USF1チームとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > USF1チームの意味・解説 

US F1チーム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/03 17:01 UTC 版)

US F1チーム (US F1 Team) [1]は、かつて存在したアメリカ合衆国のレーシングチーム。2010年のF1世界選手権に参戦する予定だった。

チーム代表は元リジェのテクニカルディレクターで、ハース・CNC・レーシングのテクニカルディレクターを務めるケン・アンダーソン。スポーティングディレクターはウィリアムズフェラーリナイジェル・マンセルマネージャーを務めていたピーター・ウィンザー英語版

沿革

参戦発表

2009年2月5日前後から「USF1」なるチームがF1参戦をもくろんでいるとの報道があった[2][3][4]

2月24日にアンダーソンとウィンザーは、アメリカのTV放送『SPEED TV』でチーム発表を行なった[5]。そこで彼らは、USF1立ち上げの意思を鼓舞したのはF1におけるアメリカの過去の栄光を再び取り戻したいとの気持ちであることや、バーニー・エクレストンにUSF1のことを初めて話したのは2006年ブラジルGPだったこと、FIAにも5 - 6カ月前からこの件を知らせて、我々のやりたいことを認めてもらっていることを明かしていた[5]

2010年からの参戦に向けて

スポーティングディレクターに就任したピーター・ウインザー

チームはエンジンサプライヤー契約については当時F1に参戦していた全てのエンジンメーカーにアプローチを試み、その中でウィンザーは「トヨタBMWメルセデスにとってアメリカがいかに巨大なマーケットであるかを理解している」と語っており、様々なエンジンサプライヤーを模索していた事が窺える[6]。また、「オールアメリカン」を標榜することから、アメリカ人ドライバーを乗せることが予想され、ドライバー候補としてトロ・ロッソでF1参戦歴があるスコット・スピード[7]や、IRLで活躍する女性ドライバーのダニカ・パトリックなど多くのアメリカ人ドライバーが挙がっていたが、結局はこれらはかなわなかった。

3月4日にチーム名を「USF1」から「USGPE」に変更した[8]。「Formula 1」の商標権を持つFOMが、省略形の「F1」の使用に反対したためであった。

6月12日にFIAが2010年のF1世界選手権のエントリーリストを発表[9]。USGPEはコスワースからエンジン供給を受け[10]、「チームUS F1」としてエントリーされた[9]。当初は早ければ11月上旬には第1号マシンのテストを実施できるとしていた[11]

6月ごろから、動画投稿サイトとして有名なYouTubeがUS F1を支援するのではないかという話が浮上し[12]、その憶測通り、8月20日にYouTubeの共同設立者兼CEOであるチャド・ハーリーを投資家として迎えることが発表された[13]

9月にはフォーミュラ・ワン・チームズ・アソシエーション (FOTA) への加盟申請も行った[14]。しかし、この頃より来年の開幕戦までにマシンが用意出来るのか疑問視しされ始め、速ければ11月上旬に予定されていたマシンテストも無かった。

11月30日にFIAが発表した追加エントリーリストでは「US F1チーム」と表記された[1]

12月23日より、YoutubeにUS F1の作業風景が掲載された。しかし、ファクトリーに機材を置いてゆく様子と、マシンのノーズ部分のみの製作光景だけの映像であった[15]。また、ロータスヴァージンなどの他の新参チームは後発ながらも同時期の段階でマシンの製作やチーム体制を着実なものにしていったのに対し、US F1の参戦に対する進行状況が明らかに遅れていたのが露見するようになり、US F1への疑問は日々強くなっていった。

資金難

正ドライバーとして契約したホセ・マリア・ロペス

2010年1月には、正ドライバーとしてホセ・マリア・ロペスの起用を発表したが[16]、すでにスポンサーの獲得難による資金不足が噂され、序盤戦を欠場するのではないかと報じられるようになる[17]。レース参戦に不可欠なシャシーのテストも全く行われず、もう一人の正ドライバーの発表も行われないまま、同年2月20日にはアンダーソンが開幕から4戦の欠場許可をFIAに対し求めていることをメディアに対し認めた[18]

