緊急警報放送 緊急警報放送の概要

緊急警報放送

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/01 17:38 UTC 版)

開始信号(第1種開始信号)
開始信号(第2種開始信号)
終了信号(試験信号)

テレビ・ラジオを自動的に起動させるためには緊急警報放送に対応した受信機が必要になる。

なお、受信機のスイッチを自動的にオンにして行う放送として緊急告知FMラジオなどがあるが、これらは法令に基づく緊急警報信号を使用していないことが異なる[注 1]

地上デジタル放送ワンセグフルセグを搭載しているカーナビゲーションシステムには、緊急警報放送を受信すると強制的に放送されているチャンネルへ変更し現在地から最も近い避難所ナビゲーションする機能が付属している[注 2]

緊急警報放送は、B-CASカードやテレビのカードスロットの故障への考慮から、テレビにB-CASカードが挿入されていない状態でも受信が可能である[1][信頼性要検証]

概要

該当する地域の住民の生命・財産の保護のため、放送局緊急警報信号(Emergency Warning Signal, 略称:EWS[2])と呼ばれる特別な信号を前置したうえで臨時に行う放送であり、1985年9月1日から日本放送協会 (NHK) および13の民間放送局で導入を開始した[3][4]。また、NHKでは同日に初めての試験放送を実施している[5]

以下の条件のいずれかに該当する場合に行われる(放送法施行規則第82条[注 3]および無線局運用規則138条の2に規定している[6][7]

※かつては東海地震の警戒宣言が発令された場合においても行われる可能性があった。

緊急警報放送の受信に対応した受信機は、待機状態でも緊急警報信号を受信するための回路を作動させており、緊急警報信号を受信した際にはただちに電源をオンにして放送の受信状態に移行する。これにより、緊急警報放送の開始時に受信機の電源がオフの状態であったとしても、放送を受信することが可能である[6]

緊急警報信号の形式はアナログとデジタルで異なる。アナログ放送では音声に周波数偏移変調 (FSK)[注 4]の警報信号を多重するが、1024または640Hz可聴音であるため、耳で聞き取ることができる(俗に「ピロピロ音」と称される)。一方、デジタル放送では放送波の中の制御信号(音声などには変換されない)に織り込まれているため、聞き取ることはできない[7]。ただし、デジタル放送では緊急警報放送を受信して自動で電源が入った後には、メッセージ(「緊急警報放送が放送されています」)が表示されるだけで警報音が鳴らない機種がほとんどのため、NHKではデジタル放送でもアラーム代わりとして信号音を送出している。

放送の内容は通常の災害報道であり、安否情報や火の元の安全を呼びかける放送、津波の到達が予想される場合は警報・注意報の発表状況、津波の到達予想時刻などが繰り返し放送される。

信号

緊急警報信号の種類

緊急警報放送の開始・終了の際に使用される緊急警報信号には第1種開始信号、第2種開始信号、終了信号の3種ある[6]

  • 第1種信号は 各自治体(都道府県、並びに市区町村)の首長から避難指示や緊急安全確保の発動がなされた場合などに送信される(第1種、第2種ともに約16秒間鳴らされる)。
  • 第2種信号は (大)津波警報が発表された時のみ送信される。第1種信号は強制的に動作するが、第2種信号は受信側で動作させない設定が可能である(特に、海岸や川の河口から遠く離れている地域や内陸の地域)。
  • 終了信号は、第1種開始信号や第2種開始信号が送信された場合、すみやかに送信される(おおむね10分以内であり、信号音は2秒間で4回鳴らされる)。
  • 試験信号は、終了信号と同一であるが開始信号を送信することなく終了信号のみが送信された場合を意味しており、受信機が正常に動作するかを確認するための信号である(事実上、緊急警報放送の定期放送ともされている)。

アナログ放送

アナログ放送では、音声搬送波にデジタルの警報信号を多重して送信される。開始信号が96ビット・終了信号が192ビットの長さ、通信速度64bps(よって、開始信号は1.5秒間、終了信号は3秒間)で、開始/終了、地域区分、日付や時間を示す情報が織り込まれている。この信号の情報は、FSK変調[注 4]により、「1」を1024Hzの音声信号、「0」を640Hzの音声信号とするデジタル信号に変換されて音声搬送波に多重され、送信される[7]。対応する受信器(テレビ)はこれを復調して信号を検出する回路を持っており、信号に応じてスイッチを入れるなどの動作をする[8]。なお、開始信号では受信確率が高まるよう4 - 10回、終了信号は2 - 4回繰り返される[7]

