超伝導 超伝導の概要

超伝導

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/20 14:26 UTC 版)

マイスナー効果ピン止め効果によリ、超伝導体の上に浮かぶ磁石

超伝導状態下では、マイスナー効果(完全反磁性)により外部からの磁力線が遮断され(磁石と超伝導体との間には反発力が生ずる)、電気抵抗の測定によらなくとも、超伝導状態であることが判別できる。

その微視的発現機構は、電気伝導性物質内では自由電子間の引力が低エネルギーでは働き、その対が凝縮状態となることによると説明される(BCS理論)。したがって、低温度下では普遍的現象ともいえる。

この温度が室温程度の物質を得ること(室温超伝導)は、材料科学の重要な研究目標の一つである。

超電導」と表記されることもある[1] [2] [3] [4]。「超電導」の表記については、1926年(大正15年)の『理化学研究所彙報』(理化学研究所発行)の誤植がもとになっている可能性が指摘されている [5]

概要

金属は温度が下がると電気伝導性が上がり、逆に温度が上がると伝導性は減少する[6](純粋な金属の抵抗率は温度の3乗に比例する)。この原因は、温度の上昇に伴う格子振動の増大により、伝導電子がより散乱されるためである[7]。この性質から、絶対零度に向けて純粋な金属の電気抵抗はゼロになることが昔から予想されていた。

このことを検証する過程で、1911年にヘイケ・カメルリング・オンネスによって超伝導が発見された。超伝導となる温度(臨界温度、Tc)は金属によって異なり、例えばニオブは9.22 K、アルミニウムは1.20 Kとなる[7]

特定の物質が超低温に冷やされた時に起こる現象は「超伝導現象」(: superconductivity phenomenon)、超伝導現象が生じる物質のことは「超伝導物質」(: superconductor)、超伝導物質が超伝導状態にある場合「超伝導体」と呼ばれる。

液体窒素の沸点である−196℃ (77 K) 以上で超伝導現象を起こすものは特に高温超伝導物質 (: cuprate superconductor) と呼ばれる。

物質が超伝導状態になることは相転移の一種であり、超伝導相に移り変わる温度を、(超伝導)転移温度という。超伝導に転移する前の相は常伝導という。

超伝導体には電気抵抗がゼロになる他にも、物質内部から磁力線が排除されるマイスナー効果によって「磁気浮上」現象を起こす。この時、磁力線の強度への応答の違いから第一種超伝導体 (: type-I superconductor) と第二種超伝導体 (: type-II superconductor) とに分類される。第二種超伝導体では磁力線の内部侵入を部分的に許すことで高強度の磁力に対してマイスナー効果が発生する。第二種超伝導体では、ピン止め効果によりゼロ抵抗を維持している。

ゼロ抵抗ではあるが電流が無限量で流れるわけではなく上限値があり飽和電流と呼ばれる。超伝導電流は伝導体の内部ではなく表面を流れるという特性により、飽和電流は伝導体径の一乗にしか比例せず、伝導体径の二乗に比例して伝導体内部を流れる常伝導電流に比べ、径の1/4に半比例して減少する。よって同じ飽和電流を得るための伝導体線径は常電導よりも非常に太くなる。

これらの現象はいずれも、量子力学的効果によって起きていると考えられ、基本的機構はBCS理論によって説明される。ただし、高温超伝導体の引力機構に対しては、BCS理論の電子・格子振動相互作用だけでは説明がつかず物理学の未解決問題の一つである。

用途

超伝導は、日常では扱わない低温でしか発生しない現象で、その冷却には高価な液体ヘリウムが必要なことから、社会での利用は特殊な用途に限られていた。

20世紀末にようやく上限温度(転移温度)が比較的高く安価な液体窒素で冷却できる高温超伝導体が相次いで発見されてから一般への認知も大きく進んだ。今後はさらに一般的な低温環境や室温で機能する実用的な超伝導体の発見が期待されている。

2019 年現在、超伝導の課題は「高 Jc 基盤技術開発」「高性能長尺線材開発」「機器対応特殊性能向上技術開発」である[8]

  • 高 Jc 基盤技術開発には、「配向基板・中間層形成技術」、「超伝導層・金属基板反応抑制技術」、「超伝導層内不純物抑制技術」、「金属基板平坦化技術」、「電気的・化学的安定化技術」と発展途中である 「大面積成膜」、「自己配向化技術」、「高速配向材料」が必要である。
  • 高性能長尺線材開発には、「高 Ic 特 性長尺超伝導層形成技術」、「特性均一化技術」、「機械的高強度技術開発」、「低コスト技術開発」と発展 途中である「マルチブルームマルチターン」、「基板温度制御」、「反応機構解析」、「仕込み組成制御」、 2 「ガス流制御」が必要である。
  • 機器対応特殊性能向上技術開発には、「人工ピン止め点制御技術」、「高精度スクライピング技術」、「高エンジニアリング臨界電流密度化」、「等方性線材」、「超伝導(低抵抗) 接続技術」、と発展途中である「微細人工ピン材料」、「UTOC−MOD 法」、「エキシマレーザー加工技術」が必要である。

