OUT (桐野夏生)
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著者 | 桐野夏生 | |
発行日 |
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発行元 | 講談社 | |
ジャンル | 犯罪小説 | |
国 |
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言語 | 日本語 | |
形態 | ハードカバー | |
ページ数 | 448 | |
コード |
ISBN 978-4062734479(文庫版・上) ISBN 978-4062734486(文庫版・下) | |
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『OUT』(アウト)は、桐野夏生の小説。1998年に日本推理作家協会賞を受賞した。テレビドラマ化、映画化、舞台化もされた。
概要
深夜の弁当工場で働くパートの主婦・弥生が、夫によるDVに耐えかねて殺害したことをきっかけに、平凡な主婦たち4人が自由を求めて日常を離脱・脱社会化し、「OUT(アウト)」してゆく物語である。
バブル経済崩壊後の現代社会で生きる人々の日常生活や、新宿のヤクザ、日系ブラジル人出稼ぎ労働者などに対する視線と洞察が注目を浴び、1998年に日本推理作家協会賞を受け、80万部を越すベストセラーとなった。1999年にフジテレビでドラマ化され、後に映画化もされた。
日本で発表された7年後の2004年には、米ミステリー界のアカデミー賞といわれるエドガー賞 長編賞の4作品に、日本人作家として初めてノミネートされた。英訳[1]を手がけた講談社インターナショナルは、2003年8月に単行本で出版し、その年のうちに米国で3刷約18,000部を販売し、ペーパーバック版ではない単行本としては異例な売れ行きであったと伝えている。米国の『ワシントン・ポスト』紙は「日本女性のステレオタイプを打ち砕きながら、日本社会の暗部を描いた」と論評した[2]。2004年4月29日(日本時間4月30日)、桐野は、ニューヨークのグランド・ハイアット・ホテルで行なわれた授賞式に黒いロングドレス姿で出席した。受賞を逃したが、エドガー賞の審査委員長は「受賞作と他の作品との差はカミソリほどの薄さで、どの作品が受賞しても不思議でなかった」と選評を述べている。ノミネートされた際に「7年前の自分で判断してほしくない」と漏らしていた桐野は、授賞式後の記者会見において「家庭の崩壊やパートタイム、外国人労働者の問題などが普遍的だと評価されたと聞きました。日本もだんだん世界に近づいてきたなと思った」と感想を語った。なお、米国では2004年に直木賞受賞作『柔らかな頬』の翻訳出版が決まった。
あらすじ
東京郊外の弁当工場で、主婦たちは深夜のパート作業に精を出していた。香取雅子、42歳はリストラされた夫との間で家庭が崩壊寸前だった。吾妻ヨシエ、51歳は認知症の姑の介護に疲れ果てていた。城之内邦子、40歳はカードローンや街金からの多重債務に苦しんでいた。山本弥生、30歳はギャンブル依存症の夫から暴力を振るわれるという辛い日々を送っていた。
それぞれ悩みを抱える4人だったが、そんな中、弥生は夫がマイホームの頭金として貯めていた金をバカラ賭博で使い果たしたことに激昂し、殺害してしまう。弥生の窮地を救おうとした雅子は、ヨシエと邦子を巻き込み、死体をバラバラにしてゴミ集積場に分散投棄し、証拠隠滅を図る。しかし、邦子が遺体の一部を公園に捨てたことから、事件は露見する。
警察の捜査が難航する一方、有力容疑者として逮捕された地下カジノのオーナー・佐竹は興信所を使って弥生の周辺を探り始める。また、借金の棒引きと引き換えに邦子から事件の全貌を聞き出した街金のチンピラ・十文字は、死体隠滅の仕事を雅子に持ちかけるなど、雅子たちの日常は確実に崩壊へと向かっていた。
登場人物
- 香取雅子
- 主人公。元は信用金庫の有能な行員だったが、職場で孤立した末に退職。弁当工場の深夜パート勤務となった。
- 吾妻ヨシエ
- 弁当工場で雅子とチームを組むパート従業員。経験が長く作業の手際が良い事から「師匠」と呼ばれている。夫を早くに失い、寝たきりの姑と娘の3人で暮らしているため苦しい生活を送っている。
- 城之内邦子
- 弁当工場で雅子とチームを組むパート従業員。自堕落で消費に関して我慢の効かない買い物依存症のため、カードローンと街金の多重債務に陥っている。同棲している内縁の夫がいたが逃げられた。
- 山本弥生
- 弁当工場で雅子とチームを組むパート従業員の主婦。工場に不似合いなほどの美貌の持ち主で二児の母だが、夫は真面目で家計を助けようとする弥生を疎ましがっており、クラブの中国人ホステスに入れあげた挙句、遊興費を捻出するためにバカラに手を出して貯金を使い果たしてしまった。愛称は「山ちゃん」。
- 十文字彬
- 邦子が金を借りていた街金のチンピラ。かつて信金の債権回収業務を請け負っており、雅子の下で働いていたことがある。女子高生好きのロリコンだが、仕事では年上の女性に信頼を置く。名前はハッタリを利かせるための通称で、競輪選手から取っている。本名は「山田明」。
- 佐竹光義
- 弥生の夫が直前まで入り浸っていた地下カジノとクラブのオーナー。かつては暴力団で女衒をしていたが、引き抜きをした口入屋をなぶり殺しにしたことで逮捕・破門されており、その前科から有力容疑者として真っ先に別件逮捕された。
- 曽我
- 暴力団・豊住会の組員。十文字の暴走族時代の先輩。
- 宮森カズオ
- ブラジルから出稼ぎにきた日系ブラジル人(外国人労働者)。期待していたコンピューターのスキルを磨ける職場ではなかったことから鬱屈を抱えている。
- 衣笠
- バラバラ殺人の捜査に携わる警視庁捜査一課の刑事。殺人の前科がある佐竹を犯人と目する。
- 今井
- バラバラ殺人の捜査に携わる武蔵大和署捜査一課の刑事。弁当工場で働く雅子たちのグループ疑念を抱くが、早々に頓挫する。
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書誌
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テレビドラマ
1999年、「OUT〜妻たちの犯罪〜」のタイトルでフジテレビにて放送された。ドラマ版のオリジナルキャラクターとして、飯島直子が演じる刑事「井口則子」が登場する。
映画
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監督 | 平山秀幸 |
脚本 | 鄭義信 |
製作 |
古澤利夫 木村典代 |
製作総指揮 | 諸橋健一 |
音楽 | 安川午朗 |
撮影 | 柴崎幸三 |
編集 | 川島章正 |
製作会社 |
ムービーテレビジョン サンダンス・カンパニー |
配給 | 20世紀フォックス |
公開 |
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上映時間 | 119分 |
製作国 |
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言語 | 日本語 |
興行収入 | 3億円[3] |
2002年10月19日に公開された。基本的な設定は残しているが、「宮森カズオが一切登場しない」「結末が異なる」など、原作とは違った展開となっている。アカデミー賞の最優秀外国語映画賞に日本代表作品として出品された。
- キャスト
- 製作
- 企画は20世紀FOXの社員で、サンダンス・カンパニー代表の古澤利夫(藤崎貞利)[4](詳細は『それから』を参照)。ムービーテレビジョンと組んで製作を決めた[5]。
舞台劇
2000年新宿スペース・ゼロにて初演された。最も原作に近いとされる。この公演で演出の鈴木裕美が第35回紀伊國屋演劇賞個人賞、第8回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞、主演の久世星佳が第8回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した。これを受け、2002年にPARCO劇場で再演された。
- 演出 - 鈴木裕美
- 脚本 - 飯島早苗
- 出演 ()内は2002年再演時。
脚注
- ^ 英訳者スティーヴン・スナイダー(出版元・講談社による日本語表記を採用: http://www.kodansha-intl.com/books/html/jp/4770029055.html)(Stephen Snyder)は日本文学研究者であり、コロラド大学教授。これまでにも、辻邦生の著作『安土往還記』(The signore)、村上龍著『コインロッカー・ベイビーズ』(Coin locker babies)や、柳美里、大江健三郎の小説など、多くの英訳を手がけている。
- ^ Washingtonpost: A Japanese noir, a pair of Northwest mysteries and an elegant culinary tale from Spain"Out offers an intriguing look at the darker sides of Japanese society while smashing stereotypes about Japanese women.
- ^ 「2002年度 日本映画・外国映画 業界総決算 経営/製作/配給/興行のすべて」『キネマ旬報』2003年(平成15年)2月下旬号、キネマ旬報社、2003年、140頁。
- ^ 古澤利夫『映画の力』ビジネス社、2019年、393-398頁。ISBN 9784828420769。
- ^ 『映画の力』、417頁。
関連項目
- 井の頭公園バラバラ殺人事件 - 1994年に発生した殺人事件。公園のゴミ捨て場に切り揃えられたバラバラ死体が投棄されるなど小説との共通点が多い。著者も執筆に際して事件の取材に当たった記者やルポライターに取材したとエッセイで語っている。
外部リンク
- 映画オフィシャルサイト
- 2002年PARCO劇場公演インフォメーション
- OUT - allcinema
- OUT - KINENOTE
- Out - Kirino Natsuo - Complete Review
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