「やってはいけない」と言われた禁止事例を、超自我として形成するのである。それは良心や倫理感や理想として保持され、潜伏期以後の子供の行動を統制するようになる。

またエディプスコンプレックスの葛藤を克服すると、子供は近親相姦的願望やそれに付随しているリビドー、それに去勢不安や父親への攻撃心などを無意識抑圧する。これらの欲望はエディプスコンプレックスが生じるまでは子供の思いのままに表出されていたが、この葛藤と克服を機に、それらは捨てられることになる。

これらの欲求は無意識に捨てられる。つまり無意識抑圧される。こうして、その頃までは曖昧だった意識無意識の境界が明白に形成されるようになる。子供はエスから自我を派生分化させて、つまり抑圧によって近親相姦的願望や去勢不安などを無意識に押し込めて、現実的な自我を作る。また同一化した部分と禁止事項が合わさって超自我が作られる。こうして三つの心的構造が作られるのだとジークムント・フロイトは主張している。

女児のエディプスコンプレックス

女児はペニスがないために男児と発展過程が異なる。

女児も男児と同様、最初は母親に愛情を抱き続けている。ただ女児が成長するとともに、同性のクリトリスが小さいのを見たりして、子供の女性にはペニスが無いことを徐々に認識し始める。ただしこの時点ではまだ女児は「大人になったら私もペニスが生えてくるんだ」と信じているのだという。[要出典]

男児との違い

男児は去勢コンプレックス(父親に去勢されるかもという不安)から母親を手に入れることを諦め、エディプスコンプレックスが崩壊するために、近親相姦の欲望などは放棄されることになる。しかし女児は去勢コンプレックスが生じて、それが契機になって母親から父親への愛情対象の転換が起こるとされている。故に女児はいつまでも父親を愛したままになり、フロイトは女児のエディプスコンプレックスはいつまでも続き、崩壊するきっかけがないと言っている。

そのため、女児には男児のように強力な超自我が生じないと言う結論を主張している(明確な超自我形成にはエディプスコンプレックスが放棄される必要がある)。

フロイトは女児の場合もエディプスコンプレックスという用語を使っていた。男児も女児も同じような葛藤構造が生じるからである。弟子のカール・ユングエレクトラコンプレックスという用語を提示していたが、フロイト自身はその言葉を採用せず、女児の場合もエディプスコンプレックスと呼んでいた。


  1. ^ 『インセスト幻想—人類最後のタブー』(原田武、2001年) 149・150ページ ISBN 4-409-24065-X


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