ダンス (ヴァトーの絵画)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/08 09:35 UTC 版)
| ドイツ語: Der Tanz 英語: The Dance |
|
| 作者 | アントワーヌ・ヴァトー |
|---|---|
| 製作年 | 1718-1721年 |
| 素材 | キャンバス上に油彩 |
| 寸法 | 97.5 cm × 116 cm (38.4 in × 46 in) |
| 所蔵 | 絵画館 (ベルリン) |
『ダンス』 (独: Der Tanz、英: The Dance) は、フランスのロココ期の巨匠アントワーヌ・ヴァトーが1718-1721年にキャンバス上に油彩で制作した絵画である。絵画の初期の委嘱などに関しては何も知られていないが、1769年以降あるいは以前からハインリヒ・フォン・プロイセン (1726-1802) の所有であったと思われる[1]。作品は1951年からドイツ国家からの寄託作品として[1]、絵画館 (ベルリン) に所蔵されている[1][2][3]。
作品
本作は、ジャン・ド・ジュリエンヌによって1721-1739年に編纂された版画集にシャルル=ニコラ・コシャンがエングレービングにした作品として登場する。説明書きによれば、「イリス (Iris)」という題名が付されている[1]。
森の端の草原に4人の子供たちが描かれている。彼らを見ている人は誰もいない。踊り手の少女イリスはあたかも舞台にいるかのごとく、踊る合図を待っているように見える。彼女は合図を送る相手の方をはっきりと向き、期待感を持って見つめている[1]。画面内の様々な事物がダンスの意味を深く示唆する。ハートが描かれた盾 (画面下部左側)、その下に見えるキューピッドの矢、白と赤のバラの入った籠は、恋とその悲しみの象徴と捉えることができる。恋とその悲しみは、少女が子供の遊びを卒業して大人になるとすぐに知ることになるものである[1][2]。
木陰に座っている彼女の3人の仲間たちは、羊飼いの格好をしている。1人の少年は長い牧羊杖を持つ一方[1]、もう1人はフルートを吹き始めており、すでに少女のダンスの伴奏を始めているのかもしれない。2人の少年の間にいる少女は体を伸ばし、黙ってダンスの始まりに注目している[1][2]。茶と白色のブチ模様の犬だけが我関せずという感じで穏やかに眠っている[1]。優雅で都会的な服装をしている子供たちはすでに大人の世界の雛形を示し[2]、大人の雅宴画 (ヴァトーを有名にした絵画のジャンル) の世界を真似ているのであろうか[1]。ちなみに、当時、子供は「未熟な大人」として扱われた。少女たちは幼いうちから大人と同じように体型を補整するドレスを着せられ、ダンスを学ばされた。とはいえ、ヴァトーはいつも子供を愛情のこもった眼差しで捉え、しばしば雅宴画の中にもかわいらしく遊ぶ姿で登場させている[3]。
この絵画は1719年ごろ、ヴァトーが結核の療養のため[3]1年ほど滞在したイングランドで描かれたのかもしれない[1]。豪華な絹のドレスの仕立ては1718年ごろの最新のイングランドのファッションと合致しており、それは数年後にフランスでもなじみのあるものとなった。X線画像によると、作品は本来、楕円形であったことがわかっている。長方形に変えられた理由は不明であるが、上述のコシャンのエングレービングは現在の形状を示しているため、形状の変更は遅くとも1726年までになされたはずである。座っている3人の子供たちの頭部を表す準備素描が現存している[1]。
脚注
参考文献
- 有川治男・重延浩・高草茂編集『NHK ベルリン美術館1 ヨーロッパ美術の精華』、角川書店、1993年刊行 ISBN 4-04-650901-5
- 『週刊西洋絵画の巨匠 45 ヴァトー』、小学館、2010年刊行
外部リンク
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