デジタル放送

デジタル放送では、制御信号の緊急警報放送識別子というデータで送信される。具体的には、伝送制御信号TMCC (Transmission and Multiplexing Configuration and Control) の中の「起動制御信号」(起動フラグ)と、MPEG-TS信号のPMT (Program Map Table) の緊急情報記述子の中の信号、2種類を用いる。起動制御信号は全204ビットあるTMCCビット列の中の26番目に設定されており、これが「1」のときが緊急警報放送「放送中」、「0」の時が終了・通常放送中である。緊急情報記述子の中の関連する部分は、「1」「0」で放送中か否かを表す"start_end_flag"(1ビット)、第1種/第2種種別を示す符号(1ビット)、間に予備ビット(6ビット)を挟み、地域符号の長さを示す符号(8ビット)、地域符号(12ビット)から構成される。受信機は起動制御信号を常時監視し、「1」となったら次は"start_end_flag"を監視し、これも「1」となったら緊急警報放送の受信を開始する。また、"start_end_flag"が「0」になるか起動制御信号が「0」になれば、受信を終了する。この信号は理論上はワンセグでも受信でき、現状機種は対応していない(ただし、ワンセグ対応携帯電話は一部機種を除いてエリアメールで代用可能)が、その手法の検討がいくつか行われている[7][9][10]

その信号を受信した放送局に合わせると、「このチャンネルで緊急警報放送が放送されています」(シャープ製品の場合)[注 5]というような情報が確認することができる。なお、対応機種はごく限られているため、すべてのデジタル放送受信機で表示されるわけではない。デジタル放送でも、アナログ放送のEWS信号音を音声信号と見なして放送できることが法律で認められている。

地域符号

緊急警報信号には、特定の県にだけ警報を発する「県域符号」、より範囲の広い「広域符号」、全域に発する「地域共通符号」がある[7]

放送の制限

緊急警報放送はその役割から、放送法施行規則第82条及び無線局運用規則第138条に、規定された理由以外での使用をしてはならないとしている。しかしながら、2010年3月7日に放映された『サンデーモーニング』 (TBS) において、前週の2010年2月28日に放映した内容を録画放映した際に、チリ地震による大津波警報・津波警報・津波注意報が日本各地に発表されたときの緊急警報放送が入ったままのVTRを放映し、一部受信機が動作した事例が存在する。この事例では番組終了間際に終了信号の送信が行われた[11]

2023年12月2日(日本時間)23時37分頃にフィリピン付近で発生した地震で、23時56分に日本の太平洋沿岸に津波注意報が発表されたが、3日0時のNHKニュースで、誤って緊急警報放送の開始信号を送出、直ちに終了信号を発するトラブルがあった。


