JR東日本E655系電車 概要

JR東日本E655系電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/24 00:08 UTC 版)

概要

かつては天皇皇后を始めとする皇族の乗用車両として昭和初期から中期に製造されたお召し列車用の皇室用客車「1号編成」が使用されてきたが、製造から40年 - 70年が経過し老朽化も進行していたことから、それらの置き換え用として製造された[2]。製造メーカーは特別車両と4・5号車が日立製作所笠戸事業所、1 - 3号車が東急車輛製造である。

1号編成は皇族と随伴員のみ乗車可能だったが、本系列では皇族や要人国賓など)が利用する「特別車両」を外し、「ハイグレード車両」と呼ばれる5両編成とすることで一般客の利用にも対応しており[2]、お召し列車だけでなく団体専用列車(いわゆるジョイフルトレイン)としての役割も兼ね備えている。このため全車両グリーン車となっている[2]。デザインは剣持デザイン研究所が担当した[3]

愛称の「なごみ(和)」は、「ご乗車になるすべてのお客様になごんでいただきたい思いを込めて命名した」とされている[4]

構造

本項では「特別車両」を除く各形式の共通項目について述べる。特別車両および各車両の特徴的装備については次節で述べる。

車体

アルミニウム合金ダブルスキン構造で、基本的にE653系E257系などと共通である[5]。先頭車の前面は651系などに似た高運転台構造で、台車を除く床下機器類をすべてカバーで覆うとともに、屋根部分の側面にも搭載機器を極力隠すカバーが設置されているのが特徴である[5]

本系列はお召し列車に使われることから塗色は「漆色」と呼ばれ、光線の当たり具合で褐色から紫色に色合いが変化するマジョーラ塗装が用いられており[5]、腰部には3本の細い金帯が配されている。また、各車の側面にはフルカラーLED式の行先表示器が設置されている。

先頭車前部にはお召列車運用時に国旗及び菊花紋章と、手すりを取り付ける取り付け座(ボルト締結座)が設けられている。手すりは通常運用時には取り付けることは無い。乗務員室後方に客室が配置されることから、緊急時における乗務員の避難を考慮して、外開き式の非常開戸を設置している[6]

機関車の牽引によって非電化区間への入線が可能な仕様になっており[2]、先頭車前面の連結器は密着自動連結器とされ、通常の団体列車では連結器を露出した状態で運用されるが、お召列車として運転される場合は車両前部のカバーを開けて内部に連結器を収納し、更に車体とスカートの間を埋める追加カバーを被せることができる。

車内

車内は木目調を基調としたものとなっており、荷棚航空機のようなハットラック式(カバー付き)である[2]。床敷物は全面カーペット敷きである[5]。空気だめ(空気タンク)や直通予備ユニットなど、床下に収納できない機器は車内デッキ部(出入口から客室への通路左右)に機器室を設けて搭載している[7]。また、各出入口付近には折りたたみ式の簡易腰掛が設置されている[5]

座席は横1+2列配置の電動式リクライニングシートで、各座席にはスポット空調の吹き出し口や読書灯が設置されている。各車両ともデッキを含めてすべて禁煙となっている。1号車のみ、各座席に電源用コンセントを備えている[7]。なお、デビュー当初は各座席ごとに各種デジタル放送車内販売システム、運転席からの展望映像などに対応したタッチパネル式の8インチモニタ装置が設置されていたが、現在は取り外され、スマートフォンQRコードを用いた車内配信コンテンツに代替されている[8]

空調装置は屋根上集約分散式のAU733形(能力15,000 kcal/h・17.44 kW)を各車2台搭載する(1両あたりの能力は 30,000 kcal/h・34.88 kW)。

運転台は高運転台構造を採用しており、主幹制御器が左手操作のワンハンドル方式であることなど、JR東日本の新系列車両と同様のレイアウトだが、速度計などのメーター類はアナログ式が採用され、制御伝送システムであるTIMSモニター画面は2台設置されている[9]。本系列は全国のJRグループ運転士が運転することを考慮して、JR東日本の車両で標準となっているグラスコックピット構造とはせず、指針式の計器類や各種表示灯類を備えた運転台構造とした[6]

デッキ周辺などの床敷物は、本来はアルミ材を敷いた上でゴム製の床敷物を貼り付けるものであるが[10]、現車5両ではアルミ材が敷かれておらず、鉄道車両の火災対策基準を満たさないことから、国土交通省より改善指示が出された[10]。製造年を示すプレートは和暦で表記されている。

機器類

E653系同様、直流1500 V交流20000 V(50 Hz・60 Hz両対応)の3電源に対応しており、中央本線などの狭小トンネルへの対応としてパンタグラフ折り畳み高さを3,960 mmに抑えているため、JR東日本管内のほとんどの線区で運用可能なほか、JR他社への乗り入れも考慮された構造となっている。

主変換装置日立製作所[1]IGBT素子による2レベル方式VVVFインバータ制御で、回生ブレーキのほか全電気停止ブレーキも可能としている[9]かご形三相誘導電動機は、E531系で採用したMT75形の仕様をマイナーチェンジしたMT75A形が搭載され、定格出力は140 kWであるが、歯車比は異なる(本系列は4.95 [1])。

台車はE653系やE257系などで実績のあるヨーダンパ付きの軸梁支持式ボルスタレス台車を装着している。台車形式は動力台車はDT76形、付随台車はTR261形、特別車両はTR261A形である[9]

補助電源装置はE531系で採用したSC81形のマイナーチェンジ仕様となるSC87形静止形インバータ(SIV)を採用している[9]。装置は東洋電機製造製のIGBT素子を使用したもので、140 kVA×2群構成の280 kVA容量を備えているほか[9]、編成で2台搭載するSIVは出力する交流波型を同期させた「並列同期運転」を行っている[9]

