笠雄二郎の配合理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 22:47 UTC 版)
笠雄二郎は在野の血統研究家で、1984年に『日本サラブレッド配合史』を上梓した。「日本」と銘打ち、100頭の日本産名馬の血統表を掲載しているが、実態としては世界のサラブレッドの配合の歴史を概観し、その中に通底する配合の技法を探し出し整理概説した上で、それが世界や国内のサラブレッド生産において、どのように適用されてきたか、演繹法と帰納法を使い歴史を通説することによってその有効性を論証しようと試みている。 笠はインブリードおよびラインブリードの技法(これを総合して笠は「クロス」と呼ぶ)に特に着目し、配合を通じたサラブレッドの改良について、以下のファクターが重要であると考える。 優秀な血を引くこと A級馬のクロス 同じ馬についての継続交配 クロスの継続と転換 同血・全きょうだい・4分の3同血のクロス 父母相似交配 4分の1異系導入と他のクロスによる止揚 「全きょうだいクロス」や「4分の3同血クロス」のようなニアリーな血のクロスを、笠は活力を増す配合として重視する。「全きょうだいクロス」は例えば、パーソロン産駒のプリメロの全きょうだいのクロスによって実証されている。そして、「4分の3同血クロス」だが、例えば、サンデーサイレンス産駒のヘリオポリスとガルフストリームの4分の3同血という相似な血のニアリー・クロスなどから、多くのG1ホースが続出していることが分かっている。 上記の表現のうち、いくつかは笠雄二郎が生み出した独特の表現である。まず、4分の3同血とは、サドラーズウェルズとヌレイエフのような、血統表の4分の3程度(またはそれ以上)が同じ血統の馬を示す。父母相似交配とは、父と母が複数の共通祖先を持ち、多種類のクロスが生じる配合(セントライトやマルゼンスキーなどが好例)を指す。それは爆発力を増すと笠は考える。また、4分の1異系とは、血統表の祖父母において、3頭が比較的似たタイプの血統で、残りの1頭だけが異系血統(強くインブリードされていればなお望ましい)ことによって、活力を生じさせることを指す。 なお、笠はクロスの表記法として、例えばネアルコなら「セントサイモン5・4×4・5」というように、父側の共通祖先と母側の共通祖先を分けるように表記した。それまでの世界の血統解説書では「5×4×4×5」のように父母の区別が付いておらず、父側のみに共通祖先があって本馬においてはアウトブリードなのかインブリードなのかが分かりづらかったりするので、これは独特な改善であると言えるだろう。なぜなら、インブリードは自身に存在しているのか、祖先に存在しているのか、どちらなのかが問題であって、自身に存在することと祖先に存在することとを、遺伝学的に区別しなければいけないという考えを表記として明示したからだ。 「クロス」の概念も含め、血統表の共通祖先を利用した配合手法を分かりやすく整理した点、「全きょうだいクロス(全兄弟クロス)」をA=B、「4分の3同血クロス」をA≒Bと表記したり、シンプルな表記を多用して、血統の配合論の手法を整理した点も評価できる。
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