毒物の特定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 20:31 UTC 版)
2006年11月3日、リトビネンコは「エドウィン・カーター」の偽名で北ロンドンのバーネット病院に入院した。当初は胃腸炎と診断され、抗生物質による治療を受けた。しかし症状は悪化を続けたため、リトビネンコは医師に本当の身元を明かした上で、自分は暗殺者により毒物を盛られたのだと主張した。11月17日、リトビネンコは集中治療のためロンドン中心部のユニバーシティ・カレッジ病院(英語版)に移された。リトビネンコはその症状からタリウム中毒を疑われており、実際に体内からタリウムが検出されたとの報道もあった。リトビネンコには脱毛が見られ、これはタリウム中毒に特徴的な症状の1つだった。それと同時に、タリウムの放射性同位体などによる放射線障害の可能性も疑われたが、ガイガーカウンターで身体を検査しても異常は検出されなかった。その後、リトビネンコの血液と尿のサンプルが英国核兵器機関(AWE)に送られ、AWEの科学者がガンマ線分光分析によって検査した結果、正常レベルをかろうじて上回るガンマ線のスパイク波形が確認された。BBCの報道によれば、この珍しいスパイク波形についての話し合いを偶然耳にした1人の科学者が、それがポロニウム210(210Po)の放射性崩壊によるガンマ線の信号であることを初めて認識した。 210Poは一般によく見られる放射線源とは異なり、多量のアルファ線(アルファ粒子)を放出する一方で、ガンマ線の放出は極めて微量という特徴がある。アルファ線はガンマ線とは異なり1枚の紙や人間の表皮でも遮断されるため、一般的な放射線計測器で検出することは困難であり、実際に病院でのガイガーカウンターを用いての検査では異常が発見されなかった。アルファ線はガンマ線と同じく放射線損傷を引き起こすが、前述のように表皮によって遮断されるため、アルファ線放出物質は体内に摂取・吸入された場合にのみ重篤な被害をもたらすとされる。リトビネンコの死の前日である11月22日の夜、担当の医師らに毒物が210Poである可能性が高いことが伝えられた。翌日、尿のサンプルにアルファ線検出のための分光分析検査が行われた結果、毒物が210Poであることが確定された。
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