ウェアリングによる方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/03 04:32 UTC 版)
1762年にウェアリングは、対称式に現れる単項式の指数の組に、辞書式順序を入れて、単項式の次数を下げていく方法で、対称式の基本定理の証明を行った。 0でない係数 c を持つ単項式 r ( x 1 , x 2 , ⋯ , x n ) = c ∏ k = 1 n x k a k = c x 1 a 1 x 2 a 2 ⋯ x n a n {\displaystyle r(x_{1},x_{2},\cdots ,x_{n})=c\ \prod _{k=1}^{n}x_{k}^{a_{k}}=c\ x_{1}^{a_{1}}\ x_{2}^{a_{2}}\cdots x_{n}^{a_{n}}} に対して、n 個の指数の組 deg(r) = (a1,a2, …, an) を次数(じすう)という。ここで、積に用いていない変数の指数は 0 である。この次数に、辞書式順序を入れる。 すなわち、2 つの単項式 s と t を比べ、指数を a1 から順に見ていき、最初の異なる指数の整数としての大小を deg(s) と deg(t) の大小とし、全ての指数が等しいときは deg(s) = deg(t) とする。たとえば、 (3,2,1,2) > (3,1,0,3) > (2,5,0,2) > (0,5,2,2) > (0,2,2,5) である。 多項式 f(x1,x2,…,xn) に対しては、n 変数の多項式として f ( x 1 , x 2 , ⋯ , x n ) = ∑ ( p 1 , p 2 , … , p n ) ∈ N n a p 1 p 2 … p n x 1 p 1 x 2 p 2 ⋯ x n p n {\displaystyle f(x_{1},x_{2},\cdots ,x_{n})=\sum _{(p_{1},p_{2},\ldots ,p_{n})\in \mathbb {N} ^{n}}a_{p_{1}p_{2}\ldots p_{n}}\ x_{1}^{p_{1}}\ x_{2}^{p_{2}}\ \cdots \ x_{n}^{p_{n}}} と表したとき、係数が 0 でない項の中で最も次数の高い項の次数を deg(f) とする。 f(x1,x2,…,xn) が対称式の時、その次数 deg(f) = (a1,a2, …, an) は、任意の添字 1 ≤ j ≤ k ≤ n に対して、広義単調減少 aj ≥ ak となる。 対称式では、広義単調減少でない (0,1,3,2,2) のような次数の項があれば、(3,2,2,1,0) という次数で係数の等しい項が必ずある。 f の項のうちで、次数が deg(f) に等しい項の係数を c0 とすると、f が定数でなければ d e g ( f ) > d e g { f − c 0 ( ∏ k = 1 n − 1 σ k a k − a ( k + 1 ) ) σ n a n } {\displaystyle deg(f)>deg\left\{f-c_{0}\left(\prod _{k=1}^{n-1}\sigma _{k}^{a_{k}-a_{(k+1)}}\right)\sigma _{n}^{a_{n}}\right\}} が成り立つ。適当な基本対称式の積を、f から引くと f よりも次数を下げる事ができるということである。得られた式の次数を調べ、同じように適当な基本対称式の積を引いていくことにより、多項式の次数を下げていくことができる。f と基本対称式の多項式の差は、この操作を有限回繰り返すことによって、定数になる。 f(x1,x2,…,xn) − h(σ1,σ2,…,σn) = 定数 となるような、基本対称式についての多項式 h が得られ、 f(x1,x2,…,xn) = h(σ1,σ2,…,σn) + 定数 と表すことができる。 計算例はこちら→ 計算例1 2 変数 x1, x2 の基本対称式は σ1 = x1 + x2 σ2 = x1 x2 である。 f(x1, x2) = x13 x2 + x1 x23 + x12 + x1 x2 + x22 は対称式であり、それぞれの項の次数は順に (3,1), (1,3), (2,0), (1,1), (0,2) であるから、 deg(f) = (3,1) で、x13 x2 の係数は 1 である。したがって h1 = f − σ13−1 σ21 = f − σ12 σ2 = − 2 x12 x22 + x12 + x1 x2 + x22 となり、 deg( h1 ) = (2,2) である。 h1 の x12 x22 の係数は − 2 であるから h2 = h1 − ( − 2 σ12−2 σ22 ) = h1 + 2 σ22 = x12 + x1 x2 + x22 さらに deg( h2 ) = (2,0) より h3 = h2 − ( σ12−0 σ20 ) = h2 − σ12 = − x1 x2 = − σ2 であるから f = σ12 σ2 + h1 = σ12 σ2 − 2 σ22 + h2 = σ12 σ2 − 2 σ22 + σ12 − σ2 が得られる。 計算例2 三次方程式 x3 − σ1 x2 + σ2 x − σ3 = 0 の根を x1, x2, x3 とすると、根と係数の関係により σ1 = x1 + x2 + x3 σ2 = x3 x1 + x1 x2 + x2 x3 σ3 = x1 x2 x3 である。この三次方程式の判別式 D = { (x3 − x1)(x1 − x2)(x2 − x3)}2 は対称式であり、次数は、deg(D) = (4,2,0) で x14 x22 の係数は 1である。したがって h1 = D − σ14−2 σ22−0 σ30 = D − σ12 σ22 を考えると、deg(h1) = (4,1,1) で、 x14 x2 x3 の係数は、−4 となる。以下同様に計算すると h2 = h1 − (−4 σ14−1 σ21−1 σ31) = h1 + 4σ13 σ3 deg(h2) = (3,3,0)、 x13 x23 の係数は −4 h3 = h2 − (−4 σ13−3 σ23−0 σ30) = h2 + 4σ23 deg(h3) = (3,2,1)、x13 x22 x3 の係数は 18 h4 = h3 − (18 σ13−2 σ22−1 σ31) = h3 − 18σ1σ2σ3 = − 27 x12 x22 x32 = −27 σ32 となるので D = σ12 σ22 + h1 = … = σ12 σ22 −4σ13 σ3 −4σ23 + 18σ1σ2σ3 + 27 σ32 が得られる。次数が (4,2,0) > (4,1,1) > (3,3,0) > (3,2,1) > (2,2,2) と、単調に減っていくことを利用した方法である。
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