上記のような事情から、US F1側の投資家であるYoutubeのハーリーとステファンGPの代表であるゾラン・ステファノビッチが両チームの合併を画策した。これは「参戦権はあるがマシンのないUSF1と、マシンはあるものの参戦権のないステファンGPが手を組むことは論理的なシナリオである」という考えから基づく合併交渉であり、チャドは両チームの仲介役としてこの交渉を進めたが[19]、2月25日に完全に交渉決裂したと報じられた[20]。このオファーを断ったことについて、のちにウィンザーは「トヨタのマシンを使用する事を真剣に検討をするべきだった」と後悔の念を語っている。ステファンGPの合併交渉の内容とはトヨタ・TF110の使用権に関することであり、断固として拒否したことに対する過ちを認めた事になる[21]。ただし、エンジンがすでにコスワースで決定していたため、ステファン側の交渉を飲めば、シャシーだけでなくエンジンを含めたパッケージとなったために、コスワース側との契約に何らかの問題が噴出したことも想定される。他の新規参戦チームでいえば、カンポスが開幕戦寸前で参戦の目途が立たなかったためにホセ・ラモン・カラバンテに株式譲渡し、HRT F1チームとして参戦を行い、不眠不休の努力で開幕戦への参戦にこぎつけた事例もある。この例よりさらに条件の良かったとされるUSF1とステファンGPとの交渉が成立していれば、参戦出来た可能性は高い。

2010年シーズン参戦の断念

2月28日にUS F1は当初の参戦計画を2011年まで延期するようFIAに要請した。その際に、アンダーソンとハーリーは、2011年からF1参戦する意向を証明するための保証書をFIAに提出したとされる。これがFIAに受理されれば「13番目のチーム」が事実上解除されることとなり、2010年からF1参戦を目指していたステファンGPの道が開ける可能性が高まることが期待された[22]。2010年度の新参チーム参戦枠は13チーム26台であり、ステファンGPは14番目のチームとしてFIAに参戦申請を続けていたが認められなかった。これらの背景から、ハーリーを仲介役として合併案などが出されたが、US F1チーム側はそれを認めなかった。そこでFIAが提示していた問題解決案の一つである参戦延期案を行えば「13番目のチーム」が解除されるため、それまでに参戦を申請し続けたステファンGPのF1参戦の可能性が高まる。

3月2日、前述の資金難のためにチーム経営・運営を終了し、従業員に無期休暇命令を出して閉鎖をしたと伝えられた[23]。チームと正ドライバーとして唯一契約していたホセ・マリア・ロペスは、契約履行に必要な金額の一部(約83万ドル)を支払っていたが、これも契約解除された。そのために、ロペスはHRTでリザーブドライバーとして契約する事を目指していたが、遂にそれもかなわなかった。この際にロペスはUS F1について「彼らはFIAやFOTAFOM、そしてアメリカのレースファンの全てをだました」と述べた[24][25]。またロペスのマネージャーであったフェリペ・マクゴーは「ケン・アンダーソンの見積もりの甘さが諸悪の根源」と指摘している[26]

これに対し、チーム代表であるアンダーソンは、チームの閉鎖はしておらず、2010年シーズンからの参戦を2011年まで延期できるかどうかについて、FIAからの返答を待っているところであると述べていた[27]

完全消滅

その後もステファンGPとの交渉は水面下にて行われていた様であり、3月20日にステファンGPがUS F1を買収することで合意したと発表した[28]。ただし、すでにFIAによって参戦権が剥奪されている可能性もあり、2月の時点で参戦計画が破綻していたUS F1が合併交渉を断固として拒絶していた折り合いの悪さから、この買収承諾はFIAから下される懲戒処分を回避するための作為であると見られた。

