鉄道標識 概要

鉄道標識

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/10 07:08 UTC 版)

概要

標識・標の様式・形状は各鉄道事業者により異なる。日本全国の標識全てを紹介することは無理があるので、本項では特記なければ鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準(以下技術基準省令の解釈基準とする)に定められた標識を中心に日本の国鉄JR各社で使用されているものを中心に記述する。大手私鉄を中心に比較的良く見られる標識も解説するが、系列関係にある私鉄同士(京成電鉄京成グループ各社、阪急電鉄能勢電鉄等)、あるいは系列で無くとも地理的に近い私鉄同士(関東鉄道ひたちなか海浜鉄道近畿日本鉄道三岐鉄道など)では、同じデザインの標識を使用しているケースが見られる。

この項目で特に断りなく白色灯と書いてある場合は、厳密な白では無く電球色を表している。

技術基準省令の解釈基準に定められている標識

特に断りない場合は、漢字などの表記を技術基準省令の解釈基準の表記にあわせてある。

列車標識

鉄道では様々な係員が作業を行っており、遠くからでも係員に列車の存在を示す必要がある。この際列車最前部と最後部に示す標識を列車標識と言う。列車標識の表示方法は、昼間と夜間によって異なる。

前部標識

一般的に前照灯のことを言い、他の係員や公衆に列車の接近を知らせる目的で、列車最前部に表示している。

  • 昼間の方式…表示を省略することが出来る[2]
  • 夜間の方式…最前部車両の前面に、白色灯を1個以上表示する[2]。なお、地下区間および長大トンネルは夜間の方式で扱う。

なお、前部標識(灯)は、自動車の前照灯とは異なり、夜間等に前方車両の後部標識を含む他の鉄道標識を照らす目的であり、前方の見通し区間を照らす目的ではない。夜間等に前部標識灯が全て切れた場合は、見通し区間で停止できる速度(概ね15 km/h)以下で進行しなければならない。また、高速運転をする電車や列車等は、安全のために前方の見通し区間をある程度照らす事ができる前部標識灯を複数備えたり、光軸の向きや光度の強弱を切替できるものも多い。

後部標識

一般的に尾灯のことを言い、他の係員や公衆に列車の最後部があることを知らせる目的で、列車の最後部に表示する。

  • 昼間の方式…貫通ブレーキを使用しない列車については、最後部車両の後面に赤色灯または赤色円板を1個以上表示する[3]。これ以外の場合は、表示を省略することが出来る。
    • 入換中の機関車が後部標識灯を1灯点灯させるのはこのためである。[4]
  • 夜間の方式…最後部車両の後面に、赤色灯または赤色反射板を1個以上表示する。但し、移動閉塞ATC自動閉塞方式を施行する区間では、停車場間が1閉塞である場合を除き、2個以上表示する。なお、地下区間及び長大トンネルは夜間の方式で扱う。

赤色灯、赤色円板又は赤色反射板を1個表示する場合は後面の左側に、2個表示する場合は、両側に水平に、それぞれ表示する。

なお、夜間等に2灯表示すべき場合であって後部標識灯が切れて1灯だけの表示となった場合は、運転指令に連絡し、後続列車の運転士にその旨を通告した上で運転を継続する。後部標識灯が全て切れた場合は、指令に連絡し、同一の停車場間に後続列車が続行して進入しないように抑止した上で、運転を継続する。

閉そく信号標識

閉そく信号機は、場内信号機出発信号機の形状が同じため、その識別のために設けられた標識[5]。現在の呼称になるまで、順に「自動識別標識」、「閉そく信号機識別標識」と呼ばれていたことがある[5]。運転士はこの標識によって閉そく信号機(許容信号機)であることを認識し、その番号で停車場間の運転位置の判断を行うことが出来る[5]。形状は「灯」と「反射材」のものがある[5]。この標識に表示される番号の規則は鉄道事業者によって異なり、「次の停車場に近付くに連れて番号が減る」「キロ程を10倍若しくは100倍して、さらに上り・下りによって奇数・偶数のいずれかを1の位に付ける」等の例がある[6]

中継信号機標識

色灯式中継信号機には主信号機と区別するため設けられ、紫色灯1個の標識である[7]

場内標識

車内信号区間において、場内進路の始端を示す位置に設置する標識[8]。橙色の菱形に黒字の様式[9]

