カルダン駆動方式 歴史

カルダン駆動方式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/25 10:00 UTC 版)

歴史

1887年以降、電車の駆動方式は吊り掛け駆動が一般的であった。この方式は、当時においては実用上優れた方式であったが、主電動機がばね下重量となるため主電動機に車輪からの激しい衝撃が加わることや、ギヤの歯面形状や遊間に起因する大きな駆動音など、いくつかの根元的問題を抱えていた。

この問題を解決するには、ばね上の台車側に主電動機を固定し、何らかの方法で車軸に動力を伝達する方式への転換が必要である。吊り掛け駆動が登場する以前には、チェーンによる伝達も試みられていたが、これは信頼性の面からみれば問題外で、自動車産業の発展により自在継手による動力伝達が可能になったことで実用化を見た。

最初に登場したのは、ベベルギヤと自在継ぎ手を組み合わせた直角カルダン駆動で、2軸単車路面電車用として1910年代にはドイツで使用され、1920年代パリの路面電車では主流となっていた。軸距が短いボギー台車用の開発は1920年代にアメリカ合衆国で行われ、ウォームギヤと自在継ぎ手との組み合わせに改良されたものが、路面電車車両での試用が行われた後、1930年代中期に本格的な製造がはじめられたPCCカーの駆動方式に採用された。

アメリカでのばね上装架電動機用駆動装置の開発においては、並行してWNドライブの開発も進められた。直角カルダン駆動と同じく、路面電車で試用された後、1941年にシカゴ北海岸線のエレクトロ・ライナー型高速急行電車に採用され、第二次世界大戦後、ニューヨーク市地下鉄などでの本格的な採用が行われるようになった。

また同時期にスイスブラウン・ボベリ(BBC)社がBBCディスクドライブとして撓み板による継手を用いた駆動装置を開発している。

ヨーロッパではイタリアETR200型特急電車に採用されたのが長距離高速電車に採用された最初の例である。

日本における採用例

1951年頃から、主要私鉄および重電メーカー・車両メーカーの協力によって、既存車両の駆動装置を改造する形で研究が進められた。

1952年には国鉄電気式気動車キハ44000形で初めて直角カルダン駆動方式の45kWモーターが試験的に採用された。44000形の系統に属する電気式気動車は1953年までに30両が製造されており、一般の電車に先駆けての大量導入であったが、1958年頃までに液体式変速機への改造で廃されており、定着には至っていない。

私鉄電車では1953年3月竣工の東武鉄道5700系5720番台車(直角カルダン搭載)と同年7月竣工の京阪電気鉄道1800型中空軸平行カルダンおよびWNドライブ搭載)が新製車としての初期の例であるが、いずれも半ば先行試作的なものであった。ただし、様々な不調に苦しんだ東武5700系5720番台とは異なり、京阪1800型は完成後直ちに営業運転に充当されており、日本の電車としては最初の実用化成功例となっている。

大量に製造された最初の例は、アメリカのWH社などから最新技術を導入して1953年から製造された営団地下鉄(現・東京地下鉄)300形(WNドライブ搭載)である。

路面電車では同じく1953年東京都交通局5500形電車(WNドライブおよび直角カルダン搭載)が最初となった。また5500形と同年に大阪市交通局3000形も直角カルダン駆動車として落成した。

日本におけるカルダン駆動の元年となった1953年に同方式を本格採用した鉄道車両は、上記の5社5形式のみであったが、翌1954年以降に大手私鉄を中心に急速に一般化、一般電車への採用が遅れていた国鉄も1957年モハ90系電車(のちの101系)でカルダン駆動方式に移行している。1960年代以降は、日本国内向けに新製されるほとんどの電車がカルダン駆動方式を用いるようになり、21世紀初頭の現在では吊り掛け駆動方式をほぼ駆逐している。移行の詳しい経緯は吊り掛け駆動方式の項目を参照。

近年の傾向として、VVVFインバータ制御誘導電動機の組み合わせの普及の結果主電動機の小型化並びに高出力化・高回転化が推進されたことから、中実軸の電動機を用いるWN式、TD継手式のいずれか(事業者によっては両者を併用)が主流となりつつある。

なお、電気機関車においては日本ではカルダン駆動は欠点が多いとされ、普及していない。


注釈

  1. ^ それでさえ仕上げとなる焼き入れ処理後の表面研磨は、航空機用部品の研磨技術を保有する川崎航空機に委託されていた。
  2. ^ WN継手とギアユニットとで合わせて車軸方向に40cm程度の長さを要するため、単純に設計すると車輪間のバックゲージが990mm程度の1,067mm軌間用では、主電動機の軸方向の長さは600mm程度しか確保できない。中空軸平行カルダン用電動機ではこの部分で700mm程度の長さを確保できるため、同一径・同一回転数で電動機を設計する場合、WN駆動用では必然的に出力が中空軸平行カルダン用より15パーセント程度低下する。この対策としてはWN継手そのものの小型化が追求されたが、様々な事情からそれにも限界があるため、電動機形状の工夫で補われてきた。
  3. ^ 電車の場合は主電動機の端子極性を逆転させれば容易に回転方向を逆転できるため、1方向向きに歯車の位置を固定した状態で使用された。

出典

  1. ^ M記者 「お手並み拝見 意表を突いた超軽量車 東急5000形シリーズ」『鉄道ピクトリアル アーカイブスセレクション15 東京急行電鉄 1950~60』、電気車研究会、2008年6月、pp.110 - 113





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