2010年4月1日にチームの運営は完全に停止した[29]。最後まで残った10名ばかりのスタッフの賃金は未払いの状態となり、チームは解体された。差し押さえられた2台のチームのオーダーメイドトレーラーはeBayによって競売にかけられた[30]。また、これらの資産を解体して5月19日に債権整理を開始した事が伝えられた。その中にはエンジンサプライヤーとなったコスワースの名もあり、US F1との契約解除と債権者として清算をすることを発表した[31]

6月10日には、US F1に残されていた全ての機材がオークションにかけられた[32]。その中には、シャーシのモックアップやホイールなども含まれている。このオークションによる140万ドルの売り上げは、負権者への支払いに当てられた[33]

6月25日には、30万9,000ユーロ(約3,400万円)の罰金および競技資格剥奪処分がFIAモータースポーツ協議会から下された[34]

US F1の参戦取り止めを受けて、バーニー・エクレストンは廃止された供託金制度を再導入し、エントリーを希望するチームに対して1600万ポンドの支払い義務を課すと述べた[35]

脚注

  1. ^ a b "2010年F1エントリーリストが発表。ザウバーはまだ承認されず。マノーはヴァージンに". オートスポーツ.(2009年12月1日)2013年2月8日閲覧。
  2. ^ “アメリカのチームがF1参戦を計画”. Gp Update. (2009年2月5日). http://f1.gpupdate.net/ja/news/2009/02/05/206536/ 2009年2月26日閲覧。 
  3. ^ “アメリカ人のチーム誕生か?”. F1キンダーガーデン. (2009年2月5日). http://www.f1-kindergarten.com/view_09/20090205_1508.php 2009年2月26日閲覧。 
  4. ^ “アメリカに新F1チーム“USF1”誕生か”. F1-Gate.com. (2009年2月4日). http://f1-gate.com/other/f1_2792.html 2009年2月26日閲覧。 
  5. ^ a b “USF1、チーム発表。「F1新時代の象徴に」”. F1キンダーガーデン. (2009年2月25日). http://www.f1-kindergarten.com/view_09/20090225_1594.php 2009年2月26日閲覧。 
  6. ^ “USF1 ダイナミックなアプローチを試みる”. Gp Update. (2009年2月25日). http://f1.gpupdate.net/ja/news/2009/02/25/207374/ 2009年2月26日閲覧。 
  7. ^ “Patrick eyed for new American F1 team”. ESPN. (2009年2月15日). http://sports.espn.go.com/rpm/racing/f1/news/story?id=3909107 2009年2月26日閲覧。 
  8. ^ “USF1、チーム名を『USGPE』に変更”. F1-Gate.com. (2009年3月4日). http://f1-gate.com/usf1/f1_2956.html 2009年3月9日閲覧。 
  9. ^ a b "FIA、2010年F1エントリーリストを発表 既存チームはすべて残留". オートスポーツ.(2009年6月12日)2013年2月8日閲覧。
  10. ^ “コスワース、F1に復帰”. F1-Gate.com. (2009年6月12日). http://f1-gate.com/other/f1_3845.html 2009年6月13日閲覧。 
  11. ^ “USF1、11月上旬にテスト走行を予定”. F1-Gate.com. (2009年5月15日). http://f1-gate.com/usf1/f1_3601.html 2009年6月13日閲覧。 
  12. ^ “Virgin to Manor, YouTube to US F1?”. onestopstrategy.com. (2009年6月26日). http://www.onestopstrategy.com/dailyf1news/nieuw/article/8069-Virgin+to+Manor%2C+YouTube+to+US+F1%3F.html 2009年8月20日閲覧。 
  13. ^ “YouTube co-founder backs Team US F1”. Autosport.com. (2009年8月19日). http://www.autosport.com/news/report.php/id/77778 2009年8月20日閲覧。 
  14. ^ “USF1、FOTA加入を申請”. F1-Gate.com. (2009年9月2日). http://f1-gate.com/usf1/f1_4682.html 2009年9月2日閲覧。 
  15. ^ YouTube US F1 Team - Introduction to the team -
  16. ^ “US F1 Team announces Jose Maria Lopez as driver for 2010 season”. USF1. (2010年1月25日). http://www.usgpe.com/news/us-f1-team-announces-jose-maria-lopez-as-driver-for-2010-season.html 2010年2月22日閲覧。 
