キュウリ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/13 07:35 UTC 版)
歴史
起源
キュウリは古くから食用の野菜として栽培されている。果実成分の95%程度が水分とされ、歯応えのある食感とすっきりとした味わいがある。水分を多く含むことから暑い季節・地域では水分補給用として重用されてきた。
インド西北部のヒマラヤ山脈の南の山麓地帯が原産で[9]、紀元前10世紀ごろには西アジアに定着したとみられている[6]。紀元前4000年前にメソポタミアで盛んに栽培されており、インド、古代ギリシア、古代エジプトなどでも栽培された。その後、6世紀に中国、9世紀にフランス、14世紀にイングランド、16世紀にドイツと伝播していき、16世紀ごろのヨーロッパで栽培が盛んになった[6]。アメリカ大陸には15世紀末、クリストファー・コロンブスがハイチに持ち込んだのを端緒に普及していった。キュウリを好物とした歴史上の有名人としてローマ皇帝ティベリウスがいる。
原産地から東方への伝播は2ルートあり[9]、かつて中国では、東南アジアからビルマ経由で華南に伝来した水分の少ない南伝種が普及し、シルクロード経由で華北に伝わった瑞々しい北伝種が伝来するまでの間、この南伝種を完熟させてから食べるのが一般的であった。のちに南伝種は漬物や酢の物に、北伝種は生食に使い分けられることになる[13]。
日本での普及
日本には6世紀に南伝種が中国から伝わり、明治期に北伝種が入ってきたといわれるが[9]、本格的に栽培が盛んになったのは昭和初期からである[12]。仏教文化とともに遣唐使によってもたらされたとみられているが、当初は薬用に使われたと考えられていて[6]、空海が元祖といわれる「きゅうり加持」(きゅうり封じ)にも使われてきた。南伝種の伝来後、日本でも江戸時代までは主に完熟させてから食べていたため、「黄瓜」と呼ばれるようになった[14]。完熟した後のキュウリは苦味が強くなり、徳川光圀は「毒多くして能無し。植えるべからず。食べるべからず」、貝原益軒は「これ瓜類の下品なり。味良からず、かつ小毒あり」と、はっきり不味いと書いているように、江戸時代末期まで人気がある野菜ではなかった[14]。これには、戦国期の医学者曲直瀬道三の『宣禁本草』などに書かれたキュウリの有毒性に関する記述の影響があると見られている。安土桃山時代以前にはキュウリに禁忌は存在せず、平安後期の往来物『新猿楽記』に登場する美食趣味の婦人「七の御許」が列挙した好物の一つに「胡瓜黄」が入っている。イエズス会宣教師のルイス・フロイスは著書『日欧文化比較』(1585)で「日本人はすべての果物は未熟のまま食べ、胡瓜だけはすっかり黄色になった、熟したものを食べる」と分析している[15]。
重要野菜として定着したのは江戸時代末期で、キュウリの産地だった砂村(現在の江東区)で、キュウリの品種改良が行われ、成長が速く、歯応えや味が良いキュウリが出来て、一気に人気となった[16]。明治末期には、栽培面積でナスの3分の1強ほどあった[6]。昭和初期には栽培面積が急増し[14]、第二次世界大戦(太平洋戦争)後は温室栽培でさらに盛んになり、特に漬物に加えてサラダの需要が増えてから、生食用野菜として重要視されてからはトマトと果菜類の収穫量の首位を競うほどになっている[6][17]。終戦前までは関東では「落合」、関西では「馬込反白」系が主流であったが、1965年(昭和40年)ごろになると日本各地でキュウリの産地が増えるとともに品種の特徴が競われるようになり、従来の黒イボ系に対し、肉質が締まった白イボ系品種の人気が高まるようになった[17]。1983年(昭和58年)に表面に白い粉を吹かないブルームレスキュウリの台木が育成され、全国的に普及した[17]。2001年(平成13年)には新タイプのキュウリとして、イボなしの「フリーダム」が発売された[17]。
注釈
出典
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- ^ https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl[出典無効]
- ^ 大澤俊彦、「がん予防と食品」『日本食生活学会誌』 2009年 20巻 1号 p.11-16, doi:10.2740/jisdh.20.11
- ^ 野崎洋光・工藤孝文『きゅうり食べるだけダイエット』(KADOKAWA)など。
- ^ a b c d e f 田中孝治 1995, p. 175.
- ^ 田中孝治 1995, p. 195.
- ^ a b キュウリを育てては絶対ダメな町 風習受け継ぐ福井市網戸瀬町福井新聞、2015年9月9日
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