ケトーシスとは? わかりやすく解説

ケトーシス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/03 09:57 UTC 版)

ケトーシス: ketosis)には、生理的ケトーシスと病理的ケトーシスがある。ケトーシス: ketosis)は、ケトン体3-ヒドロキシ酪酸)が増加することである。ケトン体は空腹時や運動時に増加する[1][2]。またケトン体の健康効果を期待してケトン供与体を摂取したりしてケトン体を増加させることもある。これを生理的ケトーシスと呼ぶ[3][4][5]。最近ケトンエステルなどの有力なケトン供与体が開発されているので、ヒトにおける生理的ケトーシスの研究が蓄積されつつある[6][7]。またケトンエステルなどのケトン供与体による生理的ケトーシスにおいては有害な事象が起こらなかったという報告が多数ある[8][9]

獣医領域においては、以下のような病理的ケトーシスが問題となることがある。主に乳牛において乳量が低下する場合が問題となる[10][11]糖質および脂質の代謝障害により、体内のケトン体が異常に増量し、臨床症状を示す状態。ケトン症とも呼ばれる。血中のケトン体が増量した状態をケトン血症、尿中のケトン体が増量した状態をケトン尿症、乳中のケトン体が増量した状態をケトン乳症と呼び区別する。臨床症状を伴わないケトン体の増量はケトーシスとはみなされない。

ケトーシスは単一の原因による発生は少なく、その原因は種々存在する。単胃動物ではケトン体は肝臓でのみ合成される。肝臓でのケトン体の合成亢進は下記の場合で発生する。

  1. 大量の脂肪酸が肝臓に流入すると、脂肪酸のβ-酸化による過剰なアセチルCoAからケトン体が合成される。
  2. オキサロ酢酸の不足などによりTCA回路でのアセチルCoAの処理能が低下するとアセチルCoAはケトン体として蓄積される。
  3. NADPHの低下などによりアセチルCoAからの脂肪酸合成が傷害されるとアセチルCoAはケトン体として蓄積される。

ケトーシスは分娩前後の乳牛に発生が多く、その主な原因として、エネルギー要求量の増加による低血糖が考えられる。 症状としては元気消失、乳量の減少などがみられ、ときに神経症状を示す。症状により消化器型ケトーシス神経型ケトーシス乳熱型ケトーシスに分類される。血中のケトン体、遊離脂肪酸の上昇、グルコーストリグリセリド、総コレステロールリン脂質インスリンの低下が認められる。治療にはビタミンB群、インスリン、キシリトールなどを添加したグルコース液の輸液が行われる。肝機能障害がある場合には、メチオニンパントテン酸などが使用される。

参考書籍

  • 日本獣医内科学アカデミー 編『獣医内科学(大動物編)』文永堂出版、2005年。ISBN 4830032006 
  • 獣医学大辞典編集委員会 編『明解獣医学辞典』チクサン出版、1991年。ISBN 4885006104 
  • 鎌田信一; 押田敏雄; 酒井健夫; 局博一 著、永幡肇 編『獣医衛生学』文英堂出版、2005年。ISBN 9784830031991 

