ヴェイパーロック現象とは? わかりやすく解説

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ヴェイパーロック現象

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/05/05 02:28 UTC 版)

ヴェイパーロック現象 (ヴェイパーロックげんしょう、vapor lock) とは、自動車フットブレーキ過熱した際、伝達経路である液圧系統内部に蒸気 (=vapor)による気泡が生じ、そのために力が伝わらなくなることをいう。この状態でブレーキペダルを踏んでもブレーキは効かない。一般的に「ベーパーロック」と表記される場合が多い。

同様の現象は油圧式パワーステアリング燃料系でも起こるが、燃料が熱せられて気泡を噛む現象はパーコレーション沸騰)と呼ばれ、区別されている。

概要

これは、自動車などのブレーキに採用されている、液圧式ブレーキではある程度避けられない現象で、強い、または長い制動での際に発生する。ブレーキに使われている摩擦材が持った熱の冷却が間に合わずにブレーキキャリパ(ブレーキディスクをはさみこんで摩擦を発生させる部品)が加熱し、制動力を伝達するブレーキフルードの一部が沸騰してしまい、ブレーキ配管内に気泡(蒸気)が発生することによって起こる。

液体はほとんど圧縮されないため効率良く圧力を伝えることができるが、気体体積が無くなるまで容易に圧縮されるため、ブレーキペダルを踏んでも、ブレーキの液圧系統内部の気泡を潰すだけで、ブレーキ液の圧力はほとんど変化しない。これは、蒸気圧温度関数であって体積の関数ではないことによる。そのため、ブレーキペダルからの力がブレーキキャリパまで伝わらなくなり、結果としてブレーキが効かなくなる。この状態を、ヴェイパーロック現象と呼ぶ。症状としては、それまで踏み応えのあったブレーキペダルに反力が無くなり、数回ポンピングしても制動力が立ち上がらない状況となる。

パワーステアリングではフルードがリザーブタンクに戻る際に大きな気泡が消えることが多く、それほど深刻な状況とはならないが、フルードの過熱が激しい場合は油圧回路内に混入する気泡が増え、アシスト力が伝わらなくなる。(燃料系はパーコレーションを参照)。

ヴェイパーロックは、主に、高速域での強いブレーキングや、長い下り坂でのフットブレーキの使用過多により発生する。フットブレーキを解除することで、多くの場合は走行風により冷却され、やがて回復する。長い下り坂などでは、あらかじめ速度を落とすことや、低めのギアを選び、エンジンブレーキ回生ブレーキや、その他の補助ブレーキ(排気ブレーキリターダ)による抑速を効果的に利用することで、フットブレーキへの依存度が低くなり、ヴェイパーロックを予防できる。

予防

エンジンブレーキの使用

主に、長い下り坂でのフットブレーキの使用過多により発生することから、エンジンブレーキによる制動を効果的に使用することで予防できる。マニュアル(MT)車では、アクセルを緩めることで自然にエンジンブレーキによる減速が発生するが、オートマチック(AT)車では、アクセルを緩めても速度や道路の状態によっては自動的に(高いギアへの)変速が起こるためエンジンブレーキが利きにくく、ブレーキ過熱に陥りやすい。しかしながら、OD OFFやホールドスイッチによりオーバードライブへの変速を阻止したり、セレクタを「ドライブ」(D)から、より低い「セカンド」(2)や「ロー」(L)などのポジションへ合わせたりすることで、エンジンブレーキを利かせることは可能である。

ブレーキ液の交換

グリコール系のブレーキフルードは吸湿性が非常に高く、水分を含むと沸点が著しく下がり(JIS 3種、DOT 3、BF-3クラスのフルードは、良い状態で沸点が200℃以上であるが、水分を含むにつれ、限りなく140℃に近づいていく)、それほど強いブレーキングでなくてもヴェイパーロックが発生しやすく、その後も気泡が消えにくくなるため、ブレーキ力が回復しない。それを避けるため、走行距離が少なくても定期的にフルードを交換する必要がある。

また、DOT3に比べDOT4、さらにDOT5など、より沸点の高いブレーキフルードほど水分による影響を受けやすく、性能の低下も大きくなるため、交換周期に気を配る必要がある。

