性交せず
性交せず
『女の平和』(アリストパネス) アテナイとスパルタの抗争が続き、男たちが家を留守にして戦争に明け暮れるので、妻たちは団結し、戦争が終わるまで夫との性交渉を拒否する。男たちは禁欲生活に耐えられず、アテナイとスパルタは和睦する。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第4章 アステリアーは、ティターン族のコイオスの娘だった。彼女はゼウスと交わることを厭(いと)い、鶉に変身して海へ身を投げた。
『日本書紀』巻7〔第12代〕景行天皇4年(A.D.74)2月 景行天皇は美濃国に行幸し、八坂入彦の女・弟媛が美人だと聞いて、妃にしようと召した。弟媛は、「私は交接の道を好まない性質ゆえ、召されても嬉しくない。代わりに姉を後宮に入れ給え」と請い、天皇は聞き入れて姉の八坂入媛を妃とした。
『反撥』(ポランスキー) キャロルは姉と2人でアパートに暮している。姉は恋人をアパートに泊め、情事の折の姉の声が隣室から聞こえて、キャロルは眠れない。彼女は男性全般に嫌悪感を抱く。夜、キャロルは見知らぬ男に犯される夢を見る。キャロルが1人でいる時に、男友達が訪れる。キャロルは彼を燭台で殴り殺し、死体を浴槽に沈める。家主が家賃を取りにやって来て、ネグリジェ姿のキャロルに抱きつく。キャロルは彼を剃刀で切り殺す。
『朝』(太宰治) 小説家の「私」は、銀行勤めの若い女性キクちゃんの部屋を、昼間だけ仕事場として借りる。ある夜、私は大酔してキクちゃんの部屋に泊まり、停電ゆえ、蝋燭をつけてもらう。「蝋燭が燃え尽きたらキクちゃんの身が危ない」と、「私」は覚悟しかけ、やがて蝋燭が消えるが、その時すでに夜明けだった。
『源氏物語』「総角」 宇治の大君に求愛し続ける薫は、ある夜彼女の部屋に忍び入るが、大君は身を隠し、あとに妹・中の君が残される。大君は妹を薫に与え、自らは妹の後見をしようと考えていた。薫は中の君に魅力を感じながらも、大君思慕の純粋さを示すため、中の君に触れぬまま朝を迎える〔*この時より50年余り前、「空蝉」の巻にも、類似の状況が描かれる。光源氏は空蝉に逃げられ、あとに軒端の荻が残される。しかし源氏は薫と異なり、人違いと知りつつも軒端の荻と関係を持つ〕→〔人違い〕7。
『行人』(夏目漱石)「兄」37~38 暴風雨のため、「自分(長野二郎)」は嫂(あによめ)の直(なお)と、和歌山の旅館の一室で一夜を過ごす(*→〔妻〕6a)。直が「これから和歌の浦へ行って、一所に飛びこんでお目にかけましょうか」と言うので、「自分」は「あなた今夜は昂奮している」となだめる。直は「たいていの男は意気地なしね。いざとなると」と床の中で答え、やがて「早くお休みなさいよ」と言う〔*→〔蚊帳〕1の『三四郎』も類似の状況〕。
『武家義理物語』(井原西鶴)巻6-2「表むきは夫婦の中垣」 老武士が、身寄りを失った主家の姫君と一つ屋根の下に同居し、世話をする。雷雨の夜、姫君がおびえて老武士にしがみつき、老武士も心乱れるが、身を慎む。世人はこの2人を夫婦と見なすが、そのようなことはなく、後に姫君は、身分高い人から寵愛される身の上となった。
★4.男が性交に及ぼうとするのではないか、と女が警戒するが、男は空腹で、食べ物が欲しいだけだった。
『寒い朝』(石坂洋次郎) 三輪重夫と岩淵とみ子は、大学受験を間近にひかえた高校3年生で、仲の良い友達どうしである。とみ子が「2~3日家出する」と言い、重夫も家出につきあう。2人は旅館の一室で机に向かって受験勉強をし、部屋の両端に別れて眠る。夜中に重夫が蒲団から這い出して来るので、とみ子はハンガーで撃退しようと身構える。重夫は、机の上に残っていた夜食の握り飯を取り、自分の寝床へ戻って行った。
『静かなる決闘』(黒澤明) 軍医の藤崎は、手術の際に指先を傷つけたため、患者の梅毒菌に感染する。戦争中で十分な治療ができず、終戦後、内地に戻って来た頃には、根治までに相当の長年月を要する状態になっていた。藤崎は恋人美佐緒との婚約を、理由を言わずに破棄する。理由を告げれば、彼女は「5年でも10年でも待ちます」と言って、青春を犠牲にするに決まっているからである。美佐緒は藤崎を恨みつつ、他の男に嫁ぐ。
『満願』(太宰治) 小学校の先生が肺を悪くしたが、この頃ずんずん回復してきた。しかし医者は当分の間、妻との性交を禁ずる。夫の薬を取りに来る若妻に、医者は心を鬼にして「奥様、もう少しのご辛抱ですよ」と、繰り返し叱咤する。3年過ぎた夏の朝、とうとう医者から、お許しが出た。若妻は嬉しそうな表情で、足早に帰って行った。
★7.性関係のない夫婦。
『心の旅路』(ルロイ) 大実業家チャールズは記憶喪失のため、現在の秘書マーガレットが、かつての妻ポーラであることに気づかない(*→〔同一人物〕3)。彼は議員に選出され、政治家の活動には妻が必要だ、との理由でマーガレットと結婚する。しかし性関係は持たない(*人々が「素敵なご夫婦だけど、お子様がいないのよ」とささやき合う場面が、夫婦に性関係のないことを暗示する)。後チャールズは、ポーラと暮らした家を訪れて記憶を回復し、マーガレット(=ポーラ)を抱きしめる〔*その夜から2人は本当の夫婦になったのであろう〕。
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