関連項目

参考文献

  1. ^ Puchalska P, Crawford PA. Multi-dimensional Roles of Ketone Bodies in Fuel Metabolism, Signaling, and Therapeutics. Cell Metab. 2017 Feb 7;25(2):262-284. doi:10.1016/j.cmet.2016.12.022. PMID 28178565; PMC 5313038.
  2. ^ Vidali S, Aminzadeh S, Lambert B, Rutherford T, Sperl W, Kofler B, Feichtinger RG. Mitochondria: The ketogenic diet--A metabolism-based therapy. Int J Biochem Cell Biol. 2015 Jun;63:55-9. doi:10.1016/j.biocel.2015.01.022. Epub 2015 Feb 7. PMID 25666556.
  3. ^ Cox PJ, Kirk T, Ashmore T, Willerton K, Evans R, Smith A, Murray AJ, Stubbs B, West J, McLure SW, King MT, Dodd MS, Holloway C, Neubauer S, Drawer S, Veech RL, Griffin JL, Clarke K. Nutritional Ketosis Alters Fuel Preference and Thereby Endurance Performance in Athletes. Cell Metab. 2016 Aug 9;24(2):256-68. doi:10.1016/j.cmet.2016.07.010. Epub 2016 Jul 27. PMID 27475046.
  4. ^ Soto-Mota A, Vansant H, Evans RD, Clarke K. Safety and tolerability of sustained exogenous ketosis using ketone monoester drinks for 28 days in healthy adults. Regul Toxicol Pharmacol. 2019 Dec;109:104506. doi:10.1016/j.yrtph.2019.104506. Epub 2019 Oct 23. PMID 31655093.
  5. ^ Soto-Mota A, Norwitz NG, Clarke K. Why a d-β-hydroxybutyrate monoester? Biochem Soc Trans. 2020 Feb 28;48(1):51-59. doi:10.1042/BST20190240. PMID 32096539; PMC 7065286.
  6. ^ Soto-Mota A, Norwitz NG, Clarke K. Why a d-β-hydroxybutyrate monoester? Biochem Soc Trans. 2020 Feb 28;48(1):51-59. doi:10.1042/BST20190240. PMID 32096539; PMC 7065286.
  7. ^ Myette-Côté É, Caldwell HG, Ainslie PN, Clarke K, Little JP. A ketone monoester drink reduces the glycemic response to an oral glucose challenge in individuals with obesity: a randomized trial. Am J Clin Nutr. 2019 Dec 1;110(6):1491-1501. doi:10.1093/ajcn/nqz232. PMID 31599919; PMC 6885474.
  8. ^ Soto-Mota A, Vansant H, Evans RD, Clarke K. Safety and tolerability of sustained exogenous ketosis using ketone monoester drinks for 28 days in healthy adults. Regul Toxicol Pharmacol. 2019 Dec;109:104506. doi:10.1016/j.yrtph.2019.104506. Epub 2019 Oct 23. PMID 31655093.
  9. ^ Clarke K, Tchabanenko K, Pawlosky R, Carter E, Todd King M, Musa-Veloso K, Ho M, Roberts A, Robertson J, Vanitallie TB, Veech RL. Kinetics, safety and tolerability of (R)-3-hydroxybutyl (R)-3-hydroxybutyrate in healthy adult subjects. Regul Toxicol Pharmacol. 2012 Aug;63(3):401-8. doi:10.1016/j.yrtph.2012.04.008. Epub 2012 May 3. PMID 22561291; PMC 3810007.
  10. ^ Benedet A, Manuelian CL, Zidi A, Penasa M, De Marchi M. Invited review: β-hydroxybutyrate concentration in blood and milk and its associations with cow performance. Animal. 2019 Aug;13(8):1676-1689. doi:10.1017/S175173111900034X. Epub 2019 Mar 11. PMID 30854998.
  11. ^ Ježek J, Cincović MR, Nemec M, Belić B, Djoković R, Klinkon M, Starič J. Beta-hydroxybutyrate in milk as screening test for subclinical ketosis in dairy cows. Pol J Vet Sci. 2017 Sep 26;20(3):507-512. doi:10.1515/pjvs-2017-0061. PMID 29166271.

ケトーシス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/19 00:50 UTC 版)

高血糖症」の記事における「ケトーシス」の解説

通常炭水化物摂取すると、体内ブドウ糖合成され高血糖状態になる。インスリンブドウ糖細胞への取り込み促進し脂肪細胞からの脂肪酸放出抑制妨害し、それによって身体脂肪ではなくブドウ糖最優先エネルギー源にするよう促進するインスリン肝臓でのケトン体産生抑制し脂肪沈着促進し主要な代謝燃料循環濃度までも低下させる。。一方炭水化物をほとんど含まず脂肪分が豊富な食事を摂ると、肝臓脂肪脂肪酸(Fatty Acids)とケトン体分解するケトン体は脳に入りブドウ糖代わるエネルギー源として消費される血中ケトン体濃度の上昇は「生理的ケトーシス」(Neutritional Ketosis)と呼ばれ、この状態になると、癲癇発作頻度低下させる。なお、この「生理的ケトーシス」と、糖尿病患者体内で起こる「糖尿病性ケトアシドーシス」(Diabetic Ketoacidosis)は全くの別物であり、両者明確に区別される

※この「ケトーシス」の解説は、「高血糖症」の解説の一部です。
「ケトーシス」を含む「高血糖症」の記事については、「高血糖症」の概要を参照ください。

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