出発標識

車内信号区間において、出発進路の始端を示す位置に設置する標識[10]。黒色正方形で黒字の様式[9]

入換標識

停車場内で入換を行う場合に、線路開通方向を示すために設置される[10]。入換作業を行う際に、転てつ器を直接操作するのでは無く他の場所で集中して取扱う場合、運転士が線路開通状況を確認するのが困難であるため入換標識が設けられる[11]。「灯列式」と「線路表示式」の2種類に分けられる[11]

入換標識に附属し、開通している線路を示す表示灯を線路表示器と呼ぶ。灯器は、灯列式3進路用(Γ、T、¬)、数字式多進路用の機構がある。

「灯列式」は入換信号機と同一の機構を用い、入換信号機による入換運転区間が設定されている場合は「入換信号機識別標識」を用いる[11]。この機構を入換信号機として使用する場合は入換信号機識別標識は点灯し、入換標識として使用する場合は滅灯する[11]。入換信号機と異なり、進路上の車両等の有無を軌道回路によって確認しない[11]。そのため、入換標識は既に車両が存在する線路にも自由に進入出来る[12]

「線路表示式」は線路表示器としての機能を兼ねて、開通線路を的確に表示する[13]。「線標」と略される[14]。「灯列式」のように入換標識の設置個所までその表示を確認する必要がなく、作業の効率化が図れる[15]上越線石打駅で設置されたのが始まりで、番線表示が作業員全員に認識でき、線路間に入換標識を設置しなくてもよいため傷害事故防止を図れ、除雪作業の障害にもならないため好評であった[14]

転てつ器標識

転てつ器の開通している方向を示す必要がある時に設けられる[16]。用途によって「普通転てつ器標識」「発条転てつ器標識」「脱線転てつ器標識」の3種類があり、サイズは大・中・小の3つある[16]。それぞれに「定位」と「反位」の表示がある[16]。なお、電気転てつ器の場合は普通、転てつ器標識は設置されないが、脱線転てつ器の場合は電気転てつ器であっても必ず脱線転てつ器標識が設けられる[16]

列車停止標識

白色方形板に黒十字のデザイン[17]列車を停止させる限界は一般に出発信号機によって示されるが、「出発信号機を所定の位置に設置出来ない進路」又は「出発信号機を設けていない進路」で列車を停止させる限界の位置に列車停止標識が設置される[5]。反射板または灯により表示[18]。'列停(れってい)とも呼ばれる。

車両停止標識

黒色方形板に白十字のデザイン[17]車両の入換運転は入換信号機によって行われ、車両入換運転の行う区間の終端に設けられる[19]。反射板又は灯により表示[18]。但し、車止標識が設けられている場合は省略される[19]

車止標識

本線や主要な側線の車止めに設ける標識[20]。反射板又は日により表示[20]。構内の照明設備や車両の前部標識の灯具が改良されたことにより反射板のものが採用されるようになった[21]

架線終端標識

架線の終端に設置し、電気機関車電車が誤って架線が無い区間に進入する事故を防ぐために設置される[22]。車止標識が設けられている場所は省略されるが、例え車止標識が設けられたとしても架線が車止標識がある地点まで整備されていない場合は架線終端標識を設置しなければならない[22]。直流電化区間では一般的に「灯」のものが設置され、交流電化区間では高電圧下での保守作業の安全性に考慮して照明装置を設備した上で反射式標識が設けられる[22]

気笛吹鳴標識

列車の運転士に汽笛を鳴らすよう指示する標識[23]。遮断機や警報機が設けられていない踏切で横断者に列車接近を知らせる目的などで設置される[23]。その他、トンネル橋梁を通過する際又は保線工事を行っている際に、注意を促すために警笛を鳴らす必要がある場所に設置される。国鉄・JRでは「×」印だが、私鉄では「笛」印やラッパマークも存在する。

その他の標識

技術基準省令の解釈基準に定められていない標識で代表的なものを下記に示す。

速度制限標識

速度制限標識は、曲線や設備の都合上、列車速度を制限しなければならない箇所を示す標識である。白地に黒文字で数字の外見が多いが、鉄道事業者によっては橙黄色地であったり、緑色枠で囲んであったり等して様式が異なることがある[24]。列車はこの標識がある地点までに表示された制限速度以下に速度を落とさなければならない。近くに信号機があれば、現示と比べて制限速度が低い方を優先する。(例として信号が注意〔45km/h〕表示で速度制限標識が35km/hであれば、速度制限標識に従う。反対に速度制限標識が100km/hで信号が減速〔75km/h〕表示であれば、信号の速度制限に従う。)

