ウィルソンによる発明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/23 14:22 UTC 版)
霧箱はもとは放射線を見るための装置として発明されたわけではない。チャールズ・ウィルソンは大学卒業後に気象学に興味を持ち、1894年にベン・ネヴィス山山頂にあった気象観測所で臨時スタッフとして数週間駐在。ウィルソンは雲や霧を実験室で再現するため密閉装置に水分を含む空気を入れて急激に減圧する実験を繰り返した。 1896年、ウィルソンは霧についての研究を行うため、空気中に核となりうるちりなどが無い条件で霧を作り出せる装置を製作した。これが霧箱の始まりである。ウィルソンはこの装置で観測を行ったところ、飽和水蒸気量の4倍以上の水分を含むと、ちりなどが無いにもかかわらず、霧箱中の水分が水滴となることを発見した。 ウィルソンはこの現象の原因を明らかにするため、霧箱にX線をあててみた。すると、X線をあてた場所の霧が濃くなることが分かった。X線が周囲の空気をイオン化することはすでにヴィルヘルム・レントゲンが発見し、J.J.トムソン、アーネスト・ラザフォードによって研究が進められていた。そのため、ウィルソンは、ほこりがない水蒸気中ではイオン化した空気が水分を引きつけると考えた。 ウィルソンのこの考えは、1898年、J.J.トムソンによって証明された。トムソンは霧箱に極板を設置し、そこに電圧を加えた状態でX線を当て、箱を膨張させた。すると、極板のない箇所では霧が発生したのに対し、極板のある箇所、つまり電場のある箇所では霧が発生しなかった。これにより、霧の核となる物質は電場中で移動する、つまり電荷を帯びていることが分かるため、この正体はイオンであることが確かめられたのである。トムソンはこの結論を利用して、霧の水滴の数からイオンの電荷を求めようとした。この研究は最終的にロバート・ミリカンによる電気素量の測定につながった。 一方、ウィルソンは1910年、霧箱を使用して、X線の他にアルファ線、ベータ線、ガンマ線の飛跡を観測し発表した。1912年には、さらに改良した霧箱を作成して放射線の飛跡を撮影した。
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