コートールド美術研究所の『取り持ち女』
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「取り持ち女 (ディルク・ファン・バビューレンの絵画)」の記事における「コートールド美術研究所の『取り持ち女』」の解説
1960年にイギリス人美術史家ジェフリー・ウェッブ (en:Geoffrey Webb) が、コートールド美術研究所に『取り持ち女』の別ヴァージョンを持ち込んだ。ウェッブは、第二次世界大戦中にナチスが収奪した美術品を調査する立場にあった、連合国側の仕官だった人物である。ウェブはこのヴァージョンが、著名な贋作者でフェルメールなどの贋作を多く制作したハン・ファン・メーヘレンによるものだと確信しており、コートールド美術研究所にも自身の見解を伝えていた。この告発に対しファン・メーヘレンは、この作品は妻が古美術屋で購入した絵画だと反論している。当初からこのヴァージョンは贋作だと疑われていたが、真贋を巡る議論は長く続いた。2009年になって科学的な検証が開始され、使用されている顔料には現代のものが用いられていないことが判明して、この作品はおそらく真作ではないかという調査結果が出た。コートールド美術研究所の広報担当は、この調査結果に対し「驚愕している」というコメントを発表したが、調査結果はこの作品が「17世紀の絵画と思われる」ということを示唆するものだった。 この調査結果を受けて、BBCの美術品の真贋を鑑定するドキュメンタリーシリーズ『偽物かお宝か』が、この作品に対するさらなる調査を続行することとなった。この検証番組が最初に放映されたのは2011年7月である。イギリス人画商、美術史家フィリップ・モールドとジャーナリストのフィオナ・ブルースがアムステルダムへ渡り、ファン・メーヘレンが描いた贋作に使用されている顔料のサンプルを入手した。このサンプルから、フェノールと見られる人工的な樹脂が発見された。フェノール樹脂は、ファン・メーヘレンが顔料の硬化促進と、描いた贋作が実際は新しい作品であることを隠すために使用していたものである。そして、化学的分析によってコートールド美術研究所の『取り持ち女』からもフェノール樹脂が発見され、この作品が現代に描かれた贋作だったことが証明された。ファン・メーヘレンがこの手法を用いた唯一の贋作者として知られることから、コートールド美術研究所の『取り持ち女』もやはりファン・メーヘレン作だとされている。 この作品は、おそらくフェルメールの贋作として制作されたと考えられている。そして皮肉なことに、17世紀に工房で制作されたファン・バビューレンの複製画よりも、このファン・メーヘレンの贋作のほうが金銭的価値が高くなるという結果を招くことになった。
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