機構と論理的帰結
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/11 23:29 UTC 版)
ウーの実験の結果は、左右の概念を操作的に定義する(英語版)ための手段を提供する。これは弱い相互作用の性質にもともと備わっている。以前は、地球の科学者が新たに発見された惑星の科学者と話をするとして、彼らとじかに合ったことがないとすると、それぞれのグループが他方の左と右を一義的に決定することは不可能だった。ウーの実験を使うと、左と右という単語が厳密に、一義的に何を意味するかを他方のグループに伝えることが可能である。ウーの実験は、左右の一義的定義を科学系に与えるというオズマ問題を最終的に解決した。 素粒子レベルでは(右図のファインマン・ダイアグラムに描かれているように)、β崩壊はW−ボソンの放出による負の電荷 (−1/3 e) を持つダウンクォークの正の電荷 (+2/3 e) を持つアップクォークへの変換によって起こる。W−ボソンは続いて電子と反電子ニュートリノへ崩壊する。 d → u + e− + ν e クォークにはカイラリティが右巻きのものと左巻きのものがある。クォークが時空上を運動するにつれ、右巻きから左巻き、左巻きから右巻きへとカイラリティの振動が起こる。ウーの実験のパリティ対称性の破れの分析から、ダウンクォークのうち左巻きのもののみが崩壊すること、および弱い相互作用はクォークと左巻きのレプトン(あるいは反クォークと右巻き反レプトン)のみに関与することが推論できる。ダウンクォークのうち右巻きのものは弱い相互作用を単に感じない。もしダウンクォークが質量を持たないとすると振動は起こらず、その右巻き部分はそれだけで極めて安定となる。けれども、ダウンクォークは有限の質量を持つため、実際には振動し、崩壊する。 ウーの実験やゴールドハーバーの実験(ドイツ語版)といった実験から、質量を持たないニュートリノは左巻き、質量を持たない反ニュートリノは右巻きでなければならないと決定された。現在はニュートリノは小さな質量を持つことが知られているため、右巻きのニュートリノと左巻きの反ニュートリノが存在することが提唱されている。これらのニュートリノは弱いラグランジアンと結び付かず、重力的にしか相互作用しないので、宇宙の暗黒物質の一部を形成しているかもしれない。
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