木心乾漆造とは? わかりやすく解説

乾漆造

(木心乾漆造 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/09 14:53 UTC 版)

不空羂索観音立像(東大寺法華堂、国宝
十一面観音立像(聖林寺(奈良)、国宝)
如意輪観音像(観心寺(大阪)、国宝)

乾漆造(かんしつぞう)とは、漆工の技法の一つであり、また東洋における彫像制作の技法の一つである。

麻布や和紙をで張り重ねたり[1]、漆と木粉を練り合わせたものを盛り上げて形作る方法である。

源流は中国にあり、中国では「夾紵」(きょうちょ)あるいは「ソク(土偏に「塞」)」と呼ばれた技法である。器物や棺、彫像などの製作にも用いられた。日本では7世紀末から8世紀にかけて仏像の制作に多用されたが、平安時代以降は衰退した。

彫像における乾漆造の種類

乾漆造には麻布を1センチほどの厚みに貼り重ねて形成する「脱活乾漆造」と、これを簡略化した技法と思われる「木心乾漆造」がある。

脱活乾漆造

制作方法を簡単に説明すると、次の通りである。

まず、木製の芯木で像の骨組みを作り、その上に粘土(塑土)を盛り上げて像の概形を作る。この上に麻布を麦漆で貼り重ねて像の形を作る。漆とは漆に麦粉(メリケン粉のようなもの)を混ぜてペースト状にしたもので、接着力が強い。麻布の大きさ、貼り重ねる厚さなどは像によって異なるが、おおむね1センチほどの厚さにする。こうしてできた張り子の像の上に抹香漆(まっこううるし)または木屎漆(こくそうるし)を盛り上げて細部を形作る。抹香漆とは、麦漆にスギマツなどの葉の粉末を混ぜたものであり、木屎漆とは麦漆におがくずヒノキ材をのこぎりで曳いた際のくず)や紡績くずなどを混ぜたものである。奈良時代には抹香漆、平安時代以降は木屎漆が主に使われた。

なお、像の形が完成した後は、背面などの目立たない部分を切開して中味の塑土を掻き出し、補強と型崩れ防止のために内部に木枠を組む。

この技法による像は、東大寺法華堂(三月堂)、興福寺唐招提寺などに現存し、日本彫刻史上著名な作品が多く含まれる。しかし、高価な漆を大量に用いる上、制作にも手間がかかるため、平安時代以降はほとんど作られなくなった。奈良・當麻寺(たいまでら)金堂の四天王立像は、破損甚大ながら、日本における脱活乾漆像の最古例と見なされる。

木心乾漆造

像の概形を木彫で作り、この上に麻布を貼り、抹香漆または木屎漆を盛り上げて完成させる像である。脱活乾漆像が中空の像であるのに対し、木心乾漆像の像内には木心が残ったままであり、麻布もさほど厚くは貼らない。平安時代前期の仏像の中には、木彫り像の一部に木心乾漆技法を併用して表情、装身具などの細部を形作っている例も多く、「木造」か「木心乾漆造」か、機械的に分けるのが困難な場合もある。 脱活乾漆像には乾燥すると収縮し像が痩せる特徴があり、対して木心乾漆造像は痩せが少ないため、ふくよかな像に適していたと考えられる[2]

木心乾漆造像は原型となる木心の組み方・構造によって以下のように分類される[2]

木骨木心乾漆造像
脱活乾漆像の麻布に当たる部分を、薄く削った木彫に替えたもの。
木寄せ式木心乾漆造像
木骨木心像の木彫部分を厚めにして強度を持たせ、内部の木心を取り除いたもの。
一木彫木心乾漆造像
木心の部分を一木から削りだしたもの。重量軽減やひび割れ防止のために内刳りを施す例が多い。前の2つの方法は上に塗った漆に木心は隠される前提で作られるが、一木彫像は木像に近く、細部もある程度掘り出され塗られる漆の厚みも薄い。
木体木心乾漆造像
一木彫式を寄せ木で簡便に作ったもの。後世の寄木造ほど組み方に厳密な規則性はない。

代表的な作品

  • 興福寺 八部衆立像(阿修羅像含む)
  • 興福寺 十大弟子立像
  • 葛井寺(大阪) 千手観音坐像

木心乾漆造の乾漆仏

  • 唐招提寺金堂 千手観音立像、薬師如来立像
  • 聖林寺(奈良) 十一面観音立像
  • 観音寺(京都) 十一面観音立像
  • 興福寺北円堂 四天王立像

木彫に木心乾漆技法併用の乾漆仏

脚注

  1. ^ この技法は現在の繊維強化プラスチックと同じである。
  2. ^ a b 久野健 編『彫刻』<日本史小百科>、近藤出版社、1985年 pp.126-129.

関連項目


木心乾漆造

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/15 02:26 UTC 版)

乾漆造」の記事における「木心乾漆造」の解説

像の概形木彫作りこの上麻布を貼り、抹香漆または木屎漆盛り上げて完成させる像である。脱活乾漆像が中空の像であるのに対し木心乾漆像の像内には木心が残ったままであり、麻布もさほど厚くは貼らない。平安時代前期仏像中には木彫り像の一部木心乾漆技法併用して表情装身具などの細部形作っている例も多く、「木造」か「木心乾漆造」か、機械的に分けるのが困難な場合もある。脱活乾漆像には乾燥する収縮し像が痩せ特徴があり、対して木心乾漆造像は痩せ少ないため、ふくよかな像に適していたと考えられる。 木心乾漆造像は原型となる木心の組み方・構造によって以下のように分類される木骨木心乾漆造像 脱活乾漆像の麻布に当たる部分を、薄く削った木彫替えたもの。 木寄せ式木心乾漆造像 木骨心像木彫部分厚めにして強度持たせ内部の木心を取り除いたもの。 一木彫木心乾漆造像 木心の部分一木から削りしたもの重量軽減ひび割れ防止のために内刳りを施す例が多い。前の2つ方法は上に塗った漆に木心は隠される前提作られるが、一木彫像木像近く細部ある程度掘り出され塗られる漆の厚みも薄い。 木体木心乾漆造像 一木彫式を寄せ木簡便に作ったもの。後世寄木造ほど組み方に厳密な規則性はない。

※この「木心乾漆造」の解説は、「乾漆造」の解説の一部です。
「木心乾漆造」を含む「乾漆造」の記事については、「乾漆造」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「木心乾漆造」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「木心乾漆造」の関連用語

木心乾漆造のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



木心乾漆造のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの乾漆造 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの乾漆造 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS