惑星大気の分光観測
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 14:33 UTC 版)
「TRAPPIST-1」の記事における「惑星大気の分光観測」の解説
TRAPPIST-1系は惑星同士が比較的近接していること、主星がとても小さいこと、そして毎日のようにトランジット(通過)を起こす整列した軌道により、TRAPPIST-1系の惑星の大気は透過分光法調査の好ましいターゲットとされている。 2016年5月4日、bとcが共に同時にトランジットを起こした。その際にハッブル宇宙望遠鏡の観測によって得られたbとcの結合された透過スペクトルから、それぞれの惑星の大気は水素が支配的で雲が存在しないような大気ではないとされ、広がったガスの外層(エンベロープ)を持つ可能性は低いとみられる。 一方で別の研究では、この2つの惑星の周りには水素から成る大気があり、その外気圏は最大で惑星半径の7倍にまで達している可能性も示唆されている。 さらに、大気の分光サーベイ観測によって、主星に最も近いbには、水蒸気による気圧が101から104 barにもなり、暴走温室効果が起きている事が判明している。cからfまでの4惑星では、ガス惑星のような水素やヘリウムで満たされた大気は存在しなかったが、gにおいてはその可能性を完全に排除するほどの十分なデータは得られなかった。アストロバイオロジーセンターの堀安範と国立天文台の荻原正博は、各惑星が周囲の原始惑星系円盤ガス由来の水素・ヘリウムに富む「一次大気(英語版)」を過去に獲得したか、またそれを現在まで保持可能かについて惑星形成論の観点から検証し、惑星形成段階において各惑星が質量の0.01%から数%程度の一次大気を獲得した可能性があるが、数億年間にわたってTRAPPIST-1からのX線や紫外線に晒されることで全て散逸してしまうという結果を得た。このことから、TRAPPIST-1の各惑星が現在も大気を保持しているとすれば、それは惑星形成後に地質活動や天体衝突によって獲得した「二次大気(英語版)」である可能性が高いとしている。 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や欧州超大型望遠鏡などによる将来の観測から、TRAPPIST-1の惑星の大気における温室効果ガスの含有量を調べることができるようになり、表面の状態をより正確に推測できるようになる。また、これらの惑星の大気中からメタンやオゾンといった地球外生命の存在を示唆する指標となる生命存在指標(バイオシグナチャー)を検出できる可能性がある。2020年の時点で、TRAPPIST-1はジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた透過分光観測の最も有望なターゲットであるとみなされている。
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