寸断
★1a.殺した怪物の蘇生・復活を防ぐため、死体を寸断して、諸方に分葬する。
鬼八(きはち)と御毛沼命の伝説 高千穂地方の異族の首領に走建(はしりたける)という者がおり、後世、鬼八(きはち)と呼ばれた。神武天皇の兄・御毛沼命(みけぬのみこと)が征伐したが、寸断した鬼八の死体は一夜のうちに接合し、もとどおりになった。そこで、あらためて死体の断片を日向・肥後の各地に分葬した(宮崎県西臼杵郡高千穂町)。
★1b.以下の例も、復活を防ぐために死体を寸断した可能性がある。
『イシスとオシリスの伝説について』(プルタルコス)8・18 テュポン(=セト)は、兄オシリスを木の棺に入れてナイル河に投げ込み、殺した。オシリスの妻イシスが嘆き悲しんで、棺を息子ホルスのもとへ運んだ。満月の夜、テュポンが1頭の豚を追っていたところ、棺を見つけた。中にオシリスの遺体があったので、テュポンはこれを八つ裂きにした(8)。あるいは、月光の下で狩りをしていたテュポンが、オシリスの遺体を見つけ、14に切断してばらまいた(18)→〔性器(男)〕3。
*一方に、「オシリスの遺体の切断という物語は、種を撒き散らすことの神話的表現かもしれない」(『金枝篇』(初版)第3章第9節)との見解もある。ハイヌウェレ神話と同様のもの、という解釈である→〔寸断〕3・4。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第7章 ペロプスは、アルカディア王ステュムパロスと戦った時、友情を装って彼を殺し、その身体を八つ裂きにしてまき散らした。そのためギリシアは不作におそわれた。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第13章 ペレウスはイオルコスを破壊した折に、アカストスの妻アステュダメイアを殺しその四肢を八つ裂きにして、彼女の身体を通って軍を市中に導いた。
『古事記』上巻 スサノヲはヤマタノヲロチを酒で眠らせ、十拳剣(とつかのつるぎ)をふるって、ずたずたに斬った(原文は「切散(きりはふる)」)〔*『日本書紀』巻1・第8段本文は「寸斬(つだつだにきる)」。一書では「寸」の字は使われない〕。
『俵藤太物語』(御伽草子) 俵藤太は強弓で大百足を射殺(いころ)した。そして、「なおも仇をなすことがあるかもしれぬ」と用心し、大百足の死骸をずたずたに斬り捨てて、琵琶湖の水に流した。
『日本書紀』巻21崇峻天皇即位前紀 捕鳥部万(ととりべのよろづ。=物部守屋の従者)が、朝廷の衛士(いくさびと)と戦って大勢を殺した後に、小刀で自らの頸を刺して死んだ。朝廷は、「万(よろづ)の死体を8段に斬り、8つの国に分けて、串刺しにせよ」と命じた。
*→〔島〕7の為朝の蛇退治の伝説・〔出産〕2の『遠野物語』(柳田国男)55・〔逃走〕1の『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章。
『英雄伝』(プルタルコス)「ロムルス」 ロムルスはローマの王となってから38年目、54歳の時に、突然どこへともなく姿を消した。「神々の所へさらわれたのだ」と人々は考えた。しかし次のように推測する人もいた。すなわち、元老院議員たちが反乱を起こして神殿でロムルスを殺し、死体を刻んでその各片を皆が衣服のひだに隠して運び出したのではないか、というのである。
★2.返り血のついた衣服の処理法としての寸断。細かく切り刻んで捨てる。
『砂の器』(松本清張) 和賀英良が三木謙一を殺した時、返り血がスポーツシャツに着いた。和賀の愛人リエ子がそのシャツを細かく切り刻み、中央線の汽車の窓から、まき捨てた。乗客の1人がリエ子の振舞いに興趣を感じ、「紙吹雪の女」という随筆が雑誌に載った。それを読んだ今西刑事は、「紙ではなく布切れかもしれない」と思った。
ハイヌウェレの神話 アメタが、夢告によって、椰子の木から生まれ出た少女ハイヌウェレを育てる。成長したハイヌウェレは、祭りの夜に村人たちに殺され、アメタは死体を多くの断片に切り刻んで、土に埋める。埋められた死体の各部分からはいろいろな種類のヤム芋が生じ、ウェマーレ族の主食になった(インドネシア・セラム島のウェマーレ族の神話)。
*→〔漢字〕1の『南総里見八犬伝』第2輯巻之2第14回、伏姫が自害した時に8つの玉が八方に飛び去り、八犬士が生まれ出た、というのも、このタイプの物語と見ることができる。
死体に生えた稲とトウモロコシの神話 神が最初の人間を竹から発芽させた。男女1対で、子供が1人できた。その頃、食物は木の実だけで、彼らは飢えていた。神は「2種類の良い食物を与えよう。子供を殺し、死体を切り刻んで畑に播け」と、男に夢告した。男が言われたとおりにすると、畑から稲とトウモロコシが生じた(フローレス島、マンガライ族)。
『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第7章「最初に女がいなかった場合」 男たちが、1人の女を自分のものにしようと争い(*→〔水鏡〕2b)、女を殺して細かく切り刻んだ。男たちはそれぞれ肉片を選んで葉に包み、家に持ち帰って、草で編んだ壁に肉片を押し入れた。それから皆、狩りに出かけ、家に戻ってみると、肉片はすべて女になっており、どの男も妻を持つことができた(ブラジル、シェレンテ族)。
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