また、今後はさらに一般的な低温環境や室温で機能する実用的な超伝導体の発見が期待されている。

歴史

1911年、オランダのヘイケ・カメルリング・オンネスによって「純度の高い金属が容易に得られる水銀を液体ヘリウムで冷却していったとき、温度4.20 Kで突然電気抵抗が下がり4.19 Kではほぼゼロの10万分の1Ω以下になる現象」が報告された。ヘリウムの液化と超伝導の発見によって1913年ノーベル物理学賞が授与された[9][10]

1933年にドイツのヴァルター・マイスナーによって超伝導体が外部磁場を退けるマイスナー効果が発見された。これにより、超伝導体は完全導体とは異なることが決定付けられた。1935年にロンドン兄弟(フリッツ・ロンドンハインツ・ロンドン)が発表したロンドン方程式により、マイスナー効果は理論的に説明された。

1950年ヴィタリー・ギンツブルグレフ・ランダウが、上記ロンドン理論より一歩進んだ現象論であるギンツブルグ-ランダウ理論を発表した。この理論には、超伝導の程度を表すオーダーパラメータが使われた。

1953年に最高転移温度17 Kを示すニオブスズ (Nb3Sn) が発見された。これは結晶構造からA15型超伝導体とよばれた。

1957年に発表されたジョン・バーディーンレオン・クーパージョン・ロバート・シュリーファーらのBCS理論により、超伝導現象の基本的な発現機構が解明された。

1980年代に発見された銅酸化物高温超伝導体や、21世紀になって見つかった二ホウ化マグネシウム (MgB2) 、2008年に報告された鉄系超伝導物質などを実用化する試みが続いている。

2020年10月14日には267GPaの高圧下ながら炭素質水素化硫黄(CH8S)が、287.7K(15℃)で超伝導状態になることをニューヨーク州ロチェスター大学のグループが発見、Nature紙で報告し、初の摂氏0℃を超える報告となった[11]高温超伝導を参照)。

