一ところくらきをくゞる踊の輪
作 者 |
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季 語 |
踊 |
季 節 |
秋 |
出 典 |
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前 書 |
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評 言 |
櫓を中心にして、八方に提灯が下がり、踊場を明るく照らしている。その一ところが暗い。大樹の蔭か、建物の蔭。輪の外から踊を見ている写生の句であるが、様々なことを思わせてくれる。 今は娯楽性が強く、団地などで流行り歌をかけて踊ることが多くなったが 盆踊はその年に亡くなった人の魂を、祖先の霊を慰めるもの。 海辺の私の故郷では、昔ながらの踊が受け継がれている。音頭取りが口説きを歌い、合いの手を入れながら輪を進む。踊り手は、時のヒーローなどに変装して踊ったりもする。踊場は寄せる波の音が届く浜。海側は暗く、提灯の明かりは届かない。ゆったりと踊りながら亡き人を偲ぶ、その一生を思いながら。そんな思いを強くしたのは、大好きな祖母の初盆だった。叔父、叔母、従妹、血の繋がるみんなで並んで踊った。踊り好きの祖母も、その場で一緒に踊っているようだった。 大方の踊が輪になるのは、生き替わり死に替わる輪廻の形を思わせる。輪は亡き人の一生でもあるのだとすると、人生には明暗はつきもの。この句の「一ところくらき」は人生の暗、悲しみや苦しみを思わせてくれる。さまざまに変装して踊るところもあるが、これもまた次の世に生れ変わることを信じてのことであろうか。 哀愁を帯びた口説きと太鼓の音が暗い海に響き、輪が二重三重となって浦の夜が更けていく。無邪気に褒美が欲しくて、友と変装をして朝まで踊った日々は遠い昔となってしまつた。 過疎が進み一重の輪がやっとの故郷だが、今年の盆も変わらず踊は続けられる。 父母、祖父母、祖祖父、祖祖母、もっともっと繋がって、今ある私のいのち。その不思議を思う。大切に生きたいと思う。 |
評 者 |
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備 考 |
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