末端複製問題と細胞老化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/12 05:20 UTC 版)
1970年代初期になると、分子生物学の発展とともにDNA複製の分子機構が明らかになりはじめる。DNAの合成はDNAポリメラーゼによって行われるが、この酵素によるDNAの生合成には方向性があり、複製を開始するために核酸の断片(プライマー)を必要とすることがわかった。つまり、この酵素は既にある核酸断片を一方向に延長することしかできない。生体内ではプライマーは別の酵素(DNAプライマーゼ)によって作られるRNA断片が用いられ、この断片は複製後に除去されるため、真核生物の直鎖状染色体DNAの末端は一度複製される毎にプライマーの長さだけ短くなると推測された。したがって世代を経るうちに染色体はなくなってしまうことになるが、これまで実際に染色体は維持され続けてきたのであり、矛盾が生じる。このことはアレクセイ・オロヴニコフ(1973年)やジェームズ・ワトソン(1973年)によって提示され、「テロメア問題」や「末端複製問題」と呼ばれた。なお、真正細菌のゲノムやプラスミドなど、末端のない環状DNAではこの問題は起こらない。一部のウイルスも直鎖状ゲノムをもつが、ゲノムDNAを直線的に連結させたり、感染したのちに環状構造をとることで末端複製問題を回避している。 一方、1960年代にはヒトの培養細胞を用いた研究で、体細胞組織から取り出した細胞には分裂回数に制限があり、それを越えると細胞は増殖を停止することが報告された。この現象は発見者の名前をとって「ヘイフリック限界」と呼ばれる。また、細胞分裂が停止したこの状態を、個体の老化になぞらえ「細胞老化」と呼ぶようになった。その後の研究で、細胞老化状態にある細胞ではテロメアが短くなっていることが観察され、テロメアの長さが細胞の分裂回数を制限している可能性が示唆されていた。
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