牛ほめ
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『牛ほめ』(うしほめ)は落語の演目の一つ。原話は、貞享4年(1687年)に出版された笑話本・『はなし大全』の一遍である「火除けの札」。別名『普請ほめ』(ふしんほめ)。親類の新築された家に行ってその建築を褒め称えてから節穴に火除けの札を貼って隠す提案をし、さらに飼っている牛を褒めて小遣いを稼ごうとする、頭のよくない男を描く。
上方落語では『池田の牛ほめ』(いけだのうしほめ)という演目で、題は新築した家が池田にあることに由来する。佐竹昭広と三田純一の編著『上方落語』下巻(筑摩書房、1970年)は、類似の民話や東京の『牛ほめ』にある、親が「馬鹿息子」を思いやるという要素が『池田の牛ほめ』には見られない点に着目して、東京から上方に移入されたものではないかと述べている[1]。
主な演者に5代目春風亭柳昇や4代目春風亭柳好、春風亭一朝、上方の4代目桂文我などがいる。
あらすじ
とにかく頓珍漢な言動ばかりしている与太郎。万事が世間の皆様とズレているので、父親は頭を抱えている。
今度、兄貴の佐兵衛が家を新築したと聞き、これは与太郎の汚名を返上するチャンスだと考えた父親は、家を褒めさせるため、与太郎に次の口上を伝授しようとする。
そこでさらに台所の柱に節穴があることを指摘した上で、そこに秋葉様の札を貼れば、火除けにもなって節穴も隠れると言えば、小遣いを恵んでくれるだろうと話す。与太郎がもっと何か小遣いがもらえるものがないかと尋ね、父親は伯父の飼っている牛を褒めろと次の口上も紹介した。
この牛は、「天角地眼一黒直頭耳小歯違」でございます。
「天角地眼-」というのは、菅原道真が寵愛した牛の特徴で、最高の褒め言葉だと説明する。
練習させると与太郎は天井を「薩摩芋に鶉豆」、「左右の壁は砂摺り」を「佐兵衛のカカァはおひきずり[注釈 1]」などと言う始末。やむなく紙に書いて与太郎に渡し、伯父の家に送り出した。
伯父のところにやってきた与太郎は、父親との練習通りに挨拶をすませて、隠し持った紙を読みながらではあるが、何とか口上を言うことに成功。
水を飲みたいと言って台所へ行き、節穴を見つけて、教えられたとおり秋葉様の札を貼るように進言、感心した伯父は1円の小遣いを渡す。そこで与太郎が牛小屋に出向いて「天角地眼-」とやっていると、牛が目の前で糞を落とした。「畜生だから褒めた人の前でも糞をする」という伯父に与太郎は、ここにも秋葉様のお札を貼ればという。
「穴が隠れて、屁の用心になる」
落ちについて
「火」と「屁」を引っ掛けた地口落ちである。以前は「秋葉様のお札をお張りなさい」と簡単な落ちだったが、「屁の用心」が追加された。「秋葉様」とは、神仏習合の火防(ひよけ)・火伏せの神として広く信仰された秋葉権現で、お札は秋葉神社のお札である。上方版では愛宕神社とする演者もいる[要出典][注釈 2]。この落ち(東西共通)に関して、『上方落語』下巻は、「そのような〈地口落ち〉よりも、やはり「……お札を貼りなはれ」だけで〈間抜け落〉とする方が好ましい」と評する[3]。
脚注
注釈
出典
- ^ 佐竹・三田 1970, pp. 102–104.
- ^ 佐竹・三田 1970, p. 96.
- ^ 佐竹・三田 1970, p. 93.
参考文献
固有名詞の分類
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