風哭かせ山脈哭かせ冬さくら
作 者 |
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冬 |
出 典 |
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前 書 |
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評 言 |
掲句は吉田末灰の第8句集である「淡如」で詠った鬼石桜山 十句中の1句である。 桜から受ける心象は寒さから解放され、暖かな日々がやってきてほっとすると共に、一斉に咲き誇る華やかさであるが、冬さくらは逆に掲句にもあるように北風が吹き初め、これから寒さに向かう時期にひっそりと咲くので、さくらよりも梅の花の感じがする。群馬県鬼石は冬さくらの名所である。桜山公園は日露戦争の戦勝祝いに植樹したのが始まりで、ソメイヨシノの苗にたまたま冬さくらの苗が混じっていたもので、現在では冬桜約7千本、ソメイヨシノ約3千本の合わせて約1万本の桜がある。鬼石は桜山公園だけでなく谷間や民家の庭先にも冬桜が植えており、また神流川を挟んで隣町の埼玉県神川町にある城峰公園も冬桜の名所として多くの観光客が訪れる。冬さくらは丁度遅い紅葉の時期と同じであるので、さくら見学と紅葉狩りが同時にでき、得した気分にもさせてくる。掲句にも詠われているが「かかあ天下と空っ風」との諺の通り、山里にある桜山公園は冬さくらが咲く時分となると北風が強く吹き、まるで山全体が哭いているようであり、桜山の情景が巧みに詠われている。鬼石桜山10句とあるように、作者が冬さくらを詠った句はこの他 さくら山寒し無聊の歩と杖と 百枝張り天と触れあふ冬さくら 冬さくら無韻の刻を吾に与ふ あはあはと八束の詩韻冬さくら 他5句があり、鬼石桜山の情景が浮かんでくる。 吉田末灰は俳誌「やまびこ」の創刊主宰であり、現在群馬県現代俳句協会 顧問である。また群馬県教育文化功労賞他多くの賞を受賞しており、群馬県文学賞選考委員、村上鬼城顕彰会副会長等の重責を負っている以外にも各地で開催される俳句大会の選者であると共に投句者であり、各俳句大会で毎回のように入賞している。 もう10数年前、ある祝いの席で一緒になり、声を掛けると気軽に箸袋に「雪女郎抱きたし抱けば死ぬるかも」に書いて呉れたのを今でも忘れない。 写真は藤岡市HPより |
評 者 |
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備 考 |
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