より高い温度で超伝導を起こす物質を探すなど、最初の発見から100年以上経った2020年現在でも超伝導についての研究が盛んに行なわれている。


  1. ^ 超「電」導のひみつ(上)――リニア新幹線、浮上せよ、ことばマガジン(朝日新聞デジタル)、2014年6月19日。
  2. ^ 超「電」導のひみつ(中) ――電気の時代にピタリ、ことばマガジン(朝日新聞デジタル)、2014年7月3日。
  3. ^ 客の通り道は「動線」?「導線」?”. 毎日ことば. 毎日新聞社 (2021年6月24日). 2022年11月17日閲覧。
  4. ^ 超伝導と超電導”. 最近気になる用語. 日本冷凍空調学会. 2022年11月17日閲覧。
  5. ^ 超「電」導のひみつ(下)――理研の威光から生まれた、朝日新聞デジタル ことばマガジン、2014年7月10日。
  6. ^ 大澤 p.11-35 I. 金属の化学 1. 金属とは
  7. ^ a b 齋藤 p.32-50 I. 金属の化学 2. 金属の物理的性質
  8. ^ 和泉輝郎. “超電導が拓く夢の世界を目指して~希土類系超伝導線材開発の現状と将来展望~
  9. ^ 木下淳一著 『超伝導の本』 日刊工業新聞社 2003年3月30日初版1刷発行 ISBN 4526051039
  10. ^ 村上雅人著 『超伝導の謎を解く』 シーアンドアール研究所 2007年7月2日初版発行
  11. ^ 物理学:水素化物の室温超伝導”. Nature Japan (2020年10月15日). 2020年11月6日閲覧。
  12. ^ Tinkham, Michael (1996). Introduction to Superconductivity. Mineola, New York: Dover Publications, Inc.. p. 8. ISBN 0486435032 
  13. ^ E. Maxwell (1950). “Isotope Effect in the Superconductivity of Mercury”. Physical Review 78 (4): 477. Bibcode1950PhRv...78..477M. doi:10.1103/PhysRev.78.477. 
  14. ^ José A.Flores-Livas (29 April 2020). “A perspective on conventional high-temperature superconductors at high pressure: Methods and materials”. Physics Reports 856: 1–78. arXiv:1905.06693. Bibcode2020PhR...856....1F. doi:10.1016/j.physrep.2020.02.003. 
  15. ^ 斉藤軍治、「有機超伝導体」 『日本ゴム協会誌』 1988年 61巻 9号 p.662-672, doi:10.2324/gomu.61.662
  16. ^ 鹿児島誠一、「もうひとつの超伝導: 有機超伝導」 『日本物理学会誌』 1990年 45巻 4号 p.249-256, doi:10.11316/butsuri1946.45.249
  17. ^ 守谷亨、「有機超伝導と高温超伝導: 起源は同じか?」 『日本物理学会誌』 1999年 54巻 12号 p.984-987, doi:10.11316/butsuri1946.54.984
  18. ^ Steglich, F.; Aarts, J.; Bredl, C. D.; Lieke, W.; Meschede, D.; Franz, W.; Schäfer, H. (1979-12-17). “Superconductivity in the Presence of Strong Pauli Paramagnetism: Ce${\mathrm{Cu}}_{2}$${\mathrm{Si}}_{2}$”. Physical Review Letters 43 (25): 1892–1896. doi:10.1103/PhysRevLett.43.1892. https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.43.1892. 
  19. ^ Petrovic, C; Pagliuso, P G; Hundley, M F; Movshovich, R; Sarrao, J L; Thompson, J D; Fisk, Z; Monthoux, P (2001-04-30). “Heavy-fermion superconductivity in CeCoIn 5 at 2.3 K”. Journal of Physics: Condensed Matter 13 (17): L337–L342. doi:10.1088/0953-8984/13/17/103. ISSN 0953-8984. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0953-8984/13/17/103. 
  20. ^ E. Bauer (2004). “Heavy Fermion Superconductivity and Magnetic Order in Noncentrosymmetric CePt3Si”. Phys. Rev. Lett. 92 (2): 027003. arXiv:cond-mat/0308083. Bibcode2004PhRvL..92b7003B. doi:10.1103/PhysRevLett.92.027003. PMID 14753961. 
  21. ^ Mathur, N.D.; Grosche, F.M.; Julian, S.R.; Walker, I.R.; Freye, D.M.; Haselwimmer, R.K.W.; Lonzarich, G.G. (1998). “Magnetically mediated superconductivity in heavy fermion compounds”. Nature 394 (6688): 39. Bibcode1998Natur.394...39M. doi:10.1038/27838. 
  22. ^ Ott, H.R.; Rudigier, H.; Fisk, Z.; Smith, J.L. (1983). “UBe13: An Unconventional Actinide Superconductor”. Phys. Rev. Lett. 50 (20): 1595. Bibcode1983PhRvL..50.1595O. doi:10.1103/PhysRevLett.50.1595. http://www.escholarship.org/uc/item/18w6w653. 
  23. ^ Stewart, G.R.; Fisk, Z.; Willis, J.O.; Smith, J.L. (1984). “Possibility of Coexistence of Bulk Superconductivity and Spin Fluctuations in UPt3. Phys. Rev. Lett. 52 (8): 679. Bibcode1984PhRvL..52..679S. doi:10.1103/PhysRevLett.52.679. http://www.escholarship.org/uc/item/6px8s7q3. 
  24. ^ Palstra, T. T. M. and Menovsky, A. A. and Berg, J. van den and Dirkmaat, A. J. and Kes, P. H. and Nieuwenhuys, G. J. and Mydosh, J. A. (1985). “Superconducting and Magnetic Transitions in the Heavy-Fermion System URu2Si2”. Phys. Rev. Lett. 55 (24): 2727–2730. Bibcode1985PhRvL..55.2727P. doi:10.1103/PhysRevLett.55.2727. PMID 10032222. https://research.rug.nl/en/publications/ade9b7b6-f4eb-4973-bfbe-7837626183c0. 
  25. ^ Geibel, C.; Schank, C.; Thies, S.; Kitazawa, H.; Bredl, C.D.; Böhm, A.; Rau, M.; Grauel, A. et al. (1991). “Heavy-fermion superconductivity at Tc=2K in the antiferromagnet UPd2Al3”. Z. Phys. B 84 (1): 1. Bibcode1991ZPhyB..84....1G. doi:10.1007/BF01453750. 
  26. ^ Geibel, C.; Thies, S.; Kaczorowski, D.; Mehner, A.; Grauel, A.; Seidel, B.; Ahlheim, U.; Helfrich, R. et al. (1991). “A new heavy-fermion superconductor: UNi2Al3”. Z. Phys. B 83 (3): 305. Bibcode1991ZPhyB..83..305G. doi:10.1007/BF01313397. 






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