  17. ^ “USF1、序盤4戦を欠場か”. F1-gate.com. (2010年1月10日). http://f1-gate.com/usf1/f1_6067.html 2010年2月22日閲覧。 
  18. ^ “USF1、開幕4戦の欠場を求める”. F1-gate.com. (2010年2月20日). http://f1-gate.com/usf1/f1_6563.html 2010年2月22日閲覧。 
  19. ^ “チャド・ハーリー、USF1とステファンGPの合併交渉に取り組む”. F1-gate.com. (2010年2月27日). http://f1-gate.com/usf1/f1_6619.html 2010年3月1日閲覧。 
  20. ^ “ステファンGPとUSF1の合併交渉は決裂”. F1-gate.com. (2010年2月28日). http://f1-gate.com/stefangp/f1_6625.html 2010年3月1日閲覧。 
  21. ^ “「USF1はトヨタのマシンを使うべきだった」”. ESPN F1. (2010年8月17日). http://ja.espnf1.com/f1/motorsport/story/26005.html 2010年8月18日閲覧。 
  22. ^ Speed Staff (2010年2月28日). “USF1 Asks for delay until 2011”. SpeedTV.com (Speed). http://formula-one.speedtv.com/article/f1-usf1-asks-for-delay-until-2011/ 2010年3月2日閲覧。 
  23. ^ "USF1、営業を停止". F1-Gate.com.(2010年3月3日)2015年2月8日閲覧。
  24. ^ Lopez exits USF1 contract, eyes Friday role with Campos”. motorsport.com (2010年3月2日). 2010年3月2日閲覧。
  25. ^ USF1 closed down?” (2010年3月2日). 2010年3月2日閲覧。
  26. ^ 『AUTOSPORT No.1250』P37 2010年4月22日発売 三栄書房刊行
  27. ^ “Team US F1 still looking for 2011 entry”. autosport. (2010年3月2日). http://www.autosport.com/news/report.php/id/81820 2010年3月3日閲覧。 
  28. ^ “ステファンGP、USF1の買収に合意”. F1-gate.com. (2010年3月20日). http://f1-gate.com/stefangp/f1_6875.html 2010年5月2日閲覧。 
  29. ^ “USF1、チーム活動を完全停止”. F1-gate.com. (2010年4月3日). http://f1-gate.com/usf1/f1_7051.html 2010年5月2日閲覧。 
  30. ^ “USF1 trailers seized and put on eBay”. Pitpass.Com. (2010年4月12日). http://www.pitpass.com/fes_php/pitpass_news_item.php?fes_art_id=40475l 2010年5月2日閲覧。 
  31. ^ “コスワース、USF1との契約を解除”. F1-gate.com. (2010年5月28日). http://f1-gate.com/cosworth/f1_7729.html 2010年5月28日閲覧。 
  32. ^ “F1: US F1 Factory Contents Go To Auction”. speedtv.com. (2010年6月10日). http://formula-one.speedtv.com/article/f1-us-f1-factory-contents-go-to-auction/ 2010年6月11日閲覧。 
  33. ^ “USF1、債権者向けの競売で140万ドルの売り上げ”. F1-gate.com. (2010年6月17日). http://f1-gate.com/usf1/f1_8022.html 2010年6月29日閲覧。 
  34. ^ “USF1、罰金および競技資格剥奪処分”. F1-gate.com. (2010年6月25日). http://f1-gate.com/usf1/f1_8106.html 2010年6月29日閲覧。 
  35. ^ "USF1問題により、エントリーにデポジット制が再導入". オートスポーツ.(2010年7月14日)2013年2月8日閲覧。

関連項目


「US F1チーム」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「USF1チーム」の関連用語

USF1チームのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



USF1チームのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのUS F1チーム (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS