乗法の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/14 06:00 UTC 版)
1950年代にローラン・シュヴァルツが生み出したところのシュワルツ超函数論は(あるいは佐藤超函数論も)純粋に線型な理論であって、一般に二つの超函数同士の積については、整合のとれた定義を与えることはできない。たとえば、p.v. 1/x はコーシーの主値によって与えられる超函数で、任意の φ ∈ S(R) に対して ( p . v . 1 x ) [ ϕ ] = lim ϵ → 0 + ∫ | x | ≥ ϵ ϕ ( x ) x d x {\displaystyle \left(p.v.{\frac {1}{x}}\right)[\phi ]=\lim _{\epsilon \to 0^{+}}\int _{|x|\geq \epsilon }{\frac {\phi (x)}{x}}\,dx} を満たすものとし、δ をディラックのデルタ超函数とすると ( δ × x ) × p . v . 1 x = 0 {\displaystyle \left(\delta \times x\right)\times p.v.{\frac {1}{x}}=0} だが δ × ( x × p . v . 1 x ) = δ {\displaystyle \delta \times \left(x\times p.v.{\frac {1}{x}}\right)=\delta } となるので、(いつでもきちんと定義できる)滑らかな函数による超函数への積を拡張する方法では、超函数の空間における結合的な積を得ることはできない。 したがって、超函数論の中からは(積を含むような)非線型な問題は出てこないし、もちろん非線型な問題を超函数論の中だけで解決することもできない。しかし場の量子論の文脈では解を得ることができる。二以上の次元の時空では、この問題は発散の正則化に関係する。ここにヘンリ・エプスタインとウラジミール・グラセルが因果的摂動論を数学的に厳密に(しかし相当技巧的に)発展させた。他の状況における問題は解決されていない。他にも例えば流体力学におけるナヴィエ・ストークス方程式のような興味深い理論の多くが非線型である。 このような観点から、満足なものとはいえないながらも広義函数からなる多元環の理論がいくつか作られていて、中でも現在よく用いられているものとしてコロンボの(単純化)代数を挙げる事ができるだろう。 乗法の問題の単純解は量子力学の経路積分による定式化によって記述される。なぜならそれは、(経路積分と共有されるべきはずの性質であるところの)座標変換不変な量子力学のシュレーディンガー理論と同値であることが要請されるからである。これが超函数の全ての積を回復することが Kleinert & Chervyakov (2001) に示されており、この結果は次元正則化から導かれるところのものと同値である (Kleinert & Chervyakov 2000)。
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