古代、ビザンティン、初期中世の彫刻
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「国立中世美術館」の記事における「古代、ビザンティン、初期中世の彫刻」の解説
中世美術館だが中世だけでなく古代彫刻、特にルテティアの歴史の一端を知ることができる彫刻なども展示している。フリギダリウムに展示されている『船乗りの柱』はパリ最古の彫刻である。「船乗り (naute)」とはガロ=ロマン時代にセーヌ川で船を使った運送に携わっていた人々であり、『船乗りの柱』は、西暦1世紀、ローマ帝国の第2代皇帝ティベリウスの治下(西暦14-37年)にルテティアの船乗りがユピテル(ローマ神話の主神)に献納したものだが、ユピテルやウルカヌス(火と鍛冶の神)などのローマ神話の神以外に、ケルヌンノス(狩猟の神・冥府神)、エスス(戦いの神)などのケルト神話の神も彫られており、シンクレティズム(混合主義)を示す例として重要である。この柱は18世紀にノートルダム大聖堂の聖歌隊席の下から発掘された。また、シテ島からも2世紀のパリ司教『聖ランデリクスの柱』の断片が1829年の修復工事の際に発見されたが、こちらはローマ神話の神のみが彫られている。 19世紀にパリで発見された像は長らくローマ皇帝ユリアヌス (361-363) の像として『背教者ユリアヌス』と呼ばれていたが、最近の研究からハドリアヌス皇帝 (117-138) の時代のものであることが判明し、無名の司教の像として『セラピス司教』と名づけられた。 サン=ドニ大聖堂の鐘楼で発見された4世紀から5世紀の4つのコリント式柱頭にはこの様式の特徴であるアカンサスの葉が外側に飛び出すように彫られている。 さらに古代末期または初期ビザンティンの象牙浮き彫りのディプティカ(二連祭壇画)として、ローマのニコマコス家およびシンマクス家のものがあり、5世紀前半のニコマコス家のディプティカの一枚には(もう一枚はロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館が所蔵している)、祭壇の火を燃やし続ける若い女性が描かれている。頭上に松があることから大地母神キュベレー信仰を表わすものとされる。モンティエ=アン=デール(オート=マルヌ県)の修道院の聖遺物箱の上に飾られていた。 アレオビンドゥス(フランス語版)が506年にコンスタンティノポリスの執政官に選出された際に作られた象牙浮き彫りの装飾板には、執政官アレオビンドゥスと補佐、下方には猛獣と戦う剣奴(剣闘士奴隷)が描かれ、アレオビンドゥスが闘技開始の合図をしている。 ディオニュソス(ギリシア神話の酒神バッカス)の妻アリアドネをハイレリーフ(高浮き彫り)で表わした象牙の像『アリアドネ、マイナス、サテュロス、愛の神』は、6世紀にコンスタンティノポリスで彫られ、ライン渓谷で水晶のライオンの頭像とともに発見された。頭上で愛の神クピードーが冠を捧げ、両脇にディオニュソス神の女性信奉者マイナスと半人半獣のサテュロスがいる。 『トレビゾンド』(現在のトルコの都市トラブゾン)と名づけられた象牙板(6世紀前半)もディプティカの一枚であり、中央にキリスト、両側に使徒パウロとペテロ、下方の十字架の両側に天使が彫られている。ルーヴル美術館の『バルベリーニの象牙板』と同様に、キリストの図像とビザンティン皇帝像の組み合わせが認められる。フランス銀行のメセナにより2014年に国が取得し、国立中世美術館に収蔵された。 『手箱 ― 神話と戦闘の場面』は、コンスタンティノポリスで紀元千年頃(マケドニア王朝の皇帝がコンスタンティノポリスを支配していた頃)に作られた約40の手箱の一つである。フリーズの装飾にはロゼット(バラ形紋様)と幾何学文様が交互に彫られ、両側の象牙板にはローマ・ギリシア神話の場面(ヘラクレスの英雄譚、ガニュメデスの誘拐、デイアネイラ)やアンフィテアトルム(円形競技場)または戦場の戦いの場面、蓋には戦車や砦が描かれている。 カロリング朝時代の象牙浮き彫り『装丁板 ― 使徒』には、トーガを着て巻物を持った頭光のある人物が彫られている。胸に手を当てて膝を軽く折る姿勢は、使徒がキリストに会ったときに取る姿勢であることから『使徒』と題された。人物像を取り巻くフリーズにはアカンサスの葉が彫られ、かつては宝石が象嵌されていたと思われる。 『神聖ローマ皇帝オットー2世と皇后テオファノに冠を授けるキリスト』(10世紀末)に彫られた皇帝と皇后はビザンツの服飾をまとっている。キリストによる戴冠は、皇帝の権力を神聖なものとするビザンティン世界の伝統的なイメージであった。 船乗りの柱: ローマ神話のウルカヌス (火と鍛冶の神) (1世紀) 船乗りの柱: ケルト神話のエスス (戦いの神) (1世紀) かつて『背教者ユリアヌス』とされていた『セラピス司教』(2世紀) ビザンティン美術: ニコマコス家の象牙浮き彫りのディプティカ (二連祭壇画) (5世紀前半) コンスタンティノポリス執政官アレオビンドゥスの象牙浮き彫りの装飾板 (506年) 『手箱 ― 神話と戦闘の場面』(10世紀末) カロリング朝時代の象牙浮き彫り『装丁板 ― 使徒』(9世紀末) 『神聖ローマ皇帝オットー2世と皇后テオファノに冠を授けるキリスト』(10世紀末)
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