ツルレイシ 医学的知見

ツルレイシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/16 20:39 UTC 版)

医学的知見

マウス等による動物実験では血糖降下作用や制作用、妊娠阻害および流産誘発作用が確認されているが、人体に対する医学的有効性を確認できた作用はない。通常の食品として適切に摂取する場合は安全だと考えられている[44]。しかし薬効を期待して、種子や果汁を意図的に多く摂取した場合、下記のような危険情報が報告されている。

血糖に対する作用

ラットでの動物実験で血糖降下作用が認められているが、ヒト(人)に換算すると9.5kg/bodyという非現実的摂取量であった。人に対する3つの無作為化比較試験のメタ解析では、ニガウリの摂取によりII型糖尿病の改善を認めなかった。カナダでの健康な男性5名を対象とした単盲検クロスオーバー無作為化プラセボ比較試験でも、血糖低下や食欲抑制などの効果は無かった。ツルレイシの消費量が多いはずの沖縄県での2000年の糖尿病死亡率は県別で男女とも2位であったことも指摘されている[51]。ただし小児においてニガウリ茶の摂取において低血糖性による昏睡痙攣があったという報告もある[52]

制癌作用

マウスに対する動物実験では、ゴーヤの栄養素はを誘発させる細胞の90%以上を死滅させるとする研究報告がある[43]。抗腫瘍作用(白血病乳がん)、ラット結腸突然変異誘発物質の変異原性の抑制が確認されている[53] と報告されている[54]

妊娠阻害および流産誘発作用

国立健康・栄養研究所は、その果実は通常の経口摂取では健康上大きな問題は無いが、流産を誘発する可能性があるため妊娠中の摂取は恐らく危険であり、また授乳中の安全性について確認されていないことから、そのような状況下においては摂取は避ける事を推奨している[44]。種子にはモモルカリン(Momorcharin)が含まれており、動物実験で妊娠阻害作用と堕胎作用が確認されている[44][55][56][57]。受精12日後の妊娠マウスに0.02ミリグラムから0.05ミリグラムのモモルカリンを腹腔内投与したところ、90%の胎児が死亡したとされる[58]。またニガウリ果汁を毎日摂取したマウスは、妊娠率が90%から20%に低下することが知られている[44]

その他の作用

  • ニガウリ摂取により、下痢、胃腸障害、上腹部痛が生じる可能性があるとされている[59]。動物実験では果肉と種子の摂取により肝障害が起こることが判っている[60][61]。また、タイ王国インドではいずれも果実にリューマチ治療、健胃、下剤の薬効があると考えられている[62]
  • 糖尿病薬治療中の人は種子の摂取により、血糖降下剤の作用増強効果の可能性が示唆されている[60][63]
  • ニガウリ種子の摂取による頭痛も知られている。またニガウリ種子によってソラマメ中毒症状が起こることが知られており、グルコース-6-リン酸脱水素酵素 (G6PD) 欠損症の人は種子を摂取すべきではないとされる[44]
  • ニガウリ茶の摂取によって、小児に痙攣や低血糖昏睡が発生した報告がある[44]
  • LD50(半数致死量)は、ニガウリ果実抽出物を投与:マウス腹腔内681 mg/kgである[44]

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