客車として機関車に牽引される場合のサービス機器への電源供給用として、ディーゼル発電機を編成で2基搭載している。エンジンは316 kW(430 PS)のDMF15HZC-G、発電機は400 kVAのDM111で、ディーゼル発電機1基で6両給電可能とし、もう1基を予備としている[9]

ブレーキシステムについても自力走行する場合は回生ブレーキ併用の電気指令式空気ブレーキ抑速ブレーキ直通予備ブレーキが動作するが、機関車に牽引される場合は自動空気ブレーキと直通予備ブレーキが動作する[9]。このため、各車両間にはブレーキ管を引き通している[9]。自動空気ブレーキはディーゼル発電機が稼動している際は機関車からのブレーキ管空気圧を電気指令に読み替えるが、発電機が停止している際は読み替えずにそのまま動作する[9]

編成表

東北本線において上野寄りが1号車、仙台・盛岡寄りが5号車となる。ただし、特別車両のE655形には号車番号が振られていない。

E655系電車 編成表
← 東京
甲府・高崎・仙台 →
号車 1 <2< 3 特別車両 <4< 5
編成 クロE654 - 101
(Tsc')
モロE655 - 101
(M1s)
モロE654 - 101
(M2s)
E655 - 1
(TR)
モロE655 - 201
(M1s)
クモロE654 - 101
(M2sc)
定員 22名 32名 9名 18名 27名 17名
機器 GDE VVVF SIV・CP VVVF SIV・CP
製造所 東急車輛製造 日立製作所
  • VVVF:VVVFインバータ制御装置、SIV:補助電源装置、CP:空気圧縮機、GDE:ディーゼル発電機、<:シングルアームパンタグラフ
  • 新製配置日は全車両、2007年7月27日である[11]

注釈

  1. ^ a b c d e 公務ではなく、天皇・皇后らの静養や私的な旅行のために運転された非公式のお召し列車のため。

出典

  1. ^ a b c d e f g 日本鉄道車両工業会「車両技術」235号「JR東日本 E655系特急形交直流電車」記事。
  2. ^ a b c d e f g h i j 交友社『鉄道ファン』2007年11月号新車ガイド1「JR東日本E655系特急形交直流電車」p.10 - 12。
  3. ^ KDA 剣持デザイン研究所 作品年表(インターネットアーカイブ)。
  4. ^ E655系ハイグレード車両の列車愛称決定並びに商品企画について (PDF) 」 - JR東日本プレスリリース 2007年12月13日付け
  5. ^ a b c d e f g h i 交友社『鉄道ファン』2007年11月号新車ガイド1「JR東日本E655系特急形交直流電車」p.13 - 15。
  6. ^ a b 東急車輌製造『東急車輌技報』第58号(2008年12月)製品紹介「JR東日本 E655系 特急形交直流電車」pp.56 - 59。
  7. ^ a b c 交友社『鉄道ファン』2007年11月号新車ガイド1「JR東日本E655系特急形交直流電車」p.16 - 17。
  8. ^ 列車紹介 - E665系なごみ(和)
  9. ^ a b c d e f g h i j 交友社『鉄道ファン』2007年11月号新車ガイド1「JR東日本E655系特急形交直流電車」p.18 - 19。
  10. ^ a b 鉄道車両の床材料の改良計画について(国土交通省報道発表資料)。
  11. ^ 『JR電車編成表2021夏』交通新聞社、2021年5月24日、77頁。 
  12. ^ 「新車カタログ2008」JR東日本 E655系 交友社『鉄道ファン』2008年8月号 No.598 付録
  13. ^ 封印された鉄道史』(p96, p97)
  14. ^ 第2編 旅客営業 -第3章 旅客運賃・料金 -第8節 特別車両料金第8節 特別車両料金ー「旅客営業規則」JR東日本(2016年9月4日閲覧)
  15. ^ E257系M104編成,特別車両E655-1を連結して試運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2008年12月6日
  16. ^ E655-1,E653系と混結試運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2009年4月23日
  17. ^ 大人の休日倶楽部5周年特別企画 ハイグレード列車「なごみ(和)」で行く旅 『往復「なごみ(和)」利用&リゾート列車で東日本一周』発売 (PDF) - 東日本旅客鉄道プレスリリース 2010年9月30日
  18. ^ E657系+E655-1が試運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2011年9月28日
  19. ^ 中央本線で御乗用列車運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2011年11月14日
  20. ^ E655系が中央本線で試運転”. 鉄道ニュース(交友社) (2012年9月10日). 2012年10月13日閲覧。
  21. ^ 中央本線でお召列車運転”. 鉄道ニュース(交友社) (2012年10月7日). 2012年10月13日閲覧。
  22. ^ 東海道本線・伊東線・伊豆急行線でお召列車運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2013年3月26日
  23. ^ 伊豆急行線・伊東線・東海道本線でお召列車運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2013年3月29日
  24. ^ 両毛線でお召列車運転”. 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) (2014年5月23日). 2014年5月23日閲覧。
  25. ^ 羽越本線でお召し列車運転”. 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) (2016年9月12日). 2016年9月12日閲覧。
  26. ^ お召し列車に鉄道ファン興奮 天皇、皇后両陛下の茨城県ご訪問で運行”. 産経新聞 (2017年11月28日). 2017年11月30日閲覧。
  27. ^ 令和初の「お召し列車」 両陛下、国体で茨城へ”. 産経新聞 (2019年9月28日). 2019年9月29日閲覧。
  28. ^ 鉄道開業150年記念イベント JR新橋駅では特別列車が出発 - NHK NEWS WEB 2022年10月14日 13時34分






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