対処

長い下り坂でヴェイパーロックが起こったときの、現実的な対応方法は、

  1. エンジンのオーバーレブ(過回転)に注意し、変速機ギアを段階的に下げ(シフトダウンし)、エンジンブレーキにより徐々に速度を抑える。MTの場合は長めの半クラッチで、エンジンや駆動系への過大な入力と駆動輪の無用な滑走を防ぐ。ATの場合は、内部機構を保護する目的で設定速度以上での低いギアへの手動変速を受け付けないため、以下の方法で速度を落とした後にシフトダウンする。
  2. ハンドブレーキを併用する。(一気に引くとタイヤロックが起きてスリップの原因になるので少しずつ引く。)
  3. この間、フットブレーキへの依存を止め、しばらく冷却し、回復を待つ。

などがあり、最終手段としては、道路沿いに設置されている待避所へ突入させるなどの物理的な方法により自動車を停止させる。 自動車ではガードレールなどにすり寄せて緊急に停止させることは可能だが、二輪車ではガードレールへの接触は危険なので、待避所などへの突入の方がよい。

また、主にモータースポーツ用途向けに、吸湿性の無いシリコーン系のブレーキフルードがあるが、高価なうえにシール類を痛めるため、一般の市販車にそのまま用いるには難がある。

関連項目


ベーパーロック現象

(ヴェイパーロック現象 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/10 02:03 UTC 版)

ベーパーロック現象(ベーパーロックげんしょう、英語: vapor lock)とは、液体が加熱され生じた泡により液体の流動や圧力の伝達が阻害される現象のこと[1][2][3]。ベーパーは「蒸気」、ロックは「ロックする、固定する」の意。ヴェイパーロック現象とも[4]。典型例としては、自動車フットブレーキ液圧系統内部にブレーキフルード過熱による沸騰気泡蒸気)が生じる現象がある。この状態でブレーキペダルを踏んでも気泡が圧力を吸収してしまい、ブレーキの利き(制動力)は著しく悪化する。

自動車

自動車などのブレーキに採用されている液圧式の摩擦ブレーキではある程度避けられない現象で、強く頻繁なブレーキ操作、または長い制動での際に発生する。これは、ブレーキに使われている摩擦材が持った熱の冷却が間に合わずにブレーキキャリパ(またはホイールシリンダー)が過熱し、制動力を伝達するブレーキフルード中の水分が沸騰してしまい、ブレーキ配管内に気泡(蒸気=vapour/vapor)が発生することによって起こる。

液体は力が加わっても圧縮されないため効率良く圧力を伝えることができるが、気体凝縮するまで体積を減らし続けるため、ブレーキペダルを踏んでも気泡が小さくなることでその動き(力)が吸収されてしまい、ブレーキ液の圧力はほとんど変化しない。そのため、ブレーキペダルからの力がキャリパピストン(ホイールシリンダーピストン)まで伝わらなくなり、結果としてブレーキが効かなくなる。この状態を、ベーパーロック現象と呼ぶ。症状としては、それまで踏み応えのあったブレーキペダルの反力が無くなり、数回ポンピングしても制動力が立ち上がらない状況となる。

油圧式のパワーステアリングはポンプでフルードを絶えず循環させており、リザーブタンクに戻る際に圧力が開放されて大きな気泡が消えることが多く、また、上昇温度はブレーキフルードよりも小さいため[5]、それほど深刻な状況とはならないが、フルードの過熱が激しい場合は油圧回路内に混入する気泡が増え、アシスト力が伝わらなくなる。

ベーパーロックは、主に、高速域での強いブレーキングや、長い下り坂でのフットブレーキの使用過多により発生する。フットブレーキを解除することで、多くの場合は走行風により冷却され、やがて回復する。長い下り坂などでは、あらかじめ速度を落とすことや、低めのギアを選び、エンジンブレーキ回生ブレーキや、大型車ではその他の補助ブレーキ(排気ブレーキリターダ圧縮開放ブレーキ)による抑速を効果的に利用することで、フットブレーキへの依存度が低くなり、ベーパーロックを予防できる。

予防

エンジンブレーキの使用

主に、長い下り坂でのフットブレーキの使用過多により発生することから、エンジンブレーキによる速度抑制を効果的に使用することで予防できる。マニュアル(MT)車では、アクセルを緩めることで自然にエンジンブレーキによる減速が発生するが、電子制御ではないオートマチックトランスミッション(AT)車では、アクセルを緩めても速度や道路の状態によっては[6]自動的に高いギアへの変速が起こるためエンジンブレーキが利きにくく、フットブレーキに頼るとブレーキ過熱に陥りやすい。しかしながら、OD OFFやホールドスイッチによりオーバードライブへの変速を阻止したり、セレクターを「ドライブ」(D)から、より低い「セカンド」(2)や「ロー」(L)[7]などのポジションへ合わせたりすることで、エンジンブレーキを利かせることは可能である。

