違憲審査基準 違憲審査基準の分類

違憲審査基準

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/17 06:12 UTC 版)

違憲審査基準の分類

裁判所の違憲審査基準は、人権の種類と制限目的・規制目的により、緩やかな基準厳格な審査基準合理的差別についての判定基準に大別適用するものとされる。

緩やかな基準

緩やかな基準には、明白性の原則・合理性の基準と厳格な合理性の基準がある。

明白性の基準

明白性の基準とは、法律が著しく不合理であることが明白でない限り合憲とする審査基準である。明白性の原則ともよばれる。経済的自由権や社会権に積極目的規制がされる場合に適用される。

合理性の基準

合理性の基準とは、法律の目的・手段が著しく不合理でない限り合憲とする基準である。これも、経済的自由権や社会権に積極目的規制がされる場合に適用される。

明白性の原則と合理性の基準の使い分けには明確なルールはないが、明白性の原則のほうがよく主張される傾向にある。

厳格な合理性の基準

厳格な合理性の基準は、他の緩やかな規制では立法目的を十分達成できないときに限り合憲とする基準である。緩やかな審査基準が妥当する場合で、消極目的規制の場合に適用される。

この基準は薬局距離制限事件においてはじめて述べられ、経済的自由(この事件では「職業選択の自由」)に対して採用された。この判例が示した基準は「厳格な合理性の基準」と呼ばれるようなり、学界からも支持され定説となるに至った。

「社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要する」(最高裁判所判決昭和43年(行ツ)第120号)

後述するLRAの基準が「他の規制手段が不存在のときに合憲」とするのに対して、この基準は「他の規制では立法目的を十分達成できないときに合憲」とする点で異なる。

厳格な審査基準

合憲性推定の原則が排除され、当該規制立法の目的が真にやむを得ない目的(利益)であるか、手段(規制方法)が目的を達成するために必要最小限(必要不可欠)なものであるかを判断し(過大包摂・過小包摂は許されない)、これが認められる場合には当該規制を合憲とする基準。精神的自由権等の重要な人権に当てはまる(表現の自由内容規制等)

漠然性ゆえに無効の法理、過度に広汎ゆえに無効の法理、LRAの基準明白且つ現在の危険利益衡量の基準がある。前4種は公的言論や参政権等の特に重要な人権に適用され、利益衡量の基準はそれ以外の重要性がやや劣る精神的自由権等に適用される。

より制限的でない他の選びうる手段の基準(LRAの法理)

より制限的でない他の選びうる手段の基準(Less Restrictive Alternative,LRA)の法理(基準)とは、人権規制立法の手段審査に関して用いられる基準の一つで、当該目的を達成するためにより制限的でない他の選びうる手段が存在しない場合に合憲とする基準をいう。

例えば、デモ行進の実施には役所の許可が必要であるとする公安条例があった場合に、この制限は公衆の安全・秩序の確保を目的とするから目的は正当だが、許可制より緩い届出制でもその目的は達成できるので、この条例は表現の自由に対する過度の規制であり違憲である、という具合である。表現の自由に対する内容中立規制などの立法の審査基準として有用とされる。日本では、裁判所においては表現の自由の規制の違憲審査に「LRAの基準」が使用されたのは下級審の裁判例においてのみである。

利益衡量の基準

得られる利益と失われる利益を比較衡量し、いずれが重大かによって決する手法である。[要検証]

平等権侵害についての判定基準

日本国憲法第14条平等権の侵害の有無の判定においては、上記の基準とは別の意味で、「厳格な審査テスト」「合理性の基準」「厳格な合理性の基準」といった基準を提唱する説がある。[要検証]

すなわち、この説では、14条後段において列挙されている事項について特別の法的意義を認め、それらについて平等権が問題となる場合は、「厳格な審査テスト」を提唱する。「厳格な審査テスト」では、やむにやまれぬ政府利益達成のために、その別異の取扱いが必要不可欠か否かを厳格に問う。

また、14条後段列挙事由以外については、原則として、合理性の基準を提唱する。合理性の基準とは、ある法律の立法目的に一応合理性があり、別異の取扱いをすることが、立法目的と合理的関連性を有せば足りるとされる。

精神的自由ないしそれに関連する権利については、「厳格な合理性の基準」を提唱する。立法目的が必要不可欠ないしやむにやまれぬとまではいえないが、重要な公共の利益のため必要であり、その手段が目的達成のため、事実上の実質的な合理的関連性を有することを要することが問われる。

もっとも、判例[3]が14条後段列挙事由を「例示的なものであ」(判例[3]より引用)るとしていることもあり、上記の学説が支配的な見解となるには至っていない。

目的 手段
厳格審査基準 必要不可欠 是非とも最小限度
厳格な合理性 重要な利益 実質的関連性(手段が目的との関係で効果的で過度でない場合)
合理性の基準 正当な利益 合理的関連性

表では、上の基準ほど厳しい(違憲になりやすい)基準を示す。


  1. ^ 最高裁判所(薬事法違憲判決、昭和43年(行ツ)第120号)
  2. ^ a b c d e 芦部, 信喜、高橋, 和之『憲法』(第8版)岩波書店、2023年9月、247-252,256-258頁。ISBN 9784000616072 
  3. ^ a b 最大判昭和39・5・27


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