支配と整閉包
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/01 09:11 UTC 版)
付値環の単元すなわち可逆元は、x −1 が再び D の元であるような元 x である。D の他の元は、非単元と呼ばれるが、逆元をもたず、イデアル M をなす。このイデアルは D の(全順序な)イデアルの中で極大である。M は極大イデアルであるので、商環 D/M は体であり、D の剰余体(residue field)と呼ばれる。 一般に、次のとき局所環 ( S , m S ) {\displaystyle (S,{\mathfrak {m}}_{S})} は局所環 ( R , m R ) {\displaystyle (R,{\mathfrak {m}}_{R})} を支配すると言う。 S ⊃ R {\displaystyle S\supset R} かつ m S ∩ R = m R {\displaystyle {\mathfrak {m}}_{S}\cap R={\mathfrak {m}}_{R}} 。言い換えれば、包含 R ⊂ S {\displaystyle R\subset S} は局所射(英語版)である。体 K におけるすべての局所環 ( A , p ) {\displaystyle (A,{\mathfrak {p}})} はある K の付値環によって支配される。実際、A を含み 1 ∉ p R {\displaystyle 1\not \in {\mathfrak {p}}R} であるような K のすべての部分環 R からなる集合は空でなく帰納的なので、ツォルンの補題によって極大元 R {\displaystyle R} をもつ。R は付値環であると主張する。R は極大性によって p R {\displaystyle {\mathfrak {p}}R} を含む極大イデアルをもった局所環である。再び極大性によって整閉でもある。さて、 x ∉ R {\displaystyle x\not \in R} であれば、極大性によって、 p R [ x ] = R [ x ] {\displaystyle {\mathfrak {p}}R[x]=R[x]} でありしたがって次のように書ける。 1 = r 0 + r 1 x + ⋯ + r n x n , r i ∈ p R {\displaystyle 1=r_{0}+r_{1}x+\cdots +r_{n}x^{n},\quad r_{i}\in {\mathfrak {p}}R} . 1 − r 0 {\displaystyle 1-r_{0}} は単元であるので、このことは x − 1 {\displaystyle x^{-1}} は R 上整であることを示しており、したがって R の元である。このことは R が付値環であることを示している。(構成によって極大イデアルは p {\displaystyle {\mathfrak {p}}} を含むので R は A を支配する。) 体 K の局所環 R が付値環であることとそれが支配で順序を入れた K に含まれるすべての局所環からなる集合の極大元であることは同値である。これは上記から容易に従う。 A を体 K の部分環とし、 f : A → k {\displaystyle f:A\to k} を代数的閉体 k の中への環準同型とする。このとき f は、D を A を含む K のある付値環として、環準同型 g : D → k {\displaystyle g:D\to k} に拡張する。(証明: g : R → k {\displaystyle g:R\to k} を極大な拡張とする。これはツォルンの補題によって明らかに存在する。極大性によって、R は f の核を含む極大イデアルをもった局所環である。S が R を支配する局所環であれば、S は R 上代数的である。もしそうでないとすれば、 S {\displaystyle S} は g が拡張する多項式環 R [ x ] {\displaystyle R[x]} を含み、極大性に反する。 S / m S {\displaystyle S/{\mathfrak {m}}_{S}} は R / m R {\displaystyle R/{\mathfrak {m}}_{R}} の代数的な体拡大であることが従う。したがって、 S → S / m S ↪ k {\displaystyle S\to S/{\mathfrak {m}}_{S}\hookrightarrow k} は g を拡張する。ゆえに S = R。) 体 K の部分環 R が K の付値環 D を含めば、定義 1 を確認することによって、R もまた K の付値環である。とくに、R は局所環であり、その極大イデアルは D のある素イデアルと交わる。 p {\displaystyle {\mathfrak {p}}} としよう。すると R = D p {\displaystyle R=D_{\mathfrak {p}}} である、なぜならば R {\displaystyle R} は D p {\displaystyle D_{\mathfrak {p}}} を支配し、これはイデアルが全順序付けられているから付値環である。この考察は以下に含まれている。全単射な対応 p ↦ D p , Spec ( D ) → {\displaystyle {\mathfrak {p}}\mapsto D_{\mathfrak {p}},\operatorname {Spec} (D)\to } D を含む K のすべての部分環の集合、が存在する。とくに、D は整閉であり、D のクルル次元は D を含む K の真の部分環たちの濃度である。 実は、整域 A の A の分数体 K における整閉包は A を含む K のすべての付値環の共通部分である。実際、付値環は整閉なので整閉包はその共通部分に含まれる。逆に、x を K の元だが A 上整でないとしよう。イデアル x − 1 A [ x − 1 ] {\displaystyle x^{-1}A[x^{-1}]} は A [ x − 1 ] {\displaystyle A[x^{-1}]} でないので、それはある極大イデアル p {\displaystyle {\mathfrak {p}}} に含まれる。すると A [ x − 1 ] {\displaystyle A[x^{-1}]} の p {\displaystyle {\mathfrak {p}}} における局所化を支配する付値環 R が存在する。 x − 1 ∈ m R {\displaystyle x^{-1}\in {\mathfrak {m}}_{R}} であるので、 x ∉ R {\displaystyle x\not \in R} 。 支配は代数幾何学において使われる。X を体 k 上の代数多様体とする。このとき k ( X ) {\displaystyle k(X)} の付値環 R は、 R {\displaystyle R} が構造層の x における局所環 O x , X {\displaystyle {\mathcal {O}}_{x,X}} を支配するときに、"X 上に中心 x"をもつと言う。
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