ナシ
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品種
ナシの栽培は古くからあったが、品種名が文献に現れるのは江戸幕府が行った特産品調査(1735年)である。当時既に150もの品種が記録されている。品種改良は20世紀初め頃から行われるようになった。現在では幸水、豊水、二十世紀、新高の4品種だけで、収穫量の約9割を占めているが、いずれも19世紀後半 - 20世紀前半に発見あるいは交配された品種である。
ナシの品種は、果皮の色から黄褐色の赤梨系と、淡黄緑色の青梨系に分けられる[12]。多くの品種は赤梨系で、青梨系の品種は二十世紀、八雲、菊水、新世紀、秋麗、瑞秋(二十一世紀梨)など少数である。この色の違いは、果皮のコルク層によるもので、青梨系の果皮はクチクラ層に覆われており黄緑色となるが、赤梨系の品種では初夏にコルク層が発達し褐色となる。
和梨と洋梨を問わず、ナシの品種は、果皮の色から大きく4つに分けられる。幸水梨などの赤茶色系のラセットタイプ(Russet pear)、リンゴのように赤い赤色系のレッドタイプ(Red pear)、中国梨のように黄色い黄色系のイエロータイプ(Yellow pear)、二十世紀梨などの青色系のグリーンタイプ(Green pear)などがある。レッドタイプとイエロータイプの中間種でピンクタイプなども存在する。
幸水
幸水(こうすい)は赤梨系の早生種で、和なし生産の34%を占める最も生産量の多い品種である[7]。なし農林3号。
農研機構(旧園芸試験場)が1941年に菊水に早生幸蔵を掛け合わせて作り、1959年に命名・発表された。早生種の中でも特に収穫時期が早く、8月中旬から下旬である[12]。ただし、収穫時期が短い。赤梨系だが中間色(中間赤梨)と言い、若干黄緑色の地色が出る。酸味は少なく糖度が高い[12]。果肉は柔らかく果汁も多い[12]。早生種としては平均的な方だが、日持ちが短い。
豊水
豊水(ほうすい)は赤梨系の中生種で、和なし生産の30%を占める生産量第2位の品種である。なし農林8号。
農研機構(旧果樹試験場)によって1954年に作られ、1972年に命名された。糖度が高いが、ほどよく酸味もある濃厚な味が特徴。300 - 400 gと幸水よりやや大きめで、果汁が多い[7]。また、日持ちも幸水よりは長い[7]。長らくリ-14号と八雲の交配種とされていたが、2003年に農研機構のDNA型鑑定によって幸水とイ-33の交配種であると発表された。
二十世紀
二十世紀(にじっせいき)[13][14]は青梨系の中生種で、和なし生産の13%を占める生産量第3位の品種である。また、鳥取県産なしの8割を占める。300g前後の中玉[7]。
青梨系の代表品種で、一般的な唯一の青梨。1888年に千葉県大橋村(現在の松戸市)で、当時13歳の松戸覚之助が、親類宅のゴミ捨て場に生えていたものを発見、移植して育てた。覚之助はこれを「新太白」と名付けたが、実がなった1898年に渡瀬寅次郎によって、来たる新世紀(20世紀)における代表的品種になるであろうとの観測と願望を込めて新たに命名された[15][16]。その後、1904年に北脇永治によって鳥取県に導入され、鳥取県の特産品となった。同県倉吉市には専門のミュージアム「鳥取二十世紀梨記念館 なしっこ館」(倉吉パークスクエア内)があり、花は鳥取県の県花に指定されている。
発祥の地は後に「二十世紀が丘梨元町」と名付けられ、覚之助の業績を記念している[15]が、発祥の松戸市を含む関東地方では幸水や豊水が主で、現在殆ど栽培されなくなっている。二十世紀梨の原木は1935年(昭和10年)に国の天然記念物に指定されたが、1947年(昭和22年)に枯死しており、原木の一部が松戸市立博物館に展示されている(松戸市指定有形文化財)[17]。松戸市の二十世紀が丘梨元町にある二十世紀公園には二十世紀梨誕生の地の碑がある(松戸市指定文化財)[18]。
果皮は黄緑色、甘みと酸味のバランスが良いすっきりした味わいで、果汁が多い[16]。収穫時期が比較的遅く、(水分の多い)梨の需要が見込まれる夏・初秋に収穫できないのが欠点でもある。自家受粉が出来ない(これは二十世紀に限らず)、黒斑病に非常に弱いといった欠点を改良した品種もある(後述)。
新高
新高(にいたか)は赤梨系の晩生種で、和なし生産の11%を占める生産量第4位の品種である。
菊地秋雄が東京府立園芸学校の玉川果樹園で天の川と長十郎を交配させて作った品種で、1927年に命名された。名前の由来は当時日本で一番高い山であった台湾の新高山(玉山)より[19]。当時の命名基準では国内の地名を用いることになっており、優れた品種であることから、日本で一番高い山の名称を用いたという[注 1]。収穫時期は、10月中旬から11月中旬。500グラム - 1キログラム程度の大型の品種で、果汁が多く、歯ごたえのある食感で、味は酸味が薄く甘い[7]。洋なしほどではないが芳香もある。比較的日持ちが良い。
新興
新興(しんこう)は赤梨系の晩生種で、生産量は新高に次ぐ5位。
1941年、新潟県農事試験場で二十世紀と今村秋を掛け合わせて作られた。やや大きめの品種で収穫時期は10月上旬から下旬。赤梨ながら青梨の性質を兼ね備えるのが特徴で、シャリシャリした歯ざわりがあり、遅くに収穫したものなら常温でも年を越せるなど日持ちが抜群に良い。果汁が多く、味は二十世紀の酸味を弱めた感じである。
その他の品種(赤梨系)
- 南水(なんすい)
- 長野県で新水と越後を掛け合わせて作られた[20]赤梨系の中生種。350 - 500 g程度の大玉で、糖度が15度と甘みが強い[7]。長野県での生産が9割ほどを占める。長野県飯田市を中心とする南信州地域では大正時代から梨栽培に取り組み、「南水」は20年近い歳月を経て誕生し、平成2年に長野県が品種登録した[20]。名前は、「南信州の清涼さと南アルプスの崇高さ」をイメージしてつけられた[20]。
- 果皮は黄褐色。果肉は雪白色に近く、サクサクとした心地よい歯触りで果汁も多い。糖度も極めて高く、中心部の酸味も少ない。貯蔵性にすぐれ、収穫期から常温で1か月、冷蔵で3か月、氷蔵で6か月間の貯蔵が可能[20]。
- 南水の収穫は9月下旬から10月上旬。栽培が難しい品種のため、高い技術レベルが必要。
- 長十郎(ちょうじゅうろう)
- 1893年に神奈川県橘樹郡大師河原村出来野(現在の川崎市川崎区日ノ出)で当麻辰次郎(当麻長十郎)が発見した[21]。赤梨系の中生種。かつては和なしを代表する主要品種であったが現在はあまり生産されていない。耐寒性に強いため東北地方の青森県、宮城県、秋田県の一部に産地が残る程度である。本来は十分に甘いが、収量を上げるために糖度を下げていることが多い。肉質は硬く、やや劣る。受粉用の花粉採取のためによく使われている。
- 愛宕(あたご)
- 赤梨系の晩生種。岡山県を中心に大分県、愛知県、鳥取県など西日本で生産が盛ん。1 - 1.5キログラムと非常に大きく、日持ちが良い。
- 晩三吉(おくさんきち)
- 10月下旬から11月上旬に収穫される晩生種で、貯蔵性に優れ翌年3月頃まで出回る。平均700gほどの大玉の品種で、やや酸味が強く、さっぱりした甘味がある。全国各地で生産される。「ばんさんきち」とも呼ばれるが、「おくさんきち」が正しい呼び方。
- 多摩(たま)
- 祇園と豊水を掛け合わせて作られた、赤梨系の早生種。名前通り、「多摩川梨」の代表的な品種として神奈川県で生産が盛んであり、生産量の8割以上を神奈川県産で占める。
- 新水(しんすい)
- 君塚早生に菊水を掛け合わせた、赤梨系の早生種。農林4号。8月上旬から収穫されるが、病虫害への脆弱性や生育の悪さなどから生産量は少なく、石川県や兵庫県で少量生産される。
- あきづき
- 162-29(新高と豊水の交配種)に幸水を掛け合わせ、2001年に品種登録された赤梨系の中生種[3]。農林19号。500グラム以上の大型の品種で、果肉が秘密で非常に甘い[3]。千葉県、福島県、茨城県、熊本県などで生産されている。
- 雲井(くもい)
- 1939年に石井早生と八雲の交配により作出され、1955年に「なし農林1号」として登録された。花粉はほとんどない。果皮は中間色(緑色の地に薄く茶色がかったような色)。東京周辺では8月中旬に熟し、果実は300グラム程度と平均的な大きさである。肉質はよいものの糖度が低く、幸水と競合することなどから現在ではほとんど栽培されていない。