一般用

急曲線等、速度を制限する必要のある区間の始点に設置される標識である。制限速度のみが表示された種類と、制限速度に加え、下部に制限区間の距離や適用される列車種別、車種が併記された種類がある。

一般的にこの標識に表示された制限速度は、列車が速度制限区間の曲線を通過する際に発生する揺れや遠心力等による乗り心地低下等に問題が無い、あるいは長い下り勾配で非常停止距離が600mを超えないと言う上限速度であり、この速度を越えるとすぐ様脱線・転覆等の危険に繋がる訳では無い。しかし制限速度を大幅に超えて通過すると危険に繋がると言うことに変わりは無く、JR福知山線脱線事故では速度制限超過が事故原因とされている。

なお、多少の揺れは吸収出来る高性能台車や振り子式等の車体傾斜装置を備えた車両は、同じ速度制限区間でも他車両より特別に制限速度が高く設定されている場合があり、その列車用に数種類の標識を縦列に設置していることもある[24]。また形式別で制限速度を設けている場合、標識下部に形式名等を表示する。色や模様等を付加して特定の列車種別を区別する場合もある。

分岐用

分岐器の分岐側を進行する列車に対して速度を制限する標識である。制限速度とともに分岐側の上下の隅が黒く塗られている。分岐器は構造が複雑で転轍器に過剰な負荷が掛からないよう、速度を制限することが必要となる。

分岐器番数・種類にもよるが、25 - 80km/hの制限が掛かる。また車庫構内では10km/hのところも見られる。私鉄では稀に1km/h単位で制限速度が刻まれることもある。分岐器の分岐側は一般にカントが付けられないため、通常曲線に比べると制限速度超過の許容範囲は狭い。

速度制限解除標識

速度制限解除標識は速度制限標識を設けた速度制限区間が100 m以上の場合、その制限箇所の終端に設けられる[25]。分岐器の箇所では速度制限区間が短く煩雑さを避けるため省略される[25]。事業者によっては「解除」の文字が記されたものなどの様式も存在する[23]

制限解除後端通過標識

運転士による上記作業を補うため、速度制限区間を通過した地点から、編成車両数の距離分離れた位置に両数付きの数字(「8」「10両」など)を示しておくもの。JR西日本東武鉄道東急電鉄京浜急行電鉄などに見られるほか、近畿日本鉄道においては停止位置目標同様、記号を用いたものが使用されている(1を表す細線と5を表す太線を用いて表現し「細線4本で4両」「細線1本と太線1本で6両」のように)。また臨時信号機においても、同様に後端通過標識が設置されることがある。

架線死区間標識

交直セクション

電気方式の交流・直流切替地点にある。ここから電気が流れていない区間(無電区間)であることを示す。

架線電源識別標識

地上切替方式を採用する停車場内の交直流両用区間において、架線に直流・交流のどちらかが加圧されているかを表示する。直流では白色灯2灯を縦に、交流では燈色灯2灯を横に、それぞれ点灯する。

進路電源識別標識

地上切替方式を採用する停車場内の交直流両用区間において入換標識・入換信号機により車両を入換する際に、開通した進路に直流・交流のどちらかが加圧されているかを表示する。直流では青紫色の横棒2本が、交流では燈色波線が、それぞれ表示される。

出発反応標識

出発信号機信号現示が列車出発合図や出発指示合図を行う係員から確認困難な場所に設置される[26]。「信号反応標識」とも[18]。「レピーター」と呼ぶ鉄道事業者もある。車内信号方式によるATC区間では全駅の出発線で設置される[26]。出発線が複数ある場合は線路ごとに取付ける必要がある[26]。但し、夜間は2個以上並列していると識別が難しくなる[26]

出発信号機が停止現示の時は滅灯し、これが定位(通常状態)である[26]。出発信号機が進行を指示する現示(注意・減速・警戒でも)の時は白色灯を点灯させる[26]

