部分的合意ナッシュ均衡と政治経済学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/24 17:07 UTC 版)
「ジョン・ローマー」の記事における「部分的合意ナッシュ均衡と政治経済学」の解説
ローマーはまた政治経済学の分野でも新しいアイデアを発展させている。『政治的競争』という著作の中で彼は、伝統的なダウンズ派の政治競争のモデルは、1次元的な政策空間での政治的競争を扱うものであるが、これは、なぜ民主主義の下で貧者による富者からの収奪が行われないかといった多くの疑問に対して十分に答えていないという理由から満足のいくものではないと主張する。もっとも、多次元政策空間においては、ナッシュ均衡は通常存在しないのであるから、政党がどのような政策を提示してくるかを予見するためには新たな別の手段が必要となる。ローマーは、この問題に対し、部分的合意ナッシュ均衡(Party-Unanimity Nash Equilibrium、PUNE)というコンセプトを通してその解決法を提示した。 ローマー・モデルにおいては、すべての政党は「日和見派」、「過激派」、「改革派」の3つのタイプの派閥で構成されているものとされる。日和見派は、選挙における政党の得票率を最大にすることにしか関心がない。過激派は、平均的な政党の構成員が支持する政策を宣言(そして実行)する。改革派は、日和見派・過激派の目的関数と凸結合となる目的関数を持つ。改革派の存在は、政党がいかなる政策をうち出すかという点に関して何らの影響も与えないとされている。 2つの政党があるとして、ある政党における2つの政策の組み合わせが部分的合意ナッシュ均衡となるのは、元の政策が別の政党から提示されたときに、政党の改革派と過激派が、彼らの元の政策を変更することに一致して合意しない場合である。言い換えると、かりに2つの政策が部分的合意ナッシュ均衡を構成するならば、それは政党が進めた政策から離れることが2つの派閥にとって望ましい(1つの派閥にとっては強く望ましい)状態とはいえない場合である。このような政策の変更について一致することは稀であるため、部分的合意ナッシュ均衡は通常のナッシュ均衡と比べてより存在しやすいものであるといえる。そのため、多元的均衡という別の問題が生じてくるが、この部分的合意ナッシュ均衡という概念は有用であることが分かっており、ローマーや彼の共著者はこれを人種差別や排外主義といった問題の研究の際に用いている。
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