- 彩玉(さいぎょく)
- 埼玉県農林総合研究センター園芸研究所(現:埼玉県農業技術研究センター久喜試験場)で開発された。1984年に新高と豊水を交配して選抜を重ねて育成し、2005年2月に農林水産省に品種登録された。
- 果実が550グラム以上と大きく、糖度13度から14度の甘い品種で、品種保護のため埼玉県でしか栽培が許可されていないため、市場に流通する量は少ない[22]。
- 稲城(いなぎ)
- 早生ではあるが大玉で果汁が多く、さわやかな甘みがある品種。東京都稲城市のナシ生産農家が努力を重ねて育成した品種で、稲城市、日野市、府中市、国立市など多摩地域で栽培されている。地元の直売で非常に人気が高く、市場には出回っていない。
- 新甘泉(しんかんせん)
- 「筑水」に「おさ二十世紀」を交配して育成されたもので、2008年に品種登録された。やや早生種で、育成地の鳥取県北栄町では8月下旬に成熟する。甘味はかなり高く、酸味は中程度で果汁が多い[23]。
- にっこり
- 栃木県農業試験場が、1984年に「新高」に「豊水」を交配して育成し1996年8月に品種登録した晩生種である[24]。名称の由来は国際的観光地の日光と梨の音読み「リ」から。
- 約800 gと果実は大きく[3]、重さが1.3 kgくらいになるものもある[25]。果肉は柔らかく、糖度が高く、酸味が少なく、果汁が多い[25]。収穫時期は10月中旬から11月中旬まで[25]。貯蔵性が良く、涼しいところで約2か月間保存可能[25]。中華圏では大きく濃い黄色をした特徴が風水信仰に合致し、縁起物の贈答品として珍重されている。香港での販売名は「スマイリングピア」(微笑み梨)である[26]。2010年より栃木県以外でも栽培できるようになった。[27]
- きらり
- 栃木県農業試験場が、1994年に「おさ二十世紀」に「にっこり」を交配して育成し2007年2月に品種登録した晩生種。栃木県内のみで生産されている。県内で主に育成されている幸水(7月末から8月上旬)、豊水(8月中旬から9月下旬)、にっこり(11月)の生産連続性を高めるため、同時期に収穫されるが食味に劣る新高に変わる品種として開発された。
- 果実はやや大きく、重さが1.0kgくらいになるものもある。果肉は柔らかく、糖度がにっこりより若干弱くさわやかな甘みで、酸味が少なく、果汁が多い。収穫時期は9月下旬から10月下旬。貯蔵性は10日程度と通常の品種に準ずる[28]。
その他の品種(青梨系)
- ゴールド二十世紀
- 二十世紀にガンマ線を照射して作られた改良品種で、黒斑病に強い。青梨系の中生種。1991年に作られ、「金のように価値がある」という意味で命名。
- おさ二十世紀
- 突然変異によって自家受粉が可能となった二十世紀。青梨系の中生種。鳥取県泊村の梨園で発見され、園主の名前から命名。
- おさゴールド
- おさ二十世紀の「自家受粉ができる」、ゴールド二十世紀の「黒斑病に強い」という2つの長所を持ち合わせた品種。青梨系の中生種。農林水産省と鳥取県の共同研究によりおさ二十世紀にガンマ線を照射して開発された。
- 菊水(きくすい)
- 二十世紀に太白を掛け合わせた青梨系の中生種。かつては代表的な青梨系の品種であったが、現在は少なくなった。三水(幸水、新水、豊水)などの優良品種を数多く生み出した。やや酸味はあるが糖度は高い。
- 秋麗(しゅうれい)
- 1982年に農林水産省果樹試験場(現:農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所)において、赤梨の幸水に赤梨の筑水の花粉を交雑して育成した、実生から選抜した中生の青梨品種である。2000年10月25日付けで農研機構から『秋麗』と命名され『なし農林21号』として、農林水産省に登録・公表された[29]。
- 皮は洋なしに似て、褐色と黄緑のまだら模様があり、見た目は悪く栽培に手間がかかるため、公表された時は栽培農家が増えなかったが、香りが良く、糖度は13度前後と強い甘味があり[3]、酸味はほとんど感じない。熊本県が主な生産地である[30]。
- なつひめ
注釈
出典
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