ツルレイシ 原産と栽培地

ツルレイシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/16 20:39 UTC 版)

原産と栽培地

原産地は、インドボルネオなどの熱帯アジアである[24]

日本へは中国を経て渡来した。1603年慶長8年)に長崎で刊行された『日葡辞書』に本種の名が見られる[25]。また、1649年慶安2年)に刊行された林羅山の『多識篇』「巻之三 菜部」に「苦瓜」「豆留礼伊志」「錦茘枝」の名で収録され「救荒」と記されている[26]。しかし、『多識篇』はの『本草綱目』から物名を抜き出して和訓を付したものであり、実際に日本で栽培されていたかは判然としない。沖縄での文献上の記録は1713年の『琉球国由来記』まで下るが、渡来した年代は不明である[27]

日本では南西諸島南九州で多く栽培されている[24]。収穫量は沖縄県がシェアの3割以上を占め、2位以下には鹿児島県、宮崎県熊本県長崎県が続く[28]。なお、1990年までは沖縄本島産のものが、1993年までは八重山産のものがウリ類の大害虫ウリミバエの拡散防止のため、域外への持ち出しが禁止されていたが、不妊虫放飼によるウリミバエの根絶に成功したことにより沖縄県外へ出荷することが可能になり、沖縄県における生産量の拡大につながった[29]

近年[いつ?]では夏バテに効く(体を冷やす)健康野菜ダイエット食品としての認知度が上がり、日本全国で食用栽培されるようになった。

品種

品種は様々あるが、大別すると一般的な長果型と、太さが8センチメートルほどになる短果実型がある[30]。長ニガウリは、20 センチメートルから80センチメートルにもなる品種がある[23]。日本では、南九州で作られているゴーヤーは細長い形で、沖縄で作られているものはずんぐりして果皮が厚く、苦味が少ないと言われている[30]。変わったところでは、白色で苦味が少ない白レイシがある[30]。特徴になっている苦味は品種によって違いがあり、果実表面のイボが大きくて、緑色が薄いものは苦味が少ない傾向にある[14]

中長ゴーヤー
日本で一般的に流通している品種で、果実の長さは25センチメートルほどある[30]
太レイシ(別名:沖縄あばしニガウリ)
沖縄の品種で、果実は太くずんぐりした形で、実は短く長さ15センチメートルほどになる[23]。丸みのあるイボや、果皮が肉厚であることが特徴で、中長ゴーヤーよりも苦味が少ない[30]
白レイシ(別名:白ゴーヤ)
果実全体が白いゴーヤーで、長さ20センチメートル、太さは5センチメートルから7センチメートルになり、イボは丸みを帯びている[23]。苦味が少ない品種と、苦い品種がある[23]。苦味が少ない品種は、生食することもできる[30]
なめらかゴーヤ
イボが小さめでなめらかなのが特徴で、長さは30センチメートルほどになる苦味が少ない品種[23]

栽培

つる性植物のため、棒や網などを立て掛けてつるを這わせられるようにして栽培される[31]。栽培には十分な日照が必要で、生育適温は20 - 30度、発芽には20度以上が必要とされる[32]。夏場の日照が強くて気温が高く、雨も豊富な時期であれば種を蒔いて露地栽培することができるが、寒冷地ではハウス栽培も可能である[31]。日本では、種まき(育苗)は3 - 4月、植え付けは4 - 5月、収穫は実が黄色くなる前の7 - 9月ごろが栽培の時期である[33]。はじめのうちは、生育は散漫であるが、夏に入ると旺盛に生育し秋まで収穫が続く[3]。酸性土壌を嫌い多肥を好む性質をもっており、特に夏場は水やりと追肥を十分に管理すると果実が充実する[31][32]。他のウリ科作物同様、連作障害を生じることから、2 - 3年ほどウリ科野菜を作っていない土地を選ぶ必要がある[31][34]。家庭などでは、大型サイズのプランター(コンテナ)を使った栽培も行われている[32]。種からも育てられるが、市販の接ぎ木苗を選ぶと連作障害も少なくなる傾向がある[31]

完熟した実(左)と食べ頃の実

種まきに使う種は一晩水につけて十分吸水させ、育苗ポットに撒いて暖かい場所で育苗される[32]。種皮がかたいので、傷をつけてから一昼夜浸水して吸水させてから蒔くと、発芽が良くなる[3]。苗は本葉3 - 4枚のころが植え付けの適期で[32]、植え付けは株間50 cm以上空けて水をたくさん与える[31]。親づるを摘心して子づるを増やすことが重要で、本葉が8枚程度開いたときに本葉5 - 6枚残して枝先(親つる)を切り取り、脇芽(子つる)を4本前後伸ばすようにする[31]。細い巻きひげを延ばして上に伸びていくので、株に支柱やネットを張って下から伸びてきた子づるを誘引するようにすれば、自然に這わせることができる[31][32]。つるをフェンスに絡ませたり、窓外に高く誘引したりして、グリーンカーテンにしてもよい[35]

植え付けから約1か月後で開花が始まる[32]。花が開き始めたら1か月に1 - 2回程度追肥を行って土寄せをするとよいが、肥料不足になると葉が黄色に変色してくる[36]受粉は基本的に昆虫が行うが[36]、朝に咲いた雄花を摘んで雌花につける人工受粉を行うと着果率が高くなる[32]。実が充実してくるころの水やりの管理が重要で、水切れが起こると細くて下ぶくれの実になる[36]。緑色の若い未熟果を食べるため、雌花開花後15 - 20日が収穫の適期となる[36]。次々に実をつけていくので、大きくなりすぎないうちに実の上のつるをハサミで切り取って収穫される[36]。収穫されないでおくと果実は次第に黄色くなって完熟し、そのまま放置すると裂開して、中から赤いゼリー状の仮種皮に包まれた種子が出てくる[36][32]。種子は、洗って乾燥させ冷暗所に保存すれば、翌年の種まきに使える[32]。ただし、市販の種苗はF1品種が多いため、自家採種した種から結実するとは限らない。

病害の発生は少なく、楽に栽培できる[3]

グリーンカーテン

食用栽培のほか、つる性を生かして南・西向きの窓辺やベランダなどの真夏の強い日差しをさえぎるために、グリーンカーテンとしての利用も行われている[32][37]。日除け代わりに、ベランダや窓辺に大きめの鉢とつるを這わせる大きめのネット張って栽培すれば、ゴーヤー(ツルレイシ)の小ぶりの葉の見た目の柔らかさ、葉の蒸散作用によって体感温度が下がって涼感が得られる[38]。きれいなグリーンカーテンを仕立てるためには、本葉3 - 4枚のころに親づるを摘心して、伸びた子づるをネットに均等に配置するように誘引しておけば、後は上に向かって伸びていく[38]


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