管状要素の発生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/22 20:28 UTC 版)
管状要素 (道管要素、仮道管) は、茎や根の頂端分裂組織に由来する前形成層、または側部分裂組織である維管束形成層から形成される。このような細胞は拡大・伸長することで分化を始める。これらの細胞は、最初は一次細胞壁 (primary cell wall; 一次壁) のみで囲まれている。一次細胞壁のセルロースミクロフィブリル (セルロース微繊維) は比較的粗であるため、細胞の拡大・伸長を可能にしている。 やがて細胞の拡大・伸長が停止または一定の大きさに達すると、一次細胞壁の内側に厚い二次細胞壁 (secondary cell wall; 二次壁) を形成する。一次細胞壁にくらべて、二次細胞壁ではセルロースミクロフィブリルの密度が高く、またセルロースミクロフィブリルがお互いにほぼ平行に配向している。このセルロースミクロフィブリルの全体の配向は厚い二次細胞壁の内層から外層にかけて変化しており、ふつう複数の層構造を示す。このようなセルロースミクロフィブリルの配向には、細胞骨格系の表層微小管の配向が関与していることが知られている。またこのような表層微小管は二次細胞壁の肥厚パターンにも関係しており、たとえばらせん紋肥厚をもつ発生中の管状要素では、表層微小管もらせん状に配向している。壁孔の部分は二次細胞壁が形成されないことで形成されるが、そこにも表層微小管が関わっている。道管要素の場合、二次壁形成の最終段階で細胞両端の隔壁となっている部分で細胞壁の分解が起こり、穿孔が形成される。 また二次壁の形成と平行して、管状要素の細胞壁にはリグニンの沈着が起こる。細胞壁におけるリグニンの沈着は木化 (リグニン化、木質化、lignification) とよばれる。一次木部 (頂端分裂組織に由来する木部) の管状要素では二次細胞壁から木化するが、二次木部 (維管束形成層に由来する木部) の管状要素では中葉 (中層、細胞間層)、一次細胞壁、二次細胞壁の順で木化する。 最終的に、プログラム細胞死することで道管要素は完成する。細胞内の液胞が崩壊して酵素などが放出され、これによって他の細胞小器官が分解されると考えられている。 このような管状要素の分化には、VNDファミリーと呼ばれる転写因子が関わっていることが明らかとなっている。また道管に分化する細胞はザイロジェンとよばれる糖タンパク質を分泌し、これが周囲の細胞が道管になることを誘導することが知られている。 完成した管状要素は死細胞ではあるが、永続的に機能しているわけではない。木本においては、20年ほど機能しているものもあるが、1年しか機能しないものもある。古くなったり障害を受けた管状要素は、隣接する柔組織から形成されたチロースやゴム質によって閉塞される。チロース (tylose, tylosis) は隣接する柔細胞が壁孔を通して侵入し拡大成長、細胞壁が肥厚したものである。ゴム質 (gum) は多糖類からなり、ときにポリフェノールを含む。チロースなどによって充填された管状要素は、物理的支持力を増す。
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