リスト:バッハの名による幻想曲とフーガ
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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リスト:バッハの名による幻想曲とフーガ | Fantasie und Fuge über den Namen BACH S.529 | 作曲年: 1871年 |
作品解説
37歳でワイマールに落ち着いたリストは、音楽会の指揮・統率や、演奏活動に加え、ピアノ教育や作曲などにも十分な時間を費やし、非常に充実した日々を送った。バッハの作品研究にも励み、尊敬の念から、バッハの名を主題にした曲を創作したのもこの時期である。
1855年、リストは、最初のオルガン曲《コラール『アド・ノス、アド・サルタレム・ウンダム』による幻想曲とフーガ》の初演を行い、これに続けてオルガン曲《バッハの名による前奏曲とフーガ》を完成させた。
ちなみに、《バッハの名による幻想曲とフーガ/Fantasie und Fuge uber den Namen BACH 》は、このオルガン曲《バッハの名による前奏曲とフーガ》を改め、1871年、さらにピアノ用に編曲したものである。
ピアノでの演奏効果があがるように改められており、演奏される機会も多い。
冒頭、左手にきかれる怪しげで印象的な主題は、バッハのスペルBACHにそれぞれ音(シ♭―ラ―ド―シ)をあてはめたものであり、これが曲全体を通して形を変えながら何度も登場する。
左右の手を交互に打鍵する奏法、高速で平行移動するオクターブ、めまぐるしく上下するアルペジオ、低音のうなりなど、ピアニスティックな効果を十分に発揮すると同時に、内的な精神世界まで見事に表現されているあたりは、さすがリストである。
演奏において、全体的にフォルテで奏されるところが多いが、決して体が力むことがないように注意が必要である。体の重心を意識した上で、充実した響きをつくりあげていきたい。
バッハの名による幻想曲とフーガ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/17 06:09 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動バッハの名による幻想曲とフーガ(Fantasie und Fuge über das Thema B-A-C-H, サール番号:S.260, S.529)は、フランツ・リストの作曲したオルガン曲、あるいはピアノ曲。田村文生による吹奏楽編曲版も存在する。
概要
1855年から1856年にかけてオルガン版の初稿(S.260i)が書かれ、また同時期にピアノ版の初稿(S.529i)が書かれた。この時点で作品は「前奏曲とフーガ(Präludium und Fuge)」と題されていた。その後、1869年から1870年にかけて改訂が施され、ピアノ版の第2稿(S.529ii)とオルガン版の第2稿(S.260ii)がこれもほぼ同時に成立している。現在、断りなく演奏される場合はオルガン版、ピアノ版ともに第2稿が使われるのが一般的である。
作曲の直接のきっかけは1855年、メルゼブルク大聖堂のオルガンの落成式で演奏されるために依頼を受けたことによる。しかし作曲は間に合わず、落成式では1852年出版のオルガン作品《コラール「アド・ノス、アド・サルタレム・ウンダム」による幻想曲とフーガ》(Fantasie und Fuge über den Choral "Ad nos, ad salutarem undam" aus der Oper Der Prophet von Meyerbeer, S.259)が演奏された。本作は1856年5月13日にメルゼブルクのオルガンを用いてアレクサンダー・ヴィンターベルガーによって初演され、献呈も彼に行われた。
この作品はBACH主題を扱い、またフーガも取り入れられていることからヨハン・ゼバスティアン・バッハへのオマージュであることは明らかだが、その一方で、新ドイツ楽派の旗手であったリストらしい前衛的な響きも聴くことができる。リストは以前からバッハの芸術に関心を示しており、1840年代にはバッハのオルガン作品の編曲(S.462)を行い、また後の1862年にはバッハの主題を用いたパッサカリアである《バッハの主題による変奏曲》(Variationen über ein Motiv (basso ostinato) aus der Kantate "Weinen, Klagen, Sorgen, Zageni", und dem "Crucifixusi", der h-Moll Messe von J. S. Bach , S.184)も書かれている。
楽曲
低音で奏されるBACH動機の繰り返しに始まり、全曲を通じてBACH動機を執拗に変容させながら自由な展開を見せる。中間にはアンダンテ、ミステリオーソと指示されて始まるフーガが置かれている。なお、このフーガ主題ではオクターヴの十二音全てが用いられている。調性は変ロ長調とト短調を中心に推移するが、BACH動機自体が半音階的な音形をとるため、調性が不明瞭な場面は多い。
初稿と第2稿において構成に大きな変更はなく、またオルガン版とピアノ版の間でそれぞれほぼ相違はない。フーガ部分の展開については全ての版において同一である。
オルガン書法としては、当時のドイツでも最大級であったメンゼブルクのオルガンの性能を生かすため、幅広い表現と高い技巧が要求されている。
また、足鍵盤の扱いについても特徴が見られる。ピアノのヴィルトゥオーゾであったリストだが足鍵盤の演奏は苦手としており、オルガン作品において用法は限定的であることが多い。しかし、ヴィンターベルガーの演奏を念頭に置いた本作では、足鍵盤に素早いパッセージが要求されている箇所が存在する。
参考文献
- "Franz Liszt: Präludium und Fuge über B-A-C-H" (Henle, HN976) 解説 (Ernst-Günter Heinemann, 2010)
- Andreas Rothkopf "LISZT: Organ Works, Vol. 1" (NAXOS, 8.554544) CD解説書 (Keith Anderson, 2001)
外部リンク
- Fantasie und Fuge über das Thema B-A-C-H, S.260の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
- リスト : バッハの名による幻想曲とフーガ - ピティナ・ピアノ曲事典
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