空想
★1a.自分が住みたい家について、あれこれ空想するが、実現できない。
『発心集』巻5-13 年老い貧しい男が、壊れた古堂に住んでいた。彼は紙反故をもらい集めて、いくつも家の設計図を描き、「寝殿はしかじか、門の形はこれこれ」などと空想して、毎日を過ごしていた。人々は、馬鹿げたことの例として、このことを言っていた。
『ものくさ太郎』(御伽草子) ものくさ太郎の邸宅は人並みすぐれて見事なもので、四面四町に築地を築き、東西南北に池を掘り、屋敷の天井に錦を張り、梁や垂木に金銀を金具代わりに打ちなどして立派に造りたい、と心には思うのだが、実際には、竹を4本立て、それに薦をかけて住んでいた。
『素晴らしき日曜日』(黒澤明) 戦後間もない頃。若いカップル雄造と昌子が焼け跡の空き地で、将来開きたいと思う店のありさまを想像する。扉はガラスで「大衆の珈琲店」と書き、「ここがカウンター」「ここがテーブル」と、2人は歩き回りながら決めてゆく。昌子が客となり、想像の扉を開け想像の椅子にすわって、コーヒーとお菓子を注文する。通行人が大勢立ち止まり、雄造と晶子のふるまいを見る〔*その後2人は野外音楽堂へ行き、空想のコンサートを開く〕→〔映画〕3。
『ロリータ』(ナボコフ)第1部20 ハンバートは少女ロリータを手に入れるために、彼女の母親シャーロットと結婚する。ハンバートは、湖で泳ぐシャーロットを事故に見せかけて溺死させようか、と考え、その有様を想像するが、結局実行せずに岸に上がる。ところが友人ジーンが風景画を描くべく湖をずっと見ており、あやうくハンバートは殺人現場を目撃されるところであった。
★2b.犯罪の空想があまりに真実に近づいた結果、ほんとうに実行してしまう。
『或る罪の動機』(谷崎潤一郎) 博士家の書生中村は、生まれつき世の中を虚無だと感じており、何事にも価値を認めなかった。神や善や道徳を信じて疑わぬ博士一家の幸福そうな生活に、彼は反感を抱く。中村は、博士殺害を空想して楽しむ。しかし綿密な殺人計画を空想して、その光景を見、その心理を経験するうち、空想にとどめておけなくなり、実際に博士を殺してしまう。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版第22巻42ページ 夜、覆面をして包丁を持った男が、磯野家の門前にたたずむ。男は「ここに押し込み強盗に入ったとする」「ああなる」「こうなる」・・・といろいろ考え、「とどのつまり結局つかまる」と結論する。男は強盗に入るのをやめ、交番へ行く。交番の警官は、「押し入らないうちに自首して来たのか」と驚く。
『ドン・キホーテ』(セルバンテス)前編第8章・第16~18章 ドン・キホーテは遍歴の騎士を夢想して、サンチョ・パンサを供に旅をする。彼は風車を見て、巨人の群だと思い突撃する。宿屋に泊まっても、「親切な城主の歓待を受けた」と考えて、宿賃を払わない。羊の大群2つに出会うと、騎士たちの戦争と見なし、一方に助勢しようと羊の群につっこむ。
『二階ぞめき』(落語) 大店の若旦那が「毎晩吉原をひやかして歩かないと、寝つきが悪い」というので、父親が大工に命じ、店の2階に吉原そっくりの景色を作ってやる。若旦那は喜んで2階へ上がり、吉原の気分に浸りきって、あれこれ空想して独り言を言う。小僧が2階へ見に行くと、若旦那は「ここで会ったことは親父には内緒に」と口止めする。
『湯屋番』(落語) 道楽者の若旦那が銭湯の番台に上がるが、目当ての女湯がガラ開きなので、空想を始める。「客の年増女に見そめられ、家へ招かれたところで雷が落ち・・・・」と考えるうち熱中し、想像上の女の声色をつかい、身振り手振りを交えて1人芝居をする。男客たちが面白がって番台を見る。
『寓話』(ラ・フォンテーヌ)巻7-9 乳しぼりの女が牛乳壺を頭に載せて、町へ出かける。「牛乳を売った金を元手に、やがては牝牛を飼い、子牛が羊たちにまじって飛び跳ねることだろう」と空想して、想像上の子牛と一緒に女も飛び跳ね、牛乳壺は地に落ちる。
『千一夜物語』「床屋の第五の兄エル・アスシャールの物語」マルドリュス版第31~32夜 ガラス細工売りが、大儲けをして美女を娶ることを夢想する。しかし、「彼女が身の程をわきまえず、なれなれしい態度をとったら蹴ってやろう」と思い、ガラス細工を蹴飛ばして粉々にする。
『パンチャタントラ』第5巻第9話 バラモンが、托鉢で得た粉の入った壺を見ながら空想にふける。「飢饉があったら粉を売り、それを元手に大金を儲け、妻をめとり、息子が生まれるだろう。しかし妻が私の言うことを聞かなければ、私は妻を蹴るだろう」と考えつつ、思わず壺を蹴り、壺を壊して粉まみれになる。
『お目出たき人』(武者小路実篤) 26歳の「自分」は、まだ女を知らない。「自分」は、近所に住んでいた女学生・鶴を、一方的に恋する。「自分」は鶴と言葉を交わしたことすらないが、鶴とのはじめての接吻や、結婚後の理想の生活について、あれこれと空想する。しかし鶴は、金持ちの工学士のもとへ嫁いでしまった。鶴は本当は「自分」を愛していたのだが、家族の意のままに、気の進まぬ結婚をしたのだ、と「自分」は考える。
『断崖』(ヒッチコック) リナは、夫が詐欺の常習犯で、借金をかかえる身であることを知り、不信感を持つ。さらに夫は、生命保険や毒物について調べているので、リナは「私は殺される」と思い込み、夫が持って来てくれたミルクも、飲むことができない。実際は夫に殺人の意志などなく、彼は一時自殺を考えたことがあっただけだった。それを知ったリナは、夫を助け、結婚生活をやり直そうと思う。
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