ブレーキ液の交換

グリコール系のブレーキフルードは吸湿性があり、水分を含むにつれて沸点が下がる。JIS 3種、DOT 3、BF-3クラスのフルードは、良い状態で沸点が200 ℃以上であるが、水分を含むにつれ、限りなく140 ℃に近づいていく。水分の増加に伴い、より低い温度でベーパーロックが発生するようになり、その後も気泡が消えにくくなるため、ブレーキ力が回復しない。それを避けるため、走行距離が少なくても定期的にブレーキフルードを交換する必要がある。また、DOT3に比べ、DOT4、さらにDOT5など、より沸点の高いブレーキフルードほど水分による影響を受けやすく、性能の低下も大きくなるため、交換周期に気を配る必要がある。

対処

長い下り坂でベーパーロックが起こったときの、現実的な対応方法は、

  1. エンジンのオーバーレブ(過回転)に注意し、変速機ギアを段階的に下げ(シフトダウンし)、エンジンブレーキにより徐々に速度を抑える。MTの場合は長めの半クラッチで、エンジンや駆動系への過大な入力と駆動輪の無用な滑走を防ぐ。ATの場合は、内部機構を保護する目的で設定速度以上での低いギアへの手動変速を受け付けないため、以下の方法で速度を落とした後にシフトダウンする。
  2. パーキングブレーキを併用する。一気に操作するとタイヤがロックしてスリップの原因になるので、少しずつかける。電動パーキングブレーキの場合はスイッチをONの状態で保つしか方法は無く、任意の調節はできない。パーキングブレーキにはブレーキフルードが使われていないが、摩擦材が限界以上の温度にさらされるとフェード現象によって制動力が発揮できなくなる。
  3. この間、フットブレーキへの依存を止め、しばらく冷却し、回復を待つ。

などがあり、最終手段としては、道路沿いに設置されている緊急退避所へ突入させる、脱輪させる、(比較的安全なスペースがあれば)路外へ脱出する、などで強制的に自動車を停止させる。自動車ではガードレールなどにすり寄せて速度を落とす方法もある。

二輪車では重量が軽く、乗員の体が露出しており、またシートベルトなどで固定もされていないため、ガードレールへの接触はもちろん、路外や待避所への突入でも凹凸に当たった車体が撥ね飛ばされ、乗員が放り出される危険が伴う。反面、四輪車と異なりブレーキ配管が前後輪で完全に分離されていることが多いので、(エンジンブレーキなどを併用しつつ)使用可能な側のブレーキを生かして停止させることもできる。

吸湿性の無いシリコーン系のブレーキフルードがあるが、これにはベーパーロックを防ぐ効果も目的もない。シリコーン系を使うように指定されていない限り、使うべきではない。

脚注

  1. ^ Tay FR, Gu LS, Schoeffel GJ, et al: Effect of vapor lock on root canal debridement by using a side-vented needle for positive-pressure irrigant delivery. J Endod, 36:745-750, 2010., doi:10.1016/j.joen.2009.11.022
  2. ^ 木村誓、村井幸一、燃料協会誌 56巻 (1977) 9号 p.732-742, doi:10.3775/jie.56.9_732
  3. ^ 環境に貢献するガスタービン燃焼器技術 三菱重工技報 Vol.46 No.2(2009) (PDF)
  4. ^ ヴェイパーロック現象(合宿免許アシスト:株式会社 安全運転教育協議会)
  5. ^ 自動車用潤滑油について
  6. ^ 単純な油圧制御ATは、スロットルを閉じていても速度が上り続ける状態ではシフトアップが行われる。
  7. ^ いずれも表示は4速AT(3速 + OD)の場合。

関連項目

外部リンク

  • Vera J, Arias A, Romero M: Dynamic movement of intracanal gas bubbles during cleaning and shaping procedures: the effect of maintaining apical patency on their presence in the middle and cervical thirds of human root canals-an in vivo study. J Endod, 38:200-203, 2012., doi:10.1016/j.joen.2011.10.026




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