意味の理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 07:38 UTC 版)
パトナムはクリプキやキース・ドネラン等とともに「指示の因果説」として知られる理論に貢献した。とくにパトナムは論文「『意味』の意味」において、自然種(natural kind)の語(たとえば虎や水や木といったような)によって指示される対象は、そうした語の意味の主要要素であると主張する。アダム・スミスが経済における分業について述べたのと同様、言語においても分業があり、この言語学的な分業によってそうした語は、それが属する特定の科学分野の「専門家」によって固定された指示対象をもっているのである。たとえば、「ライオン」という語の指示対象は動物学者のコミュニティによって固定されているし、「ニレの木」という語の指示対象は植物学者のコミュニティによって固定されている。そして「食卓塩」という語の指示対象は化学者によって「NaCl(塩化ナトリウム)」として固定されているのである。これらの指示対象は、クリプキ的意味で固定指示子(rigid designator)として考えられ、言語的コミュニティの外側に広められる。 パトナムによれば、言語内のどんな語の意味を描写するにせよ、有限個の要素(ベクトル)があればよい。こうしたベクトルは4つの構成要素から成る。 語が指示する対象。例)化学式H2Oによって個別化される対象〔水〕。 その語の「ステレオタイプ」的に言及される典型的な描写の集まり。例)〔水であれば〕「透明」「無色」「水和性」。 対象を一般的なカテゴリーに位置づける意味論的標識:例)「自然種」「液体」。 文法的標識:例)「具象名詞」「集合名詞」 このような「意味ベクトル」によって、特定の言語共同体におけるある表現の指示対象および用法の描写をおこなうことができる。これによってどうすればその表現を正しく用いるための条件もわかるし、ある一つの話者がその表現に適切な意味を付与しているか、それともその意味に変化をもたらすに十分なほど用法を変えてしまったかどうかも判定できる。パトナムによれば、ある表現の意味が変化したと言うことができるのは、語のステレオタイプではなく、語の指示対象が変化したときに限る。ただし、個別ケースにおいてどの側面--ステレオタイプであれ指示対象であれ--が変化したのかを決定できるアルゴリズムは存在しないから、その言語の他の表現がどのように用いられているかも考察する必要がある。このような考察すべき表現の数には際限がないわけだから、パトナムは一種の意味論的全体論を唱えていることになる。
※この「意味の理論」の解説は、「ヒラリー・パトナム」の解説の一部です。
「意味の理論」を含む「ヒラリー・パトナム」の記事については、「ヒラリー・パトナム」の概要を参照ください。
- 意味の理論のページへのリンク