捜査・裁判に対する批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/18 23:13 UTC 版)
事件発覚後、逮捕に至るまでのAに対する任意の事情聴取は計74時間に及んだ。Aはこの頃の精神状態について、「もう精神的にも参っておりましたので、もうこれは早く自白して楽になったほうが自分でもいいんじゃないかというような、やけくそのような気持が起こりましたので、もう17日頃からもう早く逮捕しなさいよというようなことを警察に迫っておりました」と後の公判で述べている。しかし、確定審判決は「自白の任意性に疑いを抱かしめるほどの強制的なものであったとは、到底認めがたい」として任意性を認め、その点については再審開始決定でも維持された。 現在では、逮捕された被疑者は当番弁護士制度が利用でき、勾留されれば国選弁護人が付けられるが、任意捜査の段階ではこうした制度は利用できず、自費で私選弁護人を依頼するほかはない。また、裁判員裁判の対象となる事件では取り調べの可視化が義務付けられているが、やはり任意捜査の段階は対象となっていない。ジャーナリストの江川紹子は、「資力のない被疑者の場合、松橋事件と同じように長々と『任意』の取り調べを行って『自白』に追い込むという”捜査手法”が取られかねない」として、松橋事件のような冤罪を防ぐために任意捜査の段階から録音・録画を行うべきであると主張している。 また、Aと犯行を結びつける直接証拠は自白のみであり、自白偏重の捜査と確定審判決に対しても批判がある。熊本地裁は、Aの早期の名誉回復を優先して再審で実質的な審理を省略したが、これに対しては、再審を通じて冤罪の原因を究明して再発防止を検証することができなかったとの批判もある。Aの弁護団内でも再審で自白調書の信用性を吟味して判決に記載させるべきとする意見もあったが、その場合、半年以上の審理が見込まれることもあって、Aの存命中の判決を求めるために最終的に裁判所の意向を受け入れた。弁護団の一人は、「苦渋の決断である」と語ったという。元判事の門野博弁護士も「公開の法廷で証拠を検証しなければ、誤判の原因究明につながらない」と、熊本地裁の訴訟指揮に疑問を呈した。
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