羊飼いたち (ヴァトーの絵画)とは? わかりやすく解説

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羊飼いたち (ヴァトーの絵画)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/12 18:02 UTC 版)

『羊飼いたち』
ドイツ語: Die Hirten
英語: The Shepherds
作者 アントワーヌ・ヴァトー
製作年 1717年ごろ
素材 キャンバス上に油彩
寸法 56 cm × 81 cm (22 in × 32 in)
所蔵 シャルロッテンブルク宮殿ベルリン

羊飼いたち』(ひつじかいたち、: Die Hirten: The Shepherds)は、18世紀フランスロココ期の巨匠アントワーヌ・ヴァトーが1717年ごろ、キャンバス上に油彩で制作した絵画である。 現在、ベルリンシャルロッテンブルク宮殿に所蔵されている[1][2]。同じくヴァトーが1714-1716年ごろに描いた『牧歌的な喜び』(コンデ美術館シャンティイ) で用いたのと同じ構図であるが、完成度が高い。

背景

ヴァトーの雅宴画英語版の舞台は、身近な自然のただなかである[1]。古来、ヨーロッパの人々は、都市から遠く離れた田園を農民や羊飼いたちが素朴で理想的な生活を送るユートピアとして捉えてきた。ところが、16世紀末になると、都会生活者が、近郊の森に出かけて食事や音楽、ダンスなど現世的な楽しみを味わう内容の詩が盛んに作られるようになった。このため、公園や都市近郊の身近な自然もまた、日常的に訪れることが可能な一種のユートピアとする考えが生まれたようである[1]

作品

ヴァトー『牧歌的な喜び』 (1714-1716年ごろ)、コンデ美術館シャンティイ

本作は、田舎で羊飼いに扮している富裕な都市生活者たちを表している (あるいは、芝居中の田園で遊ぶ場面を表している)[1]。中央では、優雅なプールポワンを纏い、羽根飾りのついたベレー帽を被った若い男性が、サテンのドレスを身に着けた若い女性とメヌエットと思われる踊りをしている[3]。音楽家が彼らのために演奏している。別の男女が2人の踊りを見ており、さらに別の男女がお互いに囁き交わし、3組目の男女がブランコで遊んでいる。

プッサン『我アルカディアにもあり』 (1637-1638年ごろ)、ルーヴル美術館パリ

画面のいくつかの部分は、直接ルーベンスの作品から借用している。音楽家、その隣の人物、彼の隣で女性を抱いている羊飼い、そして前景の犬である。場面の装った性質は、本物の羊飼いの存在によって高められている。ほとんど灌木に隠れている羊たちは、後景右側で草を食んでいる。全体として、本作は、フランスの当時のパストラル (牧歌) 詩を絵画に翻案したものである。

作品はプッサンの『我アルカディアにもあり』 (ルーヴル美術館パリ) を参照しているが、相違点がある。というのは、プッサンのパストラル作品には当時の本物の羊飼いはまったく登場せず、理想化された古代の羊飼いという、神話上のアルカディアの人々が表されているからである[4]。一方、ヴァトーによって描かれ、ベルナール・フォントネルによって記述された羊飼いは、フロントネルが後に説明したように「半分だけ真実」なのである。

それで、羊のいる場面が、それを損なう偽の登場人物がいるにもかかわらず、魅力的なのはどのような場合なのであろうか。羊のいる場面に、粗野さのために本物の羊飼いのように見える宮廷人が登場することを、羊飼いが繊細さと優雅さをもっているために宮廷人のように見えることを、我々は楽しむのであろうか。決してそんなことはない。しかし、ある意味、羊飼いの性質は虚構ではない。我々は、彼らの真の労働の卑しさを見てはおらず、その労働が引き起こすわずかに動揺させられるものを見ているだけである。真の労働の卑しさが描かれていたら、魅力的で優雅な場面を生み出すものはすべて失われてしまう。代わりに、これらの作品にある平穏さが効果的な作用をし、牧歌的生活に関するすべての魅力を生む唯一の基盤となっている。想像力を楽しませるために、真実が取り去られている。しかし、鑑賞者を満足させるのは難しくない。ただ、半分の真実だけが必要なのである[5]

作品の様式は、ジャン=バティスト・デュボスの羊飼い愛好者および着飾った女性羊飼いたちに近い[6]。ヴァトーの作品における人物たちと自然の調和は、ヴェルサイユ宮殿内のル・アモー・ドゥ・ラ・レーヌにおける、理想化された牧歌的状況を真似ており、貴族社会が発明したものである[7]

脚注

  1. ^ a b c d 『週刊西洋絵画の巨匠 45 ヴァトー』、2010年、6頁。
  2. ^ The Shepherds”. Web Gallery of Artサイト (英語). 2025年11月9日閲覧。
  3. ^ Cohen, Sarah R. (1994). “Un bal continuel : Watteau's Cythera Paintings and Aristocratic Dancing in the 1710s”. Art History 17 (2): 174. doi:10.1111/j.1467-8365.1994.tb00571.x. 
  4. ^ Hauser, Arnold (2005). Social History of Art. Volume 3: Rococo, Classicism and Romanticism. London: Routledge. p. 20. ISBN 978-1-13463-745-4 
  5. ^ (フランス語) Bernard Le Bouyer de Fontenelle, Œuvres de Fontenelle, t.3, 1re part., Paris, Armand Belin, 1818, p.59.
  6. ^ (フランス語) Alfred Lombard, L’Abbé Du Bos, un initiateur de la pensée moderne (1670-1742), Paris, Hachette, 1913, 614 nb. p, p.298.
  7. ^ (フランス語) René Huyghe, L’Univers de Watteau, Paris, Scrépel, 1982, 117

参考文献

  • 『週刊西洋絵画の巨匠 45 ヴァトー』、小学館、2010年刊行 

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