個体 分類群による違い

個体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/07 00:56 UTC 版)

分類群による違い

動物の場合

動物の場合、たいていは個体性が明確である。それぞれの個体は明確な形を持ち、消化器官・循環系・排出系等の器官系を体内に備える。いわゆる個体の概念は、このような動物のあり方から生まれたのはまず間違いのないところである。ただし、すべてがそういう訳ではない。

例えば、社会性昆虫では、形態的には個体性は明確だが、個々の個体はその生活を社会に依存し、独立した生活は考えにくい。これをもって個体性が不明確だという訳には行かないが、少なくとも、生存上の単位として社会を考えない訳には行かない。

群体を形成するものでは、この問題がさらに重要になる。そこでは、形態上の個体性も失われる場合があり、管クラゲなどでは摂食のための個体と生殖のための個体の分化も見られ、個体が群体の中の器官と化している。ただし、詳細に見れば、各個体を区別することは多くの場合は可能ではある。

植物の場合

植物界の生物では、個体のあり方は動物とは大いに異なる。そもそも植物界の生物では、細胞を既存の体の外側に積み重ねることで成長が行われる。その結果、その形は成長に連れて積み上げ式に変化し、もとの体そのものは失われている。その点、同一の体の中で細胞の入れ替えを行う動物では個体の同一性が把握し易い。

一応は植物においても個体を区別できる。地下にを広げ、地表にを伸ばし、をつけ、生殖器官を作るひとまとまり、より具体的には根元が共通の茎を持つものを一個体とみなせばよい。ただし、それが通用しない事例が多い。

植物の場合、成長点を頂点として、それに続く一連の同化器官を含む枝が形態的な単位として全体を構成している。それが一つしかないような、単一の茎の先に同化器官や花を、基部に根をもつものであれば、これを個体として認識するのは当然であり、そのような体をもつものもある。しかし、多くの植物においては一つの茎に複数の成長点があり、それぞれに植物体の単位と見なせる構造を備える。そのうち一つだけが活動している場合でも、他の芽が動き始める可能性がある。複数の芽が動いていれば、つまり複数の枝があれば、それだけ構造の単位が複数あることになる。それが根元から離れた部分であれば、基部の同一性は確保できるが、根元から枝が出れば、これを同一個体と見なす根拠は危うくなる。実際、そのような状態で、その枝から根が出れば、これをたやすく切り離して独立させることができる。いわゆる分けである。

このように、植物においてはごく簡単に無性生殖によって株数が増えるものが多い。その結果、同じ遺伝子を持つ、いわゆるクローンが一つのかたまりとなって生存するものが多い。この場合、個々には個体と判断できるが、本来は同一個体であったものがひとまとまりに生活している。無性生殖で増えたのであるから、別の個体と考えることに何等問題はないが、匍匐茎などによって連絡が続いている場合もある。また、タケのように一つのコロニーが一度に開花して枯死する例など、コロニー全体を一つの個体と見た方がよいかもしれない例もある。

菌類の場合

菌類は一般に菌糸からその体が構成される。この場合、植物以上に個体の区分は難しい。キノコのような子実体は見かけ上は個体であるかのように見えるが、実際には生殖器官であるに過ぎず、その下に栄養体が隠れている。その栄養体は菌糸という、個々に独立した活動が可能な糸状態の集積である。かといって菌糸を個体と見なすのもおかしい。大型のキノコは、多数の菌糸が集まった状態から作られるし、それを支える栄養菌糸も、大きなものが求められるからである。他方、コロニー全体を個体と見なす考えはあり得る。しかし、断裂を起しやすく、まとまりがあるとは言えない。

菌類の形として、酵母という単細胞の姿を取るものもある。この場合、個々の細胞を個体と見なすことも可能であるが、菌糸の場合との整合性に問題が感じられる。

個々の菌類について考えれば、ツボカビ類には胞子のうを一つしか作らない単心性のものがあり、この場合には個体が明確である。また、接合菌類のトリコミケス類、子のう菌類のラブールベニア類なども個体が判別できる例である。

粘菌類の場合

粘菌類は、個体の概念に問題を投げかける点が多い。 粘菌類の多核体変形体は、変形しつつ移動し、微生物などの餌を漁る。この時点では変形体が一つの個体と考え得る。分裂させれば簡単に増えることもできるが、それはまあ例がないことではない。しかし、子実体を形成する際、多くのものでは、変形体が細分して、小さな子実体の集まりの形になる。朽ち木の表面にずらりと並んだ子実体の群れは、単一の変形体に由来するから、これらをまとめて一個体と見なすべきかもしれないが、それらの間の連絡は全く存在しない。ただし、子実体は栄養活動を全く行わない。

細胞性粘菌の場合には、これとは逆の現象がある。栄養体は単細胞のアメーバ状体で、細胞分裂によって増殖する。これを個体と見なすのはたやすい。しかし、子実体を形成する際、単細胞アメーバが集合して一つのかたまりとなる。その結果、明らかな形を持つ多細胞の子実体ができるが、これは多数個体のアメーバに由来する。そこで、単細胞アメーバを個体と見なし、集合する事を社会的性質と見なし、この類を「社会性アメーバ」ということもある。

藻類その他原生生物原核生物の場合

多細胞藻類の場合、その内容はほぼ植物と同じである。

単細胞生物の場合には、細胞が個体を構成すると見ることが可能ではある。藻類原生動物の場合には、この見方でよいと思われる。細菌類の場合、連鎖するものや固まりになるものなど、特定の構造を作る場合があり、むしろそちらを単位と見なした方がよいと思われるものもある。

やっかいなのが細胞群体を形成するものである。ボルボックス目のものは、鞭毛藻類が多数集まった姿で、繁殖はそれぞれの細胞が新しい群体を形成する形で行われる。これは個々の細胞が生殖の単位となっているので、細胞を個体と見ることもできるが、必ず一定数の細胞で動くから、群体を個体と見ることもできる。その中でボルボックスは、生殖細胞が分化しており、群体がはっきりと個体としての性質を示すと言える。しかし、もっとやっかいなのがクンショウモ類である。これも一定数の細胞が集まって群体を形成するものであるが、運動性がないだけに、群体を個体と見なすのに何の問題もないように感じられる。ところが、群体が増える際、親群体の個々の細胞が分裂する点はともかく、これが細胞内で一旦は遊走子の形を取ってしまう。その後、それらが集まって群体ができる。一般に生殖細胞は新しい個体の始まりと考えられる。ところが、ここではひとまず複数の生殖細胞が形成された後、改めてそれらが集まって群体ができるというのは、他の生物と比較した場合、全く奇妙である。細胞性粘菌の集合にやや似なくもない。いずれにせよ、個体性を考える場合には大きな問題となろう。








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