車両接触限界標識

ここを超えると他の車両と接触する場所であることを示す。線路の分岐箇所や平面交差箇所で、日本の鉄道では線路中心間が4.0 mとなる箇所に設置される。一般的には甲号(その色と形状から「トウフ」と呼ばれる)が設置されているが、積雪地域では乙号(根元と頭部付近に黒帯が入った四角柱)が設置されている。「クリアランスポイント」とも呼ぶ。

一旦停止標識

構内を運転中の車両を一旦停止させるための標識[27]。停車場と車両基地などの構内の境界において人員交代が必要等構内作業上の都合で設置される場合と、過走を防ぐために設置される場合がある[27]

停止限界標識

ATC区間において列車、あるいは地上信号機により入換を行っている車両を停止させる限界を示す。

突放入換標識

突放入換に対する入換標識。3現示の色灯式信号機と同一の筐体で、灯色は全て白色である[28]。この標識に付属する進路表示機は「突放入換標識用進路表示器」で、3進路用は下部に3現示の色灯式信号機を90度倒したものを用い、他にも多進路用のものもある[28]。この標識の表示を中継する場合は背面板を四角にした「突放入換標識反応灯」を用いる[28]

入換信号機識別標識

入換信号機に付属する標識で、紫色灯が点灯していれば入換信号機となり、消灯している時は入換標識となる。

最高速度予告標識

次の駅まで出すことが出来る最高速度を、駅の少し先(主に出発信号機付近)に表示しておくもの。優等列車が走る区間では、種別のシンボルカラー(赤=急行、黒=普通、等)に対応させた標識を、種別数だけ何段も表示しておくケースが殆どであり、東急電鉄ATC区間、京王電鉄京成電鉄(グループ会社の北総鉄道、新京成電鉄、芝山鉄道を含む)、名古屋鉄道近畿日本鉄道等、一部私鉄で使われる。

停車場接近標識

列車が停車場に接近したことを示す。


  1. ^ 省令第2条第1項
  2. ^ a b 所澤秀樹 2020, p. 568.
  3. ^ 所澤秀樹 2020, p. 569.
  4. ^ 手ブレーキにより貨車突放する場合がこれに当たる。
  5. ^ a b c d e 吉武勇 2006, p. 54.
  6. ^ 湯川徹二 2004, p. 47.
  7. ^ 所澤秀樹 2020, p. 567.
  8. ^ 日本鉄道電気技術協会 2020, pp. 300–301.
  9. ^ a b c d 編集部 1998, p. 47.
  10. ^ a b 日本鉄道電気技術協会 2020, p. 301.
  11. ^ a b c d e 日本鉄道電気技術協会 2020, p. 302.
  12. ^ 日本鉄道電気技術協会 2020, pp. 302–303.
  13. ^ 日本鉄道電気技術協会 2020, p. 303.
  14. ^ a b 日本鉄道電気技術協会 2020, p. 304.
  15. ^ 日本鉄道電気技術協会 2020, pp. 303–304.
  16. ^ a b c d 吉武勇 2006, p. 61.
  17. ^ a b 湯川徹二 2004, p. 48.
  18. ^ a b c 天野光三・前田泰敬・三輪利英 1984, p. 267.
  19. ^ a b 吉武勇 2006, p. 56.
  20. ^ a b 天野光三・前田泰敬・三輪利英 1984, p. 268.
  21. ^ 日本鉄道電気技術協会 2020, pp. 306–307.
  22. ^ a b c 吉武勇 2006, p. 63.
  23. ^ a b c 所澤秀樹 2020, p. 563.
  24. ^ a b 薄井裕 2004, p. 55.
  25. ^ a b 吉武勇 2006, p. 62.
  26. ^ a b c d e f 日本鉄道電気技術協会 2020, p. 300.
  27. ^ a b 吉武勇 2006, p. 65.
  28. ^ a b c 湯川徹二 2004, p. 49.
  29. ^ a b 天野光三・前田泰敬・三輪利英 1984, p. 266.
  30. ^ 例えば都営地下鉄において力行標はP、惰行標は斜線で表わされる。
  31. ^ a b 日本鉄道電気技術協会 2020, p. 147.
  32. ^ 日本鉄道電気技術協会 2020, pp. 147–148.
  33. ^ 日本鉄道電気技術協会 2020, p. 148.


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