支配―被支配の関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 07:45 UTC 版)
相手を未熟なものとして愛玩物的に可愛がり、保護する行動についてイーフー・トゥアンは著書『愛と支配の博物誌―ペットの王宮・奇型の庭園』(工作舎, 1988年)で、相手の自分への依存を強調することによって、他者を意のままにしたいという「支配の欲望」に直結するものであると指摘している。 これに関して明星大学教育学部教授の西村美香は「支配欲(もしくは庇護欲)」「ご都合主義的政治的用語」「商業的うまみ」の3つが要素が現在的な「かわいい」という言葉に含まれていると指摘し、「かわいい」という言葉が持つ「支配―被支配の関係」に関して次のように述べている。 例えば、不憫なゆえにかわいいとか、気持ち悪くてみなに相手にされなくてかわいいとか、いわば上から目線の支配的な心情がそこに見え隠れする。(中略)それは対象物をまるで所有物のように自分の配下に置き、上から見下すかのような感情ですらある。そして「かわいい」はそれを言われたものは、そこに上から目線や、見下した(ときには馬鹿にしているような)感情を読み取りながらも、「かわいい」が本質的には褒め言葉であるため、言われて居心地の悪さを感じることはあっても侮辱していると怒るほどのものではないと言われるままにひきさがる。苦々しく思いながらもひきさがらずをえないのである。この状況は、白黒をはっきりつけたがらない、ときには奥ゆかしくそしてまわりくどい、人間関係を円滑に進めようとする日本人の心情にぴったりなまさに日本的思考である。「かわいい」と言っていればとりあえずその場は何とかなる。「かわいい」をもちだすことでその場をなごませ、「かわいい」と言われることで小さき弱者に自分を位置づけ危機を回避することができるのである。 — 西村美香「かわいい論試論」明星大学人文学部『明星大学研究紀要人文学部』51号, pp.134-135, 2015年 また西村は「かわいい」を濫用し、自己にも「かわいい」を適合させる「すでに幼くも小さくもない大人の女性」について「誰かの庇護の元に入り、その誰かに依存して、したたかに生きてゆく戦略」と指摘しており、逆に「成熟しきって老いて醜くなった女性」が周囲から邪険にされず、老後の面倒を見てもらうには「かわいいおばあちゃん」となって少しでも好かれるぐらいしか生存戦略はないのかもしれないと推察している。
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