HIF-1
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 13:56 UTC 版)
HIF-1αは通常の酸素圧下において細胞内発現量が減少するが、HIF-1αタンパク質自体の産生量が低下しているわけではなくユビキチン-プロテアソーム系を介したタンパク質分解によりその機能が負に制御されており、その分解過程にはユビキチンリガーゼ(タンパク質のユビキチン化の一端を担う酵素)複合体の基質認識サブユニットとして機能するフォンヒッペル・リンダウ遺伝子産物(pVHL)が関与している。pVHLによるタンパク質の認識にはヒドロキシル化が関与しているが、HIF-1αはPHDドメインを保有する酵素によってアミノ基末端側から402番目および564番目のプロリン(Pro)残基がヒドロキシル化を受け、これらのアミノ酸残基はHIF-2αにおいても保存されている。しかしPHDの活性は酸素濃度に依存するため、低酸素状態においてはプロテアソーム依存的なHIFの分解は生じにくく、正常酸素圧下で盛んに行われる。分解を免れたHIF-1αは核内へ移行した後にHIF-1βとのヘテロ二量体の形成やCBP/p300などのヒストンアセチル化酵素との結合が行われ、これらの複合体はDNA上の低酸素応答性領域(Hypoxia Responsive Element、HRE)と呼ばれる応答エレメント(5'-ACGTG-3')に結合する。 また、HIF-1αの低酸素以外の要因による誘導経路として増殖因子が細胞膜上に存在するチロシンキナーゼ関連型受容体に結合することによるシグナルが挙げられる。具体的には受容体(HER2など)にリガンドが結合するとPI3キナーゼ-Akt経路やMAPキナーゼ経路が活性化され、HIF-1αの転写を促進する。 HIF-1αは1992年にグレッグ・セメンザらによって発見され、細胞における酸素応答の分子機構が明らかになるきっかけになったとして、セメンザらは2019年のノーベル生理・医学賞を受賞した。
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