注釈

  1. ^ いずれに対応した受信機も起動できるように、法令に基づく緊急警報信号と受信機のスイッチを自動的にオンにするその他の信号を併用する例(FMながおか)もある。
  2. ^ パナソニックのカーナビであるStradaのCN-HW800Dなど。運転中でも強制的に変更されるが事故などの危険防止のため、走行中は音声と避難所へのナビのみとなる。
  3. ^ 平成23年総務省令第62号による改正前は第17条の27。
  4. ^ a b Frequency shift keying。0と1のデジタル信号を、搬送波(緊急警報信号の場合、音声搬送波に割り当てられている放送周波数帯域)を低周波数と高周波数に変換して送信、受信器でその信号を検知する。
  5. ^ ソニー社製品では「○○○chで緊急警報放送を放送しています」と表示される。
  6. ^ 北海道地方はかつては平日は各局別・土日はすべての地域が札幌局からの放送だったが、現在は平日・休日を問わず、すべての地域で札幌からの放送である。
  7. ^ 該当日に実施できない場合はその月の後日に延期する場合もある。最近では、2017年12月1日にテレビ・ラジオ共に皇室会議に関する報道特別番組のため、12月11日に延期となったほか、2019年4月1日もテレビ・ラジオ共に新元号(令和)発表に伴う報道特別番組のため、4月8日に延期し、2019年5月1日もテレビ・ラジオ共に新天皇・徳仁の即位に伴う報道特別番組のため、5月8日に延期となった。2021年8月1日もテレビ・ラジオ共に東京オリンピック放送のため、閉会式翌日の8月9日に延期し、2021年9月1日もテレビ・ラジオ共に東京パラリンピック放送のため、閉会式翌日の9月6日に延期となった。
  8. ^ ネットラジオの開始当初はこの間のみ完全無音だった。ネットラジオのラジオ第1・FM放送の番組表では「緊急警報試験信号」と表記されているが、ネットラジオにおける試験信号放送は一切行っていない。
  9. ^ 当初は試験放送終了時のアナウンスには「大規模地震」という文言も含まれていた。これは冒頭で述べた2つに加え「大規模地震への警戒宣言」というものもあったためである。
  10. ^ ただし、2013年までは1月4日(EPGより)[要出典])に実施。
  11. ^ 小千谷市では緊急警報信号でなく自然音を利用したComfis方式のラジオを配布しているため(「市報おぢや」平成24年5月25日号お知らせ版 (PDF, 1678 KiB) 2ページ)、小千谷市向けは緊急警報信号を使用していない可能性もある。
  12. ^ アナログ式専用受信機は試験放送を確認すると確認音と一定時間確認ランプの点灯で報知するため確認できるが、デジタルチューナーにこの確認機能は実装されていない。#外部リンクの「NHK放送受信相談室:緊急警報放送」に(※信号受信によって自動的に起動します)と書かれているが、デジタルテレビなどの受信機すべてが動作するわけではないため、再確認する必要がある。
  13. ^ 2011年4月7日発生の宮城県沖の地震による津波警報発表時はNHKワールド・プレミアムでも終了時の信号音のみそのまま流れた(発表時は独自の局内回線を受けていたため、信号音は流れていなかったが、数分後に関東地方のデジタル総合テレビの放送回線に切り替わり、地震速報テロップ・発表域テロップおよび逆L字画面による被害関連情報がそのまま流れていた)。
  14. ^ G以外の各波では、関東地方及び関東甲信越ブロック向けのローカルニュースがそのまま流れる。
  15. ^ TBSラジオが2011年3月11日15時23分に送出した第2種開始信号に対する終了信号は、約53時間後の3月13日20時58分に送出された。
  16. ^ 映像等とは別に受信した信号により、受信機側で文字を表示する。日本の緊急地震速報での文字スーパーと同じ。
  17. ^ 映像構成や内容が不気味であるため、イギリスには「Protect and Survive」に恐怖心を覚えている世代が存在するという。

出典

  1. ^ 2022年1月のフンガ・トンガ噴火と3月の地震で発表された際にシャープのテレビLC-32E9で確認済み
  2. ^ 国分と伊藤、2006年、140ページ
  3. ^ 日本民間放送連盟(編)「放送日誌(60年9月)」『月刊民放』第15巻第12号、日本民間放送連盟、1985年12月1日、50頁、NDLJP:3471000/26 
  4. ^ 日本放送協会 編『NHK最新気象用語ハンドブック』日本放送出版協会、1986年11月20日、223頁。NDLJP:9673200/123 
  5. ^ 緊急警報試験信号(L) - NHKクロニクル
  6. ^ a b c d e 日本技術士会 防災Q&A 7.6
  7. ^ a b c d e f g 伊藤、2007年
  8. ^ 日本電子機械工業会「EIAJ CPR-2202 緊急警報受信機試験方法」、1992年2月(電子情報技術産業協会HP参照、2018年2月9日閲覧)
  9. ^ 田口、2008年
  10. ^ 福長、2009年
  11. ^ “誤作動?TBS番組の録画放映で緊急警報受信”. スポニチアネックス (スポーツニッポン新聞社). (2010年3月7日). https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2010/03/07/kiji/K20100307Z00000950.html 2022年1月16日閲覧。 
  12. ^ カンテレ通信 2015年5月17日(関西テレビ)
  13. ^ 青森放送ホームページ番組表及びEPG
  14. ^ 北日本放送、福井放送各ホームページで確認済み。
  15. ^ 朝日新聞、2006年8月20日。
  16. ^ a b c d e f 福永、2010年
  17. ^ 「報道発表 世界の放送技術をリードした“ハイビジョン” と “緊急警報放送” が「IEEE マイルストーン」に認定」、日本放送協会、2016年4月7日付、2023年1月16日閲覧
  18. ^ a b IEEE MILESTONE (27)」、IEEE Japan Council、2023年1月16日閲覧
  19. ^ a b c 阪口安司「EWBS 現地適合化ソリューションの考案開発など地デジ日本方式(ISDB-T)海外普及活動」(EWBS普及促進活動)、一般財団法人 海外通信・放送コンサルティング協力、2022年
  20. ^ 「世界情報通信事情 > フィリピン > 監督機関・法律・政策等」、総務省、2023年1月16日閲覧
  21. ^ https://www.nicovideo.jp/watch/sm12336592
  22. ^ 防護と生存(日本語訳版)





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