コミック界への影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 04:39 UTC 版)
「アラン・ムーア」の記事における「コミック界への影響」の解説
ムーアのキャリアはコミック界におけるオーサーシップ(著者性)観の変遷と密接に関わっている。米国コミックの伝統では作品のオーサーシップを担うのは出版社であり、クリエイターは制作のために雇われるだけの存在だった。コミックブックが読み捨ての娯楽だという一般の見方もその状況を反映していた。しかし1970年代に至るとコミックファンダムが成熟し、ノンクレジットのディズニー・コミックからカール・バークスが「発見」されたように、ブランドやキャラクターではなく個々の作家に注目する読者も現れ始めた。また業界内でも制作者の権利拡大を訴える労働運動が起こった。これらが相まって個人のヴィジョンと感性をオーサーシップの中心におく作家主義が生まれた。ファンの嗜好の変化を知ったメインストリーム出版社は専門店マーケット向けにスター作家を擁立するようになった。その最初の世代がムーアやフランク・ミラーらであり、中でもムーアは作画家ではなく原作者に注目を集めさせたことで特筆される。 ムーアはキャリアを通して、コミックを芸術作品として認知させようと試みるとともに、出版社に対してクリエイターの権利を主張し続けた。ムーアは前の世代のクリエイターと異なり『ウォッチメン』を始めとするDC社のベストセラーから多額の印税を得ることができた。また強硬な交渉により販促用グッズにも印税を適用させた。しかし自作の著作権は取り戻せず、そのことに遺恨を抱いていた(同時期にミラーやニール・ゲイマンなどはDCと契約を結び直してオリジナル作品の著作権を獲得している)。このような闘争は作品にも反映されており、ジャクソン・エアーズによるとムーアは常に「企業化されたエンターテインメント/アーティストの個人的ヴィジョン」のダイナミクスをテーマとしている。ダグラス・ウォークはムーアが商業性と芸術性の合間を縫うコミックの道行きの先導者だと論じ、ポピュラーなコミックに文学性を持ち込んだこと、クリエイターを搾取する出版モデルと闘ったこと、身をもってコミック作品の価値を示したことを評価した。
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