アフリカニシキヘビ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/01 06:49 UTC 版)
生態
食性
アフリカニシキヘビは夜もしくは日の入り・日の出前に陸上や水場、樹上で活動する[8]。水場の浅いところに潜み、水を飲みに来た警戒心の薄い動物を待ち伏せして襲う[8]。食性は動物食で、若いうちは小型の哺乳類や鳥類、トカゲやカエルを襲うが、大人になると小型のレイヨウや大型の鳥を襲って丸呑みにすることができるようになる[8]。オオトカゲ、飼われているイヌ、ヤギ、イノシシ、インパラなど中型のレイヨウ、ヤマアラシ、ワニ、時にハイエナ、ヒト(参照: #事故)を襲った例も記録されているが、大型の生物を襲った後は無防備な状態であり、このときは逆に野生のイヌ類やハイエナ、ヒトに殺されやすくなる[8]。
アフリカニシキヘビは2年以上餌を取らず絶食しても生きることが可能で、Sweeney (1961:46) で2年と9か月[16]、また Pitman (1974:70) では3年を超える絶食が可能とされている。
生殖
アフリカニシキヘビは卵生であり、大型のメスはシロアリの塚や他の動物の掘った穴に卵を16-100個産みつけ、その周りを自らの体で取り巻き、たまに日光浴のためにその場を離れたりもしつつおよそ90日かけて卵を孵化させる[8]。この時期にメスに近づいた場合メスは威嚇を行うが、その警告の方法は尾の先端を持ち上げて巻き、長くシューという音を出すというものである[8]。
人間との関係
事故
刺激されない限り巨大なニシキヘビであってもヒトを襲うことは極めてまれであり[17]、アフリカではむしろ恐怖を抱いた、あるいは皮などを目当てとしたヒトの手によって殺されている[8]。1980年7月以前の時点でも新聞などにより数々の例が報告されていたものの、この中で実際にアフリカニシキヘビによる仕業と立証されたものはほぼ皆無である[17]。以下は検視の記録が残されている死亡事故の事例である。
- 1999年、アメリカ合衆国イリノイ州のセントラリア(Centralia)の当時3歳の男児が、家庭で飼われていた7.5フィート(= 228.6センチメートル)のアフリカニシキヘビに絞め殺された。死体が発見された際にはニシキヘビは男児の体を巻いてはいなかった[18]が、男児の胸の周りには圧迫された形跡、首と両耳の周りには咬まれた跡があり、ニシキヘビは男児を呑み込もうとしたものと見られる。
- 2013年8月、カナダ東部ニューブランズウィック州キャンベルトン(Campbellton)で、爬虫類専門のペットショップから逃げ出した個体が店舗上階のアパートに移動し、就寝中の当時それぞれ5歳と7歳の男児2人を絞めて窒息死させるという惨事が起きた[19](参照: (2013 New Brunswick python attack) )。飼い主がこの個体に十分な餌を与えていなかったため、捕食したと考えられている。ニューブランズウィック州ではアフリカニシキヘビは限られた動物園でしか取り扱いを許可されておらず、このペットショップは無許可でアフリカニシキヘビを取り扱っていた[20]。ショップの責任者は過失により男児二人が死亡したとして告訴された[21]。
- 2017年8月25日、イギリスのハンプシャー、ベイジングストーク近郊の自宅で複数匹のヘビを16年間、またタランチュラも複数匹飼育していた当時31歳の男性が死亡しているのが発見されたが、その際近くにはペットの中の1匹である8フィート(= 243.84センチメートル)のアフリカニシキヘビがいた[22]。男性は窒息死しており、検視官はそのアフリカニシキヘビとの接触が男性の死の原因であったとする判定を下した[22]が、この事件を受けての、ヘビを飼うことの是非をめぐる姿勢は専門家によってまちまちである。英国爬虫類学者連盟(英: Federation of British Herpatologists)の長であるクリス・ニューマン(Chris Newman)は、どんな動物にも危険な存在となりうる潜在性があること、イギリスではおよそ1万匹の大蛇が飼育されていたと推定される上でこの100年間でこれが最初の死亡あるいは重大な傷害の起こった例であること、そもそもこのアフリカニシキヘビが直接男性の死に関与した証拠は無いことを挙げ、この事件を引き合いに出してヘビを飼育することについての安全性の懸念の話をすべきではないと述べている[23]。一方、別の専門家ジェレイント・ホプキンズ(Geraint Hopkins)はBBCのラジオ番組で「いつか誰かが殺されるだろう」と長らく恐れてきたと話し、「アフリカニシキヘビは途轍もなく強い。ペット用になるものなどいない。彼らはみな気性の荒い爬虫類であるし、全く予測不能だ。あの哀れな若者の手に負えた訳がない」、また「彼らは愛情深い訳ではない―彼らにとって安全でないと感じられれば、あなたも締め付けられることになる」と語り、ニシキヘビの締め付けをほどく必要が生じた際には必ず二人の人間で対処すべきであると述べている[23]。
また、以下の例はアフリカニシキヘビによるものとする言及が見られるものの、立証が十分になされていない死亡事故である。
- O'Shea (2007:27) によると、最初の死亡事故の記録は Bosman (1907) に見え、殺したアフリカニシキヘビの体内からアフリカ人が発見されたという。しかし、Bosman (1907:310) の黄金海岸、つまりほぼ現代のガーナにあたる地域に関する記述においては Boutry(現 Butre (en) )で殺した22フィート(= 670.56センチメートル)未満のヘビの体内から黒人の死体が発見された旨が記されてはいるものの、ヘビの現地語名、英名、学名のいずれも示されていない。
- 1931年にはヴィクトリア湖の現タンザニア領ウケレウェ島[17]で洗濯中だった若い女性が14フィート(= 365.76センチメートル)の個体に絞め殺され、そのまま捕食されるという事故が報告されている(Loveridge 1931)[24]。
- 1951年にはウガンダでランゴ人(Lango)の当時13歳の青年がヘビに殺されて飲み込まれる事故があった[25]。
2000年6月にはケニアで36歳の男性が飲み込まれる事故も起こっている[要出典]。
アフリカニシキヘビには対面した際や飼育の際に危険で気むずかしいという悪評があるが、これはヒトを捕食対象と見て襲う性癖があるという訳ではないと思われ、むしろヒトが自身を捕食し得る存在と認識して防御姿勢をとったものである[26]。しかし、日本では動物愛護法によって特定動物に指定されている[27]ため、飼育には地方自治体の許可が必要となる。
民俗
主にケニア西部のヴィクトリア湖畔地域に暮らすルオ人にとって基本的にヘビは邪悪と考えられ、妖術者が他者を害するために利用する生き物である[28]一方でニシキヘビ、特にアフリカニシキヘビは遊び歌にも現れたり、信仰の対象となったりもするなど馴染み深い存在である。アフリカニシキヘビはルオ語で ng'ielo という[12]が、ng'ielo jadhogre「こんがらがる奴ニシキヘビ」というフレーズを含む歌は Owen (1959)、Miruka (2001:92f) などいくつかの文献に記録が見られ、子供たちはこの歌を歌いながら一列になってニシキヘビの動きをまねて遊ぶ[29]。ルオ人はまた、数十年おきに現れる温厚な性格のアフリカニシキヘビをオミエリ(Omieri)あるいはオムウェリ(Omweri)と呼んで、人間の女の生まれ変わりであり、また雨と関連付けて豊饒をもたらす存在として信仰しており、特に2003年に現れたものについてはその扱いをめぐって議論が巻き起こり、ケニア国内大手の新聞デイリー・ネーション紙を経てBBCでも関連報道が取り上げられたり(BBC News 2003a, b)と、社会現象としての盛り上がりが見られた[30]。
脚注
出典
- ^ a b Spawls (1978).
- ^ a b Gibbons (2017).
- ^ Spawls et al. (2018:380).
- ^ a b c d “Python sebae”. The Reptile Database. 2018年4月3日閲覧。
- ^ Spawls et al. (2018:379–380).
- ^ #外部リンクのタクソンリストを参照。
- ^ #外部リンクの、各附属書の性質の違いについてを参照。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n O'Shea (2007:105–106).
- ^ “Python natalensis”. The Reptile Database. 2018年4月3日閲覧。
- ^ Reed & Rodda (2011).
- ^ Dorcas & Willson (2011:130).
- ^ a b c Kokwaro & Johns (1998:257).
- ^ Barrett (1970:291).
- ^ Bradshaw (2017:154f).
- ^ de Cock Buning, Poelmann & Dullemeijer (1978:62).
- ^ Murphy & Henderson (1997:99).
- ^ a b c Branch & Hacke (1980).
- ^ “Centralia Family's Python Suffocates 3-year-old Boy”. Chicago Tribune (1999年8月30日). 2018年3月31日閲覧。
- ^ “Python Killing Of 2 New Brunswick Boys Baffles Experts”. The Huffington Post (2013年8月6日). 2018年3月26日閲覧。
- ^ “Reports into boys' python deaths still under wraps”. CBC News (2013年9月12日). 2018年3月31日閲覧。
- ^ “Man charged in python asphyxiation death of boys”. Toronto Star (2015年3月31日). 2018年3月31日閲覧。
- ^ a b “Snake owner Daniel Brandon killed by his pet python”. BBC News (2018年1月24日). 2018年3月31日閲覧。
- ^ a b “Snake expert doubts pet python killed Daniel Brandon”. BBC News (2018年1月25日). 2018年3月31日閲覧。
- ^ Caras (1964:138).
- ^ Pitman (1974:69).
- ^ Dorcas & Willson (2011:130, 132)
- ^ “環境省_特定動物リスト [動物の愛護と適切な管理]”. 2018年3月31日閲覧。
- ^ Smith (2006:431).
- ^ Miya (2007:180).
- ^ Smith (2006).
固有名詞の分類
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