太陽質量の精度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/09 07:09 UTC 版)
太陽系の天体の運動を観測することで、万有引力定数 G と太陽質量との積である日心重力定数 (heliocentric gravitational constant)GM☉ は比較的精度よく求めることができる。 例えば、初等的に太陽以外の質量を無視する近似を行えば、ある惑星の公転周期 P と軌道長半径 a を使ってケプラーの第3法則より日心重力定数は GM☉ = (2π/P)2a3 として容易に計算することができる。 しかし、P, a を高い精度で測定したとしても、その精度が受け継がれるのはこの日心重力定数であり、キログラムで表した太陽質量自体は G と同程度以下の精度でしか決定できないという本質的困難が存在する。 測定が難しい万有引力定数 G の値は現在でも 4 桁程度の精度でしか知られていないため、太陽質量に関する我々の知識もこれに限定される。 例えば、『理科年表』(2012年)において日心重力定数 1.327 124 400 41×1020 m3s−2 が12桁の精度で表記されているにもかかわらず、太陽質量の値が1.988×1030 kgと、4桁の精度しかないのはこのような理由による。 歴史的には、この太陽質量の地上の単位での値を追究することなく、逆にこれを単位とすることで太陽系の運動は記述されてきた。 19世紀のガウスは太陽系の運動を精度よく記述できる単位系として、長さの単位に地球の軌道長半径 A を、時間の単位に太陽日 D を、質量の単位に太陽質量 S を取っている。 このガウスの単位系は現在でも形を変えて天文単位系と天文単位の概念に引き継がれている。 ガウスの単位系で表したとき、G の平方根に相当する値はガウス引力定数と呼ばれ、地球の平均角速度として精度を保ったまま記述することができる。 こうして長い間、地上での単位系と太陽系での単位系はしっかりと結びつくことなく、それぞれの世界でその役割を担ってきた。 現在では、太陽系の天体までの距離は極めて正確に求められるようになり、時間も一般相対論的効果を考慮しなければならない程になっている。 しかし、重力という非常に弱い力と直結した質量に関しては依然として地上と太陽系とは分断されたままである。 このため単位としての太陽質量は、現在でも天体の運動を記述するための重要な「ものさし」であり、太陽系の天体位置を精度良く記述しようとする位置天文学者は、キログラムでの天体の質量ではなく太陽質量との比